第18話 (ゲーム実況者スカルチノフ視点)旧友との再会(上)
思いがけない旧友との再会は、しかし、予想だにしていなかった形で実現された。
こんな形で再会を果たせるとは思ってもいなかったが、嬉しくないわけではない。
身体よりも大きな鎌を構えなおすと、デュエル申請が送られて来た。
こういう形式で戦うのか? NPCのエネミーなのに律儀なやつだ、と感心して旧友の方を見ると、ジュンスケは笑顔を見せて喋り始めた。
「久しぶりだね、スカルチノフ。……その様子だと、実況者として復活しているのだと推測するよ。ちゃんと昔のリスナーたちが戻っていれば嬉しいのだけど」
……は?
ジュンスケの言葉が予想外過ぎて全く頭に入って来なかった。
「ちょっと待て。お前、NPCだろ? どうして俺がゲーム実況を《WHO》以前からやっていたことを知っているんだ? もしかして、《WHO》は俺たちの個人情報を勝手に収集していたんじゃないだろうな?」
ジュンスケは悲しそうな表情を浮かべ、
「どうして、って僕が君と何年もゲームをやって来たからに決まっているじゃないか。《WHO》が始まる前の実況動画に何度もゲストとして協力した仲だろう? もしかして、たったの半年で僕のことを忘れてしまったのかい? まったく、薄情なやつだ」
「ち、違う! 俺がお前のことを忘れるわけがない! お前のおかげで今ここに立っているとも思っているぐらいだ! だがなぁ、お前はあの時、俺を庇って死んだだろ? 中の人も、魂もないNPCだろ? そんなやつがどうしてジュンスケのアバターを使って、ジュンスケの記憶まで使ってペラペラ喋ってんだ!」
「そりゃあ、僕が他ならぬジュンスケその人だからだよ。例え人間としての肉体が既に消失しているとしても、ね」
「じゃあ結局NPCってことだろ?」
「いや、僕は僕だよ。僕の思考回路がサーバーの中のデータの一つになっているのだとしても、僕は僕だ。まあ、君が僕のことを人工知能か何かだと思ってしまうのも無理はないだろう。実際、僕は君と戦いたくはないが戦わなくちゃならない立場になっているからね」
「ほら、やっぱりお前はジュンスケのアバターに過ぎない。中身が空っぽなんだよ。自分で戦いを避けられないことが何よりの証拠だ。命じられたことしか出来ない機械なんだよ!」
目の前の優男が儚げに笑う。何でこんな表情をするんだ、こいつは……。生前とそっくり過ぎて気味が悪い。
「僕も君もそんなに変わらないさ。デュエルを始めれば君も戦うことしか出来ないだろう? 現実世界で生きていくためには、どうにかして日々の糧を得なくちゃならないだろう? 僕の……僕たちのこの仕事も、そういったこととほとんど変わらないのさ」
「くそっ……難しい話ばっかりしやがって……。そろそろ知能指数が俺と同じぐらいのリスナーさんが飽きて帰っちまうところだ。つべこべ言わずに、デュエルを始めようじゃないか!」
自分の中の闘争本能が自然と俺の口元をほころばせる。
それに応えるように、ジュンスケもニヤリと笑った。
確かに、あいつも今まで、ボス戦などの大勝負の前では少し笑う癖があった。
ここまで再現度が高いのか、とすっかり感心してしまう。
だが、感情や思考回路だけを真似していても、肝心の戦闘技術が本物かどうか……この目で確かめてやる。
デュエル申請を許可するとカウントダウンが始まった。
目の前の数字がゼロになると、相棒とも言えるデスサイズを短めに握り、刃の部分で自分の身体を極力隠しながら接近する。
俺がマイナー武器である鎌を愛用していたように、相手もまた弓を使いこなしていた。
長らくタッグを組んでいれば、マイナーな武器が相手であっても対処法は分かりやすい。
相手は後方に飛び退きながら矢を放ってきた。
直線的に飛んでくる弓矢は、どれだけスピードが速くても軌道が分かるため、避けやすい。
しかしながら、一度に何本も矢を放たれると、対処がとても面倒になる。
相手の矢をまともに受けるわけにはいかない。ヤツの矢は何らかの状態異常を付与してくる効果が付いている可能性が高いからだ。一対一の今、麻痺状態や睡眠状態にされたら打つ手がなくなる。
物理法則を無視した軌道の弓矢も混じった雨霰を捌き続ける中で、思わず弱音が漏れた。
「こりゃ弾切れを狙った方が良いのかもしれないな……」
「弱気じゃないか、スカルチノフ。でも忘れたのかい? 《WHO》や《YDD》はリアル重視のゲームじゃないから、一番弱い矢は無限に供給されるんだ。つまり、このゲームに於いて、弾切れという概念は存在しない!」
「すっかり忘れてたよ、んなこと!」
弓なんか一度も使ったことが無かったからな。
このままでは埒が明かない。
デスサイズもそれなりに広範囲に攻撃出来るものだが、長さがあと一歩足りない。
ならば、別の鎌を使うしかないだろう。
相手の弓矢を弾いた直後に、持っていたデスサイズを投げる。
回転しながら迫っていくそれを相手が避けている間に、今のデスサイズの代わりに鎖鎌を装備する。
先ほどより刃の面積が遥かに小さくなったため、盾のような使い方こそ出来ないものの、届く範囲が全く違う。
防御が薄くなるのだから、ここからは短期決戦だ。
鎖の先に付いている分銅を、投擲スキルを駆使して投げる。
「くっ、思っていたより伸びるじゃないか!」
「これは特注品だからな、特別に長く作ってもらっているんだよ!」
鎖自体は避けられたが、相手に大きな隙が出来たため、その間に距離を詰める。
焦りの表情を見せた相手の弓の本体が光った。
「近接戦闘が欠片も出来ないとは思うなよ。喰らえ、《ボウ・スラッシュ》!」
ステップで避けようとしたが、予想以上に早く振られたため、仕方なく鎌で受け止める。
「うぐっ……意外と重いな。だが、前線に立っていれば、相手のスキルを普通の状態で受け流す技術も身につくんだよ!」
上手く相手の力を流し、スキル使用後の致命的な硬直時間を発生させる。
ここで相手を倒すことも出来たが、危険を顧みず、動きが止まった相手の両手を鎖で捕縛した。
鎌を喉元に突き付けながら、
「前衛と後衛がタイマンしたら流石にこうなるよな。……さて、お前には幾つか尋ねておきたいことがある」
相手は落ち着き払った表情で、
「何だい? 僕が知っている範囲なら何でも応えよう」
と気前よく言ってくれた。
コメント欄も沸き立っている。
普段の配信ならこの後何を訊くかアンケートを取るところだが、今は第三者の干渉を極力避けたい気分だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます