(3)私、新しい不思議な友達が出来る。



 その日を境に夕暮れ時になると天使様が羽休めと称して私の住むマンションのベランダに連日訪れるようになりました。


 何度も追い出そうとしたけれど、私が天使様の体を掴もうとするとベランダから飛び降りて翼をはためかせて宙に浮いたり、幽霊みたいに体がすり抜けて捕まえることができず、一週間も経たない内に私の手で追い出すことは不可能だと悟りました。


「無駄だよ。私を捕まえようだなんて」


「ゼェ……ゼェ……何で、私の部屋にいつも来るの? 他にもこのマンションは部屋がたくさんあるし、何なら空き部屋だって……」


「それはこのベランダから見る景色が一番綺麗だからだよ。ほら見て」


 天使様が指差す先、日が完全に暮れた市街地の街並みは家屋やビル、マンションの蛍光灯の灯りが一層際立ち、紺青こんじょうの光の海と化していました。その先に大年寺山だいねんじやまと赤や青、緑色にライトアップされた三本の電波塔が見えます。


「仙台スカイキャンドル。あなたはあれが見たかったの?」


「そう。楽しいことがあった日や悲しいことがあった日も、この町に住む人はあれを見て一日を終える。あの三本の鉄塔を眺めているととても落ち着くんだよ。まるで寄り添う友や家族のよう……どんなに離れた場所にいても、きっといつまでも忘れられない景色になるんだろうね」


 天使様は「ふふん」と鼻を鳴らして鉄塔を見て満足したようで、ベランダの鉄柵に乗り上げると翼をはためかせました。


「空を飛んでたら元気の無い観葉植物を見つけてね。心配になって降りてみたら、ここが電波塔が綺麗に見える場所だって気付いたの」


「そうだったんだ……」


「またね。外冷えてきたからパキラちゃん部屋の中にしまってあげなよ」


「うん、わかった。ありがとね」


 九里香はニコリと微笑むと空へ飛び立ち、夜の闇の中へと消えていきました。私はエアコンの室外機の上に置かれたパキラちゃんの鉢植えを腕に抱えると、その日に職場で起きた出来事を小さな声で呟きました。


「今日も大変だったんだよ。パキラちゃん」


 パキラちゃんの葉を撫でているとある事に気付きます。葉の表面がしっとりと濡れていて、どことなくベタベタしていました。


「なにこれ、病気だったらどうしよう……寒いから弱ってきたのかな……? 早く部屋に入れなきゃ」


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