3-3

「マスターどうでした。ユキさんの妹さんは」

「雰囲気あるね」

「雰囲気」カオルが聞き返す。

「そう、雰囲気。大事だよね」

 開店したばかりで、まだシルバー・ピストルには客がいない。こんな時間にカオルが店にいるのは久しぶりだった。

「カレシがついてきたよ。ユキさんといっしょに」

「知り合いなんだろう」

「ヒロさん変わってないのかな」カオルがつぶやく。

「オレにはわからないけど」

「そうですよね。明日会えるのかな」

「明日は来ないみたいだよ、カレシ」

 カオルはマスターから少し顔をそらした。

「会いたかったのかい」

「しばらく会ってないので」カオルはため息を飲みこんだ。

「連絡先とか知らないんだ」

「こっちに関係するものはみんな消していっちゃったから」

 ブラッディ・マリー。マスターはカクテルをカオルの前に置いた。

「ちょっとキツめにしておいた」

「ありがとう」

 カオルは赤いカクテルを一口飲む。店のドアが開いて客が入ってきた。カオルは立ち上がって客に声をかける。

「カオルちゃんめずらしいじゃない。こんな時間に」

「たまにはね」

 常連のコウちゃんが席に着くと、カオルはカウンターの中に入るため、店の奥のほうに歩いていく。

「そういえば、駅の歩道橋で歌ってる女の子がいたよ」

「まだ歌ってるかな」カオルがコウちゃんにきく。

「まだやってるんじゃないかな」

 それを聞いてカオルはマスターのほうを見た。マスターがうなずく。

「コウちゃんごめんね。一人で飲んでて」

 そう言ってカオルは店を出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る