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「まあ、そんなところです」

 マスターはウォッカベースのドライマティーニをユキの前に置く。

「あたしね、ジンベースのマティーニしか飲んだことがないの」

「昔見た映画を思いだして」

「私を愛したスパイですか」

「そう、ビデオを借りて見たの。ある人にすすめられて」

「どうして自分の住んでいるところに呼ばなかったの」

 マスターはユキの質問に答えなかった。

「仕事やめてできたんでしょう」

「そんなところです。いろいろあったので」

「子どもは」

「います二人」

「男の子と女の子」

「わかります」

「なんとなくね。あたしも結婚したら男の子と女の子ひとりづつ欲しいから」

「結婚はされてないんですか、一度も」

「してないの。できるかな」

「できますよ、ユキさんなら」

「でも失敗してる人ばかり見てるから」そう言ってからユキはハッとしてマスターの顔を見た。

「悪いことばかりじゃありませんよ。私だって最初はうまくいっていましたから。結局こういうことになってしまいましたけど」

「お子さんに会いたいでしょう」

「もうあきらめてます」

「近くにはいないんですか」

「母親といっしょに実家に帰っちゃいました。小さい町でコンビニをやっているんです」

「おやじさんが体調崩しちゃって」

 ユキがマティーニを飲み干した。

「おかわりは」

「いただきます」

「酔っぱらっちゃいますね」

「いいんじゃないですか、たまには」

 マスターはウォッカベースのマティーニを作りはじめた。

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