11. 復活のオルコス

 


 「待て、わらわが送っていくのじゃ」


 「え?」


 荷物を全て片付け、下山の準備が出来た頃、急にクロミアが手を前に突きだして俺達を止めていた。


 「どうしたの?」


 「うむ、友達になったお主らを歩いて下山させるわけにはいかん。友達は大切にせよと母上に教わったのじゃ、だからほれ……」


 たちまちドラゴンに変身し、山頂で伏せの体勢になった。


 『乗るが良い、サンクサンドルの町は知っておるからすぐじゃぞ』


 「マジか、そりゃ助かるけど……」


 「せっかくだし、乗せてもらいましょうよ。あたしも早くお父様の所へ戻りたいし」

 急かすようにサーニャが俺の手を引いてクロミアの背へと乗る。それを確認したクロミアがふわりと浮かびゆっくりと進みだした。


 『一気に加速すると落としてしまうからのう、徐々にスピードを上げていくぞ』


 「よろしく頼むよ!」


 耳の位置までは遠いので、大声で叫ぶとコクリと頷くのが見えた。

 ちゃんと聞こえているな、よしよし。


 何となく、背から下の景色を見ると山のキレイな緑が目に入る。


 「キレイ……」


 サーニャも高い所は平気なようで、うっとりと景色を眺めていた。

 さて、本番はこれからだ……あ、手紙は渡したけどゴブリン達に会うの俺の方が早そうだな、一回顔見せておこうかな?


 行きは馬車で数日かかったが、帰りはドラゴンで数時間……。

 あっという間にサンクサンドルの町へ……


 『あの広場が良さそうじゃな、少し借りるとしよう。では降りるぞ!』


 あ!?


 「お、おい! クロミア! 山! 山の方に降りてくれ! ここじゃ目立ちすぎる!!」


 『?』


 何でこんな時に難聴なんだよっ!? しかもウチの庭じゃねぇか! ピンポイントすぎるぅぅぅ!!

 俺の思いは虚しく、我が家の庭に降り立つことになった。


 家族はおろか、近所の人達も外壁や入り口付近に集まっていた。そりゃそうだろうな……ドラゴンが町に来るとか無いもんな……。


 注目を浴びながら、

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 「ななな、ド、ドラゴン!? ええいこの家に何の用だ! 狙いは町か!? そうはさせん、デューク! 剣だ剣を持て!」


 「ちょっと待って父さん、背中に誰か乗ってるみたいだよ……あれは……」


 兄さんと父さんが下で騒いでいるのが聞こえる……すまない……俺なんだ。


 「よっ……と! た、ただいま……」


 「「クリス!?」」


 二人がハモって俺の名を呼ぶ。驚くのも無理はないだろう、サーニャが降りた後、クロミアが人化しドラゴンはフッと消える。


 「あ、あれ?」


 父さんがキョロキョロするが、ドラゴンは影も形もなく、代わりに現れたクロミアが挨拶を始めた。


 「初めましてなのじゃ! わらわはブラックドラゴンのクロミア、クリスとは友達なのじゃ」


 「あ、これはどうもご丁寧に……」


 父さんが頭を下げて、兄さんが俺に事情を聴いてくる。


 「一体どうしたんだい? 山登りに行ったと思ったらドラゴンを連れて帰ってくるなんて。相変わらずクリスは斜め上の結果を出すよね。それとそちらのお嬢さんは……」


 「あ、あたしはイスマット領主の娘、サーニャと申します! クリス様には山で助けて頂いて……」


 「イスマット……ブラウンさんの領だな」


 すると父さんが顎に手を当てて思い出す様にサーニャを見る。


 そしてやじ馬はドラゴンが消えたと同時にばらばらと解散し始めた。『クリス様がドラゴンに乗ってたって? ああ、なら分かるわ』『なんだまたクリス様か、みなさーん、かいさーんでーす!』『相変わらずだよなあ』などという声が聞こえてきたが無視した。覚えてろよ。


 「クロミアさドラゴンは俺が遊びに行ったグレイス山に引っ越してきたんだってさ。サーニャはドラゴンに会いに行く途中で俺と会ったんだ。あ、それとグレイス山のオークをこっちの山に移住させるんだけどいいかな?」


 「お前は……まあ、あの山はお前のだし問題ないだろう。ゴブリンのキング達には話してあるのか?」


 「後から行くよ。後は急ぎでサーニャの家まで行ってくる。親父さんが結婚詐欺にあってて、しかも殺されそうなんだ。しかもそいつはポルタさんの家に居たディアナって女みたいでさ……」


 あの事件は父さんが良く知っている。何度かお金の返済を待ったこともあるらしい。


 「何と!?」


 「ポルタさんと自警団を連れてちょっと行ってくるよ。お金は俺が出すし」


 「わらわならひとっとっびじゃぞ?」


 クロミアがあまり無い胸を反らしてドヤ顔をするが、俺は首を振ってクロミアへ告げる。


 「ドラゴンで上空を飛ぶと目立ちすぎる。別の領の自警団が来たとなると、ディアナも警戒するだろう? だから馬車で行く」


 「むう、仕方あるまい。わらわも着いて行っていいのか?」


 「人型ならな。って、尻尾があるじゃん……」


 「む、頑張って小さくするから連れて行け!」


 「クリス様、こう言ってくれていますしお願いしましょう。あたしも心強いですから」


 父さんたちが居るせいか、言葉遣いに違和感があるが良しとしよう。

 早速俺達はポルタさんの店へ向かう。その間、父さんと兄さんが自警団へ話をしにいってくれるそうだ。


 合流はポルタさんの店。そして……



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 【あの世】

 

 <む、よく見れば可愛い女の子を二人も連れていますね。これは僥倖ですよ>


 <なら、私は必要ないかしら?>


 <何を言うのですか、保険は必要でしょう? スイッチを使うは今!!>


 <(帰りたいなあ)>



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 カチッ



 <おお、やっと繋がりましたよ!>


 「うるせっ!?」


 「ど、どうしたのじゃ?」


 ずっと大人しかったので、油断した。オルコス、帰ってきやがったか!


 <ようやく話ができますねー。いやいや、いつの間にかかわいい子を連れてウハウハじゃないですか。どうです、お金もあることだしここらで結婚でも?>


 無視だ無視。


 「ポルタさんの店はここだ、入るぞ」


 「人間の町は初めてじゃが色々あるのじゃ……」


 「クロミアさん、入りますよ」


 <ほっほう、この私を! 無視するとはいい度胸ですね! どうせ私が見てない間その二人とあんなことやこんなことしてたんでしょう? あら、羨ましい! 子供、可愛いといいですね>


 「どやかましいわ!? 失せろ! 今はお前に構ってる暇はねぇよ!」


 カチッ


 「ひっ!? 急に何……?」


 「あ、ああ、すまない……俺は急に叫びだす発作があるんだ……」


 「わらわもびっくりした」


 スイッチを切ったか……それでもモニターを見ている可能性は高い。

 チッ、嫌なタイミングで戻ってきたな……それにしても結婚ってなんだ?

 今度は何を企んでいる?


 スイッチが切れている今の内にポルタさんへ話をしよう、カウンターであくびをしている彼に俺はすぐに話しかけた。




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 【再びあの世】



 <チッ! 人が褒めたらこれですよ? 女の子を二人も囲うとは貴族らしくなってきたと思ったのに……>


 するとハイジアがお茶を飲みながらオルコスへいう。


 <いや、あんなことを言われて褒められたと思う人は相当なMよ? へたくそねぇ……というか相変わらず人間を下に見てるわね、その癖直しなさいよ>


 <馬鹿を言ってはいけませんよ? 力ない人間を下に見て何がいけないのです? さあ、作戦を進めましょう。やはりこちらでお膳立てしなくては……>


 <(……エリートだからって調子に乗りすぎね。この作戦が終わったら……)>



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 ドラゴン騒動はひとまず落ち着いたが、慌ただしくサーニャの家へ向かう準備をするクリス。


 ディアナはポルタの探していた人分であっているのか?


 そして、ハイジアの真意とは?


 次回『年貢の納め時』


 ご期待ください。


 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください。

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