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「シルバー・ピストル」では、久しぶりのライブが行われていた。店の奥のステージで歌っているのはマスターの友人のユーちゃん。プロのミュージシャンではないが、あちこちのライブハウスで歌っている。関係者にも顔が広い。

「ユーちゃん、久しぶりですね」常連客のコウちゃんが声をかける。

「なんかね。最近マスターがその気にならなくて」

「ライブハウスではやってますから今度来てください」

 そう言ってユーちゃんはコウちゃんにフライヤーを渡す。

 店の中は熱気であふれていたけれど、カオルはこの雰囲気があまり好きではなかった。常連客もライブの日を避けるようになってきている。

 そんなこともあってしばらくライブをしていなかったようだ。

「カオルちゃん、感じ変わったんじゃない」

 ライブ目当ての客も帰って店内が落ち着きはじめたころ、ユーちゃんがカオルに声をかけた。

「そうですか」カオルが気のない返事をする。

「色気が出てきたでしょう」カウンターにいたコウちゃんが言う。

「男か」ユーちゃんが笑みをうかべる。

「ご想像に」

「ユーちゃんカオルちゃんに気があったんじゃないの」

「そんなことないですよ」

 カオルが二人の前で作り笑いをする。

「ユーちゃん誰かいないかなライブやってくれる人」

 マスターがユーちゃんに声をかける。

「いくらでもいるけど」

 ユーちゃんの持っているバーボンのロックの氷がカラカラと音を立てた。

「でもマスター、ライブあまり乗り気じゃないみたいだし」

「何て言うか、あまり知られてない人がいいんだよね。そういう人を何人か集めて出てもらうとか」

「無名な子ねえ」

「そういえば、ストリートで歌ってた女の子が突然消えちゃったって、ちょっとしたウワサになってたな」


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