第3話


「こちらが謁見の間でございます」


 サラディに従い、しばらく歩くとまさに王のの居城と言っても恥ずかしくないような内装になった。寒々しい石造りの古城から、暖色の装飾を散りばめた明るい、想像通りの豪奢な城へと変貌した。


 それぞれの価値が分からないサトルにとっては一見無駄の塊のようにも見えるが、王族や貴族とは見栄が全てだ。舐められたらそこで終わり、それが国家間であればその国全てが侮られる結果となる。


 それが国民の血税で賄われているとなっても必要なのかもしれない。


 サラディが扉の前で警備を務めているフルプレートの兵士二人に指示を出し、人一人では開けるのさえも難儀しそうな大扉を開けさせる。


 さすがに謁見の間とあって豪華絢爛である。天井からは巨大なシャンデリアが吊り下げられ、メロベキアの紋章であろうマークの垂れ幕がいくつも見える。


「よくぞ参った勇者よ!」


 口を開いたのは奥の玉座に座る現メロベキア王であろう。数多くのフルプレートの兵士や貴族らしき人々が謁見の間に集められている。皆が勇者召喚によって呼び出されたサトルを一目見るためにやって来ているのだろうか。


 この世界に来た瞬間は召喚を実行したであろう魔導士の態度や召喚酔いによる頭痛で酷く気分を害していたし、突然の事で心が状況を飲み込めていなかった。しかし、ようやく自分が異世界へとやってきたのだと言う実感が湧いてくる。


 幼い頃、両親に連れられてレジャー施設にやってきたような、そんな高揚感が心の奥底からやってくる。先程まで沈んでいた心が嘘のようだ。


「我はメロベキア王、アブラハムである。急な呼び立てで申し訳ないと思っておるのだが、お主の名前を教えてはくれぬか?」

「俺――私は仲城覚でございます」


 玉座に座る王もやはり立派な髭を蓄えている。恰幅が良く、裕福を身体で示したような中年のおじさんだ。その立派な髭を右手でさすりながらの自己紹介。勿論一介いっかいの高校生であるサトルに王へ失礼のないよう接する術は持ち合わせていない。出来る限り相手を敬うような態度で挑む。


 ん? 高校生とはいかな身分であっただろうか?


 慣れ親しんだものが遠くへ離れて行くような、大切な何か(きおく)を蝕まれていくような……


「ほう、ではサトルよ。早速お主の力を見せてはくれぬか?」


 力を見せる。つまりは己がいかに優れているかを示すことをやればいい。自己アピールと言うやつだ。しかし、それは違うとサトル自身が否定している。この世界で力を見せると言うのはステータスを開示せよと言うことだ。


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