第23話 ホームレス

 ジョーとリンダがやって来たそのTWは、高層ビルが立ち並び、さらにその中を高速道路や、モノレールらしき線路が何層にも立体的に交差するという、まさに近未来の大都市という形容がぴったりの世界であった。


 ジョーの他の分身たちの記憶を探っても、なかなかこれだけ発展している世界は見あたらなかった。ALの数も非常に多く、忙しなくどこかに急ぐ者がそこかしこに見られた。


 ジョーとリンダは、ほとんど未知の世界と言ってもいいほど、そのTWの文明の

程度がかなり進んでいることを肌で感じていた。


「わあー、すごいわね、ここ」


「そうですね。僕の住む世界でもここまで発展している都市はないと思います」


「ファッションも私の世界とは全然違うわ。なんて言ったらいいか、みんなすごく洗練されている感じ」


 その世界にいるALをみると、ビジネススーツなどのいわゆる制服的なものを身につけている者は少なく、おそらくは機能性、あるいは個々の意匠性を重視していると思えるような服装をしている者が多かった。


(この世界でホームレスか……文明がどれほど進んでもそういう人は存在するんだな)


 ジョーは、目を閉じて意識を再び集中し、ホームレスのレベル5を捜索した。


(ええっと……あっ、居た!)


 ジョーは、リンダの手をつかむと、その場所に一瞬でダイブした。


(この世界での移動にもだいぶ慣れてきたな)


 ジョーたちがやってきたその場所は、その都市の中を流れる川に架けられた橋の中で最も大きな橋の袂だった。


 ジョーは、その橋の袂につづく歩道脇の植え込みの縁石に、ちょこんと座っている男性を見つけた。男は、薄汚れたマントに身をくるみ、その前に小箱をおいていた。小箱にはわずかな小銭が入れられていた。


「泪橋っていうのか、この橋」


 4車線ほどの幅を持つその橋の袂には、その橋の名前を表示する立派な石柱が立っていた。


「リンダさん、この男性ですよ」


「どこよ?」


「どこって、目の前に一人で座っているこの男性です」


「は? そんな人ここにいる?」


「えっ? リンダさん、もしかしてこの人の姿が見えないのですか!?」


「私には見えないわ。そこに人なんかいないわよ!」


「そんな……」


 ジョーの目には、薄汚れたマントに身をくるんで座っているそのALの姿がはっきりと見えているのに、どういう訳かリンダには全く見えなかった。


 リンダは首を横にふりながら両手の平を上に向けると、視線をわずかに落とし、おどけるように口をへの字に曲げた。


(おかしい、なぜだ? リンダさんは今、僕と同じ時間軸にいるのに)


「ちょっとまって……何か臭わない?」


 リンダはポケットからハンカチをとりだして、鼻を押さえだした。


「におう?」


 リンダに言われてジョーはあたりのにおいをかいでみたが、とくに鼻腔が刺激されるようなことはなかった。


(? 俺には何もにおわないな。とりあえず時間軸をあのALに合わせてみよう)


 ジョーがALの時間軸を探り始めると、据えたにおいがジョーの鼻をかすめた。


「うっ、これは……」


 時間軸の調節が済むと、そのにおいの元がすぐにわかった。それは目の前のALから滾々と発せれていた。


「リンダさん、このにおい、そのALのにおいですよ。それにしても不思議ですね、姿は見えないのににおいは感じるなんて」


「においだけ分かったってどうしようもないわ。あんた、何とかしなさいよ」


「そんなこと言われても……」


 ジョーとリンダがごちゃごちゃと言い合っていると、そのALは、何かに気づいたようにゆっくりと顔を上げた。


 リンダ越しにその様子を見ていたジョーは、リンダを制して話を切り、その男にすっと近づいて言った。


「あの……マッキンリーさんですか?」


「ん? さっきの兄さんか。性懲りもなくまた来たのか?」


 男は、すでに白髪が半分くらい混じってはいるが、毛の一本一本が太くて腰のある長髪を、右の手ぐしでたわわに弾ませながら、口髭とも顎髭とも区別のつかない、もじゃもじゃの一部を動かして言った。だがこのとき一瞬、ジョーはわずかな違和感を覚えた。


(あれ? もしかしてこの人……)


 男の顔はジョーではなく、隣にいるリンダに向けられているように見えた。


 ジョーは小声でリンダに聞いた。

「リンダさん、やはり彼の姿は見えませんか?」


「見えないわよ。一体どんな人なの?」


「うーん、髪の毛とか、顔のしみや皺からすると、年齢は五十を過ぎているかもしれません。もう何年も洗っていないようなマントを羽織っていて、髪の毛とか髭とか、体毛はとにかく伸ばし放題といった感じです」


「まさにホームレスね」


 ジョーはリンダにマッキリンリーの様子をできるだけ詳細に話した。

 一方のマッキンリーは、一人で何かこそこそと話をしているジョーを不審に思い、ほんの一瞬だが感情を露わにした。


「おい、さっきからそこで何をしている?」


 マッキンリーの突然の声にジョーは、少しびっくりした。


「あ、すみません。実はもう一人、私の隣にALがいるのです。そのALもあなたと同じように、私のALの一人で、名前をリンダさんといいます」


「なんだと!?」


 マッキンリーは、構えるように顔を少し横にむけると、そのままじっと何かを待つような格好をした。


「……確かに、もう一人いるな。ああ、こっちの方がさっきの兄ちゃんか」


「失礼ですが、あなたは目が不自由なのですか?」


「フン、やっと気が付いたか。そのとおり、私は全盲だ」


「全盲!? じゃあなたは、音で私たちのことを認識しているんですね?」


「音だけじゃない。視覚以外のすべての感覚でだよ」


 マッキンリーは、息を吸い込んで大きな咳払いを一つすると、今度はジョーの方を向いてはなしを始めた。


「さっきは、足音も体臭も一人分だった。でも今は、足音は一人分しか聞こえないのに二人分の体臭がする。こんなことは初めてだよ」


「体臭? そうか、あなたもリンダさんの匂いしか感じ取ることができないみたいですね。あなたが初めに感じたのは、おそらくリンダさんの方です」


「そのようだな。前とは違う匂いだったから変だとは思ったが」


 ジョーの分身の記憶には、ホームレスであることと、何とか聞き出した彼の名前とに関する情報しかなかった。


「リンダさんの声はあなたに聞こえていないようですね。リンダさんにもあなたの声は聞こえていないし、姿も見えていません。でも、あなたのにおいだけは分かるみたいです」


「わしのにおいだけ!? ほっ、ほっ、ほっ、それは大変だな」


「ですよねー」


 マッキンリーは、後ろの植え込みの下に敷き詰められている小石を一つ取ってジョーの方に向かって投げつけた。


「うわっ! 危ない、何をするんですか!?」


「ふんっ、黙れ、このこわっぱが!」


 マッキンリーはふて腐れたように胡坐をかいた。


 ジョーは、とりあえずマッキンリーに紹介したことをリンダに伝えた。


「あの……」


「なんだ?」


「リンダさんからの質問なんですけど、リンダさんの匂いってどんな匂いですか?」


「いい匂いだよ。すこし香水が混じってるな。まったく、男のくせにそんなものつけおって」


「余計なお世話だと言っています。そっちこそ、ちゃんとお風呂に入れと」


「わははは! そうか、そうか」


 マッキンリーは快活な笑顔をみせながら小箱を引き寄せると、中の小銭をすべてマントのポケットに入れた。


「さてと、そろそろ行くか」


 マッキンリーは、傍らに置いてあった杖をつかみ立てると、自身の体重を杖に伝えてこれを支えながら、ゆっくりと立ち上がった。


「どこに行くのですか?」


「散歩だよ」


「散歩?」


 パンパンッと、マントの埃を払い落とすと、マッキンリーは意外なほどの早歩きで泪橋の方に歩いていった。


(どうしよう?)


 こちらの事情と用件はすでに伝えてあった。にもかかわらずやはりマイペースな態度をとるマッキンリーに、ジョーは困惑していた。


「ちょっと、どうしたの? 彼のにおいがどんどん遠ざかっているみたいだけど」


「散歩に行くと言って行ってしまいました」


「じゃ、追いかけなさいよ、早く」


「え、でも」


「何かあるのよ、きっと」


 リンダに促されたジョーは、あまり気の進まないまま、マッキンリーの後を追った。


 ジョーたちが追いつくと、マッキンリーは、なぜか歩道の両端をジグザグに歩いていた。


(なんだあれ? ずいぶん危なっかしい歩き方だな)


 しかし、マッキンリーは、通行人にぶつかるようなことは決してなく、それらの間をそのタイミングしかないという動きで、巧みに縫い歩いていた。


(おお、すげえ!)


 道の端に来ると、マッキンリーは持っていた杖の先で路面をすばやく数回タップした。そして、そこに落ちていた空き缶に触れると、すっとしゃがんでそれを拾い上げ、もっていたポリ袋の中に入れた。彼はそうしてちょこちょこと歩きながら、空き缶の他にも、吸い殻、紙屑、等々、そうした落ちているゴミに触れると拾う、という動作を何度も繰り返していた。


「ねえ、彼の様子はどう?」


 じっと彼を見守るジョーをみて、リンダが心配そうに尋ねた。


「あの人、ゴミ拾いをしています」


「ゴミ拾いですって?」


 ゴミ箱の置いてある場所まで来ると、マッキンリーは上体を起こして腰を伸ばし、もっていたポリ袋をゴミ箱の中に捨てた。そしてゴミ箱の横にゆっくりと腰をおろし、さっきの小箱を前に置いた。


 ジョーはリンダと共に小走りして再びマッキンリーの前にやって来た。


「マッキンリーさん、あなたはいつもああしてゴミを拾って歩いているんですか?」


「ああ、そうだよ」


 今度はジョーを拒絶する雰囲気はなく、素直な答えがかえってきた。


「もしかして毎日、しているんですか?」


「いや、毎日というわけじゃない。でもまあけっこう頻繁にやっているかなあ。他に何かやろうとも思わないし」


「普通に働くとか、したことはないのですか?」


「無いね。一度も」

 マッキンリーの見えない目が、弱く冷たい光を発していた。


「もちろん、この社会が人々の勤労によって成り立っていることは分かっているよ。だが、商売っていうのがどうも私には受け入れ難くてね。こうしているのが自分に一番合っているような気がするのさ」


「どういう意味ですか?」


「今こうして私が生きていることが何よりの証拠なんだ。社会は私を必要としていないかもしれないが、それでも私を生かしてくれている。だから感謝している」


 マッキンリーの言っていることが、ジョーにはほとんど理解することができなかった。もちろん、このTWでも、全盲というハンディを背負いながら生きていくということは、ジョーが思っている以上にかなり大変なことなのだろうということは想像できた。しかし、このマッキンリーからは、なぜかそうした重い空気をまったくと言っていいほど感じ取ることができなかった。


「ちょっと、ちょっと、彼、どうしたって?」

 リンダにせっつかれたジョーは、マッキンリーが言ったことをそのまま伝えた。


「ふーん、そう。なるほどねえ。彼、結構すごい人かもね」


「ゴミ拾いをすることがですか? リンダさん、僕には分かりません」


「ゴミ拾いをする行動力ももちろんそうだけと、一番感心するのはそれ以外のことをしていないということよ」


「え? どういう意味ですか?」


「よく町で見かけるじゃない、『ゴミをすてるな!』とか命令口調で書いてあるポスター。あれってほとんど意味が無いわよね。だってそうやってきれいになっているところって見たことないもの」


「言われてみれば、そうかもしれませんね」


「でも、彼のようにゴミを拾えば、少なくとも、次にそこにゴミが捨てられるまでその場所はきれいなままだわ」


「確かに」


「ゴミを捨てる人間はなくならない。ゴミを捨てる人間に対抗できるのはゴミを拾う人間だけよ。町を本当にきれいにしたいのなら、ポスターとかをつくるんじゃなくて、彼のようにゴミを拾うしかない。大事なのは、無意味なことに気付くこと。そうすれば意味のあることが見えてくるから」


「意味のないものをつくっても、かえってゴミが増えるだけですもんね」


「それと、商売を受け入れられないって言ったわね? もしかしたら彼、悪いことをするのを極端に嫌う人間なのかも……いや、それどころか、これまで悪いことを一切したことがない人間なのかもしれないわね。そんな人間なんて存在しないって思っていたけど」


「悪いことをしたことがない?」


「労働に対する真の対価なんて普通は誰にも分からないわ。だから働いた人はできるだけ多くの対価を請求しようとするし、支払う側はできるだけそれを低廉に抑えようとする。結局、商売には、騙し騙されという関係が多少なりとも含まれていて、みんなそれを容認しているからバランスが取れているのよ」


「えっと、その、つまり」


「働くかぎり、本人にそのつもりはなくとも、その労働に見合わない不当な額の報酬をせしめたり、あるいは逆にせしめられたりすることがあるということよ」


「え? じゃ労働って悪いことなんですか?」


「もちろん、労働そのもの、つまり人のために働くっていうのは尊く崇高なものよ。でもそれを商売とリンクさせると、ともすれば悪ととられる状況が生じ得るということ。商売って綺麗ごとじゃないから」


「じゃあマッキンリーさんのしていることは……」


「そう、商売とリンクしていない純粋な労働と言えるわね。でもそれじゃこの社会で生きていくことはかなり難しいと思う。私には絶対に真似できないわ」


「一切の悪を拒否する生き方か……無理ですね、僕にもできそうにないです」


 ジョーとリンダが話をしている間、マッキンリーの前の小箱にはいつのまにか小銭が入れられていた。一方のマッキンリーは、おそらくは普段の、穏やかに沈思する雰囲気を漂わせながら、顔はジョーの方に向けていた。ジョーはマッキンリーに近づいてその隣にそっと座った。


「お金、少し入っていますね」


「そうだな。今持っている分と合わせると二、三日は大丈夫だろう。それより、今まで何を話していたんだ?そのリンダとかいう人と」


 ジョーは、今度はリンダと話したことをそのままマッキンリーに伝えた。


「わっはっはっ、このわしがすごい人間だって!? そんなこと言われたのは生まれて初めてじゃよ」


「いや、私もそう思いますよ、マッキンリーさん」


 二人の間の空気が、すこしだけ暖気を帯びるようになった。


「そうか……最初のあんたは、わしに何かを協力してくれと頼んでおったな。いろいろと説明してくれたが全く理解できなかったよ。もちろん信じてもおらんかったがね」


「もう一度説明しましょうか?」


「いや、説明はもういい。その代わり、わしの質問に答えてくれ」


「なんですか?」


「まずは、本当にわしのような者でいいのか? 今あんたたちはわしのことをすごい人間だと言ったが、はっきり言って、今まで自分のことをそんな風に思ったことは一度もない」


「はっきり言わせてもらいます。マッキンリーさん、あなたでなければだめなんです。あなたもリンダさんと同じ大きな力を持っていることは事実です。それに、私自身、リンダさんに出会ったときもそうでしたが、あなたとの出会いも決して偶然ではないように思えるのです」


「偶然じゃない?」


「ええ、こうなることを促すような得体のしれない何か特別な意志が、私たちを取り囲んでいる、そんな気がするのです」


 それまで思ってもみない言葉が自分の口から突然発せられたことに、ジョー自身少し驚いた。


「特別な意志……」

 マッキンリーは少し考えたあと、思い直したように口を開いた。


「もう一つ、これが最後の質問だが、あんたたちがやろうとしていることは、危険なことなのか?」


 危険というその言葉をきいた瞬間、ジョーは、澄んだ鋭利な光が突然ジョーの心臓を射抜き、その鼓動を一瞬止めたように感じた。


(嗚呼、なんてことだ、馬鹿だ、俺は。そうだ。そうだよ。なんで今までこんな大事なことを放っておいたんだ?)


 ジョーは伏し目がちに視線を落とした。

「……危険です」


 明らかにさっきまでとは違う、どこか怯えたような雰囲気を漂わせるジョーに、マッキンリーとリンダは顔をしかめた。


 マッキンリー 「どうしたんじゃ?」


 リンダ 「なに? どうしたの?」


「お二人に言っておかなければなりません。おそらく私の人生はこの計画で終わりです」


 マッキンリー「は? 急に何を言い出すんだね?」


 リンダ「あなた、一体何を言っているの?」


 ジョーは二人を正視せずに続けた。


「つまり私は、この計画で死ぬということです。それはいいのですが、問題は、あなたたちを巻き込んでしまうかもしれないということです。このことは最初に言うべきでした。本当にすみません」


 ジョーは二人に向かって深く頭を下げた。


「ちょっと、何が良いもんですか、落ち着きなさいよ。あなたが死ぬっていう、なにか根拠でもあるの?」


「いいえ、でも僕は、以前からそういう運命を感じて生きてきたんです。そして今はその運命をほぼ確信しています」


 このとき、カナの姿がジョーの脳裏に浮かんだ。


「僕はおそらくこの運命からは逃れられません。でも一つだけ言わせて下さい。それでも僕は、あなたたちを守りたい。たとえこの身に代えてでも。それが今の僕の正直な気持ちです」


 もはやこのときのジョーは、ALたちを単なるプログラムとしてではなく、自分の人生に直接関わる代替のきかない希有な存在として認識し始めていた。


「わしらの人生を守るだって? わしより若い者にそんなことを言われるとなんだかむずがゆくなるよ」


 マッキンリーはほのかに明るい笑顔をみせた後、顎を少しひいて気を締めて言った。


「リンダさんはどう思うか知らないが、少なくともわしはあんたと一蓮托生だという気がしてきたわい。ほっほ、どうやら時が来たようだ」


「時?」


「わしはな、ずっと前から疑問に思っておったんじゃ。なぜ社会はこのわしを生かしておいてくれるのだろうと。だが、やっとその答えが分かったよ。あんたが持ってきたんだ」


「僕が持ってきた?」


「ちょっと、さっきから二人で何を話しているのよ?」


「マッキンリーさんが、僕とはおそらく一蓮托生だって。彼がこの社会で生きてきた理由を僕が持ってきたそうです」


「ふーん、そういえばさっき私も似たようことをあんたに言ったわね?」


「確か、僕の運命に乗ってみるとか」


「それよそれ、これっていわゆるシンクロニシティかもね」


「シンクロ……なんですって?」


「シンクロニシティよ。わたしたちは無意識のうちに深層心理でつながっているかもしれないってこと」


「心がつながる?」


「そう、あなたが行動を起こすことによって、他の人の運命をあなたの運命に引きこんでいるのよ。きっと、私も彼もそのうちの一人なんだわ」


 なぜかこのリンダの言葉は、なんの抵抗もなくジョーの心に染み込まれていった。すると突然、言いようのない不安と恐ろしさが生まれ、次の瞬間、飲み込まれれば一瞬でどこかにもっていかれる容赦のない渦のような存在を全身で直感した。


「さてと、次はどうしたらいいのかな? わしもあんたと一緒に行けばいいのか?」


 ジョーとリンダとの会話が一段落したとみたマッキンリーが、不意に立ち上がって言った。


「えっ? マッキンリーさん、それじゃあ」


「ああ、わしもあんたたちに協力させてもらうよ」


「ほんとですか、ありがとうございます!」


「ただその代わりといってはなんだが、リンダさんと話ができるようにしてくれんかね?」


「私もそうしたいのですが、どうしたらいいのか全く分からないのです」


「ふーむ、それは残念だ。直接お礼を言いたいのだが……」


「お礼?」


「いや、なんでもない。よろしくとだけ伝えてくれ」


「?」


 とりあえずジョーは、マッキンリーが協力してくれることをリンダに伝えた。


「リンダさんによろしくだそうです。リンダさん、ありがとうございます。やっぱりあなたに来てもらってよかった」


「別に私は何もしてないわ。そんなこと言われても困るわよ」


 そういってそっぽを向いたリンダの口元からは、小さな笑みがこぼれていた。


 一方、ジョーの中では、何かが確実に動き始めていた。ALたちとの出会いが、ジョーの中に漠然と潜んでいた不安をより明確なものにすると共に、ジョーの本能と意志がその不安と向き合い、そして闘う準備をし始めた。


「マッキンリーさん、僕たちと一緒に行きましょう。おそらく、もうすぐ準備ができるでしょう。そう、全てにおいて」


 眼孔から発せられる強い光を絞るように、ジョーは、その視線を遠くに向けた。

 ジョーは右手でマッキンリーの手をつなぎ、左手でリンダの手をとつなぐと、再び外空間に飛んだ。アルバトロスの待つTWへ向かうために。

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