第2話 晴れやかな登校!

「んー……朝か。」


風呂入って寝たら朝!……当たり前か。でもそんなことに幸せを覚えちゃうぜ。なんたって!今日から!ソロボッチ!!

とまあそんな事考えながらスマホを見ると、なんだこれ?通知が99+?こっわブロックしとこ。


「ってか橘+αか。」


フッた達成感で忘れていたが、お付き合いするにあたり交換してたなぁ……あん時は庭駆け回るくらい喜んでたか。今はブロックリストだが。

その他は主に俺の友人と……橘の付き添い人だな。こいつらに説明してなかったかそういや。


「ちょっと進士ー起きてるの?」


「あいあい!今行きますよー。」


そういや朝飯と食べてねえじゃん。いつもなら日葵が起こしに来るんだが、なんだ反抗期か?

手早く制服に着替え食卓に向かうと日葵はおらず、いつも通り父親が新聞にコーヒーの組み合わせをしていた。


「おはよう父さん。」


「……」


「おーい父さん。」


「……ん?ああ進士か、いつの間に来たんだ?」


「ちょい前。それより日葵は?」


「日葵?そういやいないな。」


父さんは何かに集中してると周りが見えなさすぎる。どうやら日葵が来たかも、朝食を食べたかも分からないらしい……息子の俺に遺伝してなきゃいいんだが。


「おはよう進士、さっさと食べたら出ないと。」


「はいはい。日葵は?」


「はいは一回で良いっての、日葵なら早く出たはずだけど。あんた何も聞いてない?」


「聞いてたら聞かねっつの。」


「生意気小僧が。」


「オー怖い怖い。じゃあ行ってきま~す。」


話し半分に食事を済ませてレッツゴー!後ろから片付けろ、ハンカチもったか、そんな言葉は聞こえないとして行きましょうそうしましょう。


時間は8時過ぎ、通学通勤という方々の横を歩きながら、俺も集団の一員としてのんびり歩く……昨日までは隣に誰かいたような?はて?

ついに記憶から消えつつある元カノの事を思い出さずに歩いている俺。こんなにも身軽で、会話をしなきゃという重圧もない!もう何も怖くない!


「ちょっとあんた!」


晴れやかな朝の通学に水を差す騒音、んだよちくしょう。もう聞くこともない声のはずだが、つまり俺を呼んでいる訳じゃないな!お気に入りソングリストを聞きながら


「無視しないのっ!」


……しっつけー。俺なら諦めて帰るとこなのに、そんな俺に突っかかるか?否、俺だという確証もないのにうぬぼれてはいけない。ここは1つこないだ入れたばかりのソングを


「こらぁ!津原ぁ!!」


「……どなたか津原様はいらっしゃいますか~?お連れ様がおキレでーす。」


「あんたよあんた!!!」


念のため周りを見渡すが、どうやら津原さんは俺一人らしい。とりあえず呼ばれた方を見てみると、橘とその付き人が現れた!


「ようこそ、ここは始まりの村だよ。」


「津原……菫から聞いたんだけど。」


「ようこそ!ここは始まりの村だよ。」


「あんた達、別れたって本当なの?」


「くっくっくっ……ここは始まりの村だよ。」


鋭いローキックが飛んできたのでここらで休止、村人ごっこはまた今度だな。


「っおいおい危ないな。」


「避けんじゃないわよ!」


「あーうるせえ、なんだよ浅原。」


「だーかーらー!」


目の前で浅原真結美さはらまゆみがわめくなか、橘は隣で黙って下向いてるだけ。


「あんた達が別れたかって!聞いてるの!!」


「別れたけど。」


「……本当なのね。」


「そうだが?話は終わりだよな。俺も早く教室に行って、クラスメイトと青春を」


「菫は、あんたに理由を聞きたいって言ってるわ。」


「でも橘ときたら、さっきから黙って立ってるだけじゃないか。浅原は通訳か何か?」


「っっっ……」


「前のあんたとは違うって分かってたけど、そこまで言うとはね。」


「当たり前だろ。橘とはもう何もないし、特別に扱うことも今後ないだろ。」

 

「……して……か。」


「え?ちょっと通訳さん、お願いしますよ。」


「あんたねぇ……いい加減に」


「どうしてですか!」


うわぁビビった。置物が喋ったよ、これは言いすぎか?ようやく顔を上げたと思えば、何故か大泣きしてるよこの人。何?情緒不安なのかな?


「どうして、なんですか。」


「主語が抜けてると分からんが、昨日の続きですかそうですか。」


「ちょっと菫、無理しちゃ」


「真結美ちゃんありがとう……でもこれは、ちゃんと私が言わなきゃ。」


「何この主人公成長イベントみたいなの。」


目の前で謎に盛り上がりを見せるお二方。そんな様子を見ながらガチャを回すと、おやなんとまぁ。


「よっしゃSSR!」


「……何してるの?」  


「話長そうだしさ、ゲームしてるけど。」


「津原、それ没収。」


「あぁんいけずぅ。」


「気持ち悪いわよっと。」


「はぁ……で?話聞けば返ってくるわけ?」


「聞いて、くれるの?」


「聞かなきゃ俺のスマホとデータが砕かれる。」


「本当にそうしてやろうかしら……」


意を決して橘は話し出すが、あくびが出るくらいスローすぎて……あっ浅原が怖い目してる。ちゃんと聞くフリしとこ。


「あの、その、私はね!津原くんがどうして別れたいかって……何が悪かったのかって。」


「はいはい。」


「それで真結美ちゃんとか、いろんな人に聞いたの。」


ん?いろんな人……嫌な予感がするが突っ込んでるとスマホが2つになっちゃうから聞き流すか。


「でもみんな分からないって、えっと、お似合いだったって。」


「はあそうですか。」


「だからね!津原くんの、ちゃんと言葉で、聞きたくて。」


「えー凄いですね。」


「おい津原。」


「ひえっ。」


「お願い……津原くん。」


「あーそうかい。でも浅原に聞いたんだろ?なら分かると思ったんだが。」


「え?」


「あ、あたし?」


「だって浅原言ってたじゃないか。菫とあんたなんか月とすっぽん、男は何するか分からないってほとんど着いてきてたよな。」


「そ、そりゃもちろんよ!あたしが菫を守らないと」


「そう思うと俺と橘、デート0だよな。」


返事がない。なんで固まってんだこいつら、まさか気づいてないの?


「その度にあたしの方が分かってる、橘が好きなのはこれ!って……あれって浅原と橘のデートってもんだろ。そこに俺が後ろから……まあこれは浅原が隣を独占するからそこしかなくてな。」


「ちょっと……その程度で」


「んで締めにいっつも言ってただろ。こんなつまらない男より、あたしとの方がいいわよっ!なーんて。」


……っぱ俺の物真似似てないのかな、昨日から反応悪くて死んじゃうよ。


「橘も笑うばっかで何も言わない、それってそうだね。と同じだよな?俺がおかしいのか?」


「違う……違うよ。津原くんがいるから」


「俺がいてなんなの?2人が楽しんでるのを後ろから見てて、俺が楽しいの?そもそも俺はいらないだろ、お前らだけの空間だったんだから。」


浅原は黙っちゃうし、橘も黙っちゃうし。嫌ね~これじゃ俺の独り言みたいじゃん。


「たったこれだけのエピソードでも充分だろ?俺が離れたくなった理由、まだあるけど。」


「ま、まだあるの?」


「あ……あたし……」


「じゃあな。これからは俺なんて隠れ蓑なしに、堂々と女子同士付き合ってけ?今は多様性の時代だからな、俺も軽蔑はしないことにするよ。どうぞお幸せに。」


そういやここって通学路……あらやだ!みんなこっち見てるわよ!!言いたいことの1割くらいを叩きつけたらもう用はねえ、俺はさっさと退散するぜ。


「……!」


「……?……!」


なーんか後ろで聞こえるけどぉ?遅刻しそうだしぃ?帰ろう帰ろう……いや今から行くのか忘れてたわ。

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