第25話 8人のレベル5

 リンダとハルトと共に、ジョーはアルバトロスの待つTWに戻った。途中、外次元に飛び出した時のハルトの興奮は尋常なものではなく、さすがのジョーも少し辟易するような場面もあったが、なんとか三人とも無事に到着した。


「あっ、戻ってきた!」


 マッキンリーの方に行ったもう一人のジョーは、すでにアルバトロスのいるTWに戻っていた。


(こうして改めて見ると、すごく奇妙な感じね。もう一人の自分を目の当たりにするというのは。ドッペルゲンガー現象ってまさにこんな感じなのかしら?)


 後からきたリンダは、もう一人のジョーと一緒にいる自分の分身を見て少し不安に思った。


 ジョーが自分の分身と握手して元に戻ると、リンダもその真似をして元に戻った。


「さてと」


 ジョーは周りを見回しながら、見つけてきた7人のALたちの名前とレベルを確認した。


「キーマさん、ロレッタさん、ムロウさん、ヴェリッヒさん、リンダさん、マッキンリーさん、そして最後はハルト、よし!」


 尚、キーマ、ロレッタ、ムロウ、そしてヴェリッヒの四人のALたちは、いずれのALも年齢はジョーやアルバトロスと同じくらいで、しかもそれぞれが属するTWでは、いずれも相当に高い社会的地位を有する者たちだった。ジョーが彼らを見付けに行こうとしたとき、アルバトロスがジョーに言っていた「俺と同じようなALたち」とは実は彼らを意味するものであった。


 アルバトロスの家の前には、八人のレベル5が集まっていた。アルバトロスは、入り口の前の階段のところに一人で座っていて、家族やその仲間たちの姿は一人も見えなかった。


 一方、彼らの存在をはっきりと確認できるのはやはりジョーだけで、レベル5同士はお互いの姿を確認することができなかった。


「アル! 言った通り七人のレベル5を見つけてきたぞ! 分かるか?」


 アルバトロスは、ゆっくりと立ち上がった。


「姿は見えない」


「そうか、やはりあんたにも見えないか」


「見えはしないが、なんとなく気配でわかる。確かに私と同じレベルの者が七人いるようだ」


「本当か? それじゃ、約束どおり、俺たちの計画に協力してもうらうってことでいいのか?」


「いいだろう。それにしても、まさか本当に集めてくるとはな」


 ジョーはブレスレットのスイッチを入れた。


「スエズリー、聞こえるか? 返事をしてくれ!」


「……ジ……ジョー……さん、ジョーさん!」


 スピーカーからの声が徐ヶに大きくはっきり聞こえるようになった。


「ジョーさん! まだ無事ですか!!」


「ああ、なんとかね。それより喜んでくれ、八人のレベル5を見つけた。全員協力してくれるそうだ」


「ええ!? 本当ですか!?」


「本当さ!」


「レベル5のオクテットなんてとても信じられない! きっとものすごいことになりますよ!」


「ああ、俺もそう思う!」


「あっ、今はそれどころじゃないんだった。つづきはまた後で話しましょう! ジョーさん、今すぐ戻ってきて下さい。本体が今かなりやばいことになっています!」


「分かった、すぐに戻るよ」


 ジョーはアルバトロスの方に振り向いた。


「アル、俺はもう元の世界に戻らなきゃならない。他のみんなも、それぞれの世界に一旦戻ってもらうぞ」


 ジョーはそう言うと、分身して八人になった。

 その様子を見ていたアルバトロスが、待ちかまえていたように突然叫んだ。


「待て! お前にして欲しいことがある」


「なんだ? 急がなきゃいけないんだけど」


「すぐに済む。そのまま俺たちと交互に手をつないで円を作ってくれ!」


「なんだって?」


 アルバトロスがなぜそんなことをさせようとするのか分からなかったが、これから協力してもらう彼の言葉を無視するわけにはいかず、ジョーは言われた通りにした。


「他のレベル5に言うんだ。それぞれの時間軸を、両隣に居るお前の時間軸に正確に合わせろと。わずかな誤差があっても駄目だ、集中してやれと」


 ジョーはアルバトロスに言われたことを他のALたちに伝えた。


「何? 何? 何が始まるの?」


 リンダは興味深そうに聞いた。


「さあ、俺にも分からないです。アルは、とにかく、僕の時間軸に正確に合わせろって言っています」


「なんか偉そうね。でもまあいいわ。こうして手をつないでいると、確かになんとなく違和感があるわ。この感じを無くせばいいのかしら?」


 八人のレベル5は、静かに意識を集中して、ジョーの手の感触を確かめながら、時間軸を微調整した。


「あっ!」


 リンダが声を上げたのを始めとして、他のALが次々と驚きの声を上げた。これまで見えなかった自分以外の他のレベル5の姿が、はっきりと目の前に現れ出したのである。


「おお!」


 全盲のマッキンリーを除く七人のALたちは、他のレベル5の姿を初めて見ることができた。


「見える、見えるわ!」


 リンダは嬉々としてジョーに叫んだ。


「見えるって、他のレベル5の姿をですか?」


「そうよ!」


 リンダは早速、ハルトを探した。金髪の少年はすぐに見つかった。


「あなたがハルトね?」


「えっ? もしかして、リンダさんですか?」


「そうよ。初めまして」


「あっ、初めまして」


 ハルトは恥ずかしそうに顔を少し赤らめた。


「リンダさん、リンダさんはどこですかな?」


 マッキンリーがリンダの名前を呼んだ。


「げっ! そういえばあの人もいたんだわ」


 いかにもホームレスという、その風貌と臭気は、そうと気づいた他のALたちを明らかに辟易させていた。


 しかし、リンダは、ハルトと共にマッキンリーのそばに近づいていった。


「マッキンリーさんですね。初めましてリンダです」


「おお! リンダさんですか? やっとお会いできましたな」


「おわかりになるんですか?」


「もちろんですとも、あなたの匂いは決して忘れません。それにこうして直接聞いた声は、初めにあなたに抱いたイメージとぴったり重なります」


「イメージって?」


「聡明かつ辛辣、そして何より、尽きることなく溢れるような真情……ん? そこにもう一人おりますな?」


「ハルトです。初めまして」


「おお、これはこれは、その声からすると、かなりお若い方ですかな? すみませんな、目が不自由なもので、勘弁して下さいな。初めましてマッキンリーです」


 リンダ、マッキンリー、そしてハルトの三人は、どういうわけか互いに気が合うようだった。マッキンリーとハルトも、互いの力を認めるのにそれほど時間がかからなかった。


「……ガキとオカマ、そしてホームレスか、奴らは違うな」


 三人の様子を見ていたアルバトロスの周りには、残りの4人のレベル5が集まっていた。彼らは、互いに初対面であるにもかかわらず、そうなることが自然であるかのように、何か別の流れを自覚しているような様子だった。


「アルバトロスだ。よろしく」


「アルバトロスさん、どうやら我々五人は、共通の使命を担う『仲間』といってよろしいのかな?」


 元のTWで知事をしているヴェリッヒが、静かに確信を込めるように言った。


「そのようだな」


 アルバトロスは、薄い笑みで答えた。


 八人のレベル5たちは、アルバトロスを含む五人のグループと、リンダを含む三人のグループに分かれていた。


「ちょっとちょっと、あの五人はなんなの? 知り合い?」


 ハルトとマッキンリーを従えたリンダが、ジョーに尋ねた。


「いや、彼らは皆初対面のはずですよ」


「ふーん、でも傍から見た感じ、昔からの仲間みたいな雰囲気があるけど……」


「うーん、そう言われてみればそうかな?」


「私たちにも紹介してよ。どうせこれからみんなお世話になるんでしょ」


「そうですね、分かりました。アル!」


 ジョーは、アルバトロスの名前を呼んで合図をすると、アルバトロスたち五人のレベル5はジョーのところにやって来た。


「アル、紹介するよ。手前から、リンダさん、マッキンリーさん、そしてハルト君だ。そして、こちらはこの農場を経営するアルバトロスさんです」


「始めまして、リンダです。よろしく」


 リンダが右手を差し出したが、アルバトロスは握手をしようとせず、そっけなく答えた。


「ふん、こんな奴らが俺たちと同じレベルとはな、ある意味驚いたぜ」


「何ですって!?」


 侮辱ともとれるアルバトロスの言葉を聞いた三人は、カチンときて、一斉にアルの方を向いた。


「まあ、約束は約束だからな。一緒にやってやるよ。だが言っておく、レベルは同じでも実際の力には大きな差があるからな。俺たちの足を引っ張るんじゃないぞ、いいな?」


 アルバトロスのあまりに威圧的な態度に、三人は思わず閉口してしまった。


「アル、それは違うよ。正しくは、あんたの力と同等もしくはそれ以上だ」


「なに?」


「特にハルト、彼はまだ13才だけど、今のあんたよりも強い力を持ってるぜ。ほとんどレベル6と言ってもいいくらいだ」


「何!? レベル6だと?」


「ああ、今はおとなしくしてるから分かり難いだろうけどね。それに、リンダさんにしてもマッキンリーさんにしても、本当の力は今の状態とはきっと全く違うよ」


 ジョーが平気で嘘をつくような人間でないことは、もちろんアルバトロスも承知していた。しかし、三人の風貌と雰囲気からは、彼らが自分より上などという事実を簡単には受け入れることはできなかった。


「とにかくさ、足を引っ張るとか言わないで、みんなで仲良くやってよ」


 ジョーがそう言うと、リンダが前にでて言った。


「そうよ。仲違いしている場合じゃないわ。みんなでこの世界を救いましょう!」


「おお、そうじゃとも!」


 マッキンリーが大きな声で相づちをうったが、アルバトロスを中心とする五人のレベル5の反応はなぜか冷ややかだった。


「よしっ、顔合わせも済んだことだし、みんなにはこれから一旦それぞれのTWに戻ってもらうよ」


 ジョーが、彼らを送るために再び分身し始めようとしたとき、ジョーのブレスレットが異常な速度で赤く点滅していることに気づいた。その直後、


 ゴゴゴゴゴ!!


 突然、地鳴りがひびき、地面が大きく揺れ始めた。

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