7. 最終回待ったなし

 「出来てるー?」


 軽い感じで、工房に入ると親方の元気な声が聞こえてきた。

 ここは、この町にある道具作りの工房なんだけど、領内だとピカイチの腕を持つ親方が居る。

 俺も色々作ってもらったっけな……卵焼き用フライパンとか……。


 最初はガキだと舐められていたが、話をするうちに意気投合し少しくらいの無理は聞いてくれる。

 というか親方は最近引退してしまったから、割と暇だったりする。



 「おう、ぼっちゃん。出来てるぜー! 相変わらず妙なもんを思いつくな。だがまあ面白かったぜ」


 「ぼっちゃんは止めてくれよ、俺ももう16だぜ?」


 「はっはー! わしにとっちゃぼっちゃんはぼっちゃんよ! ほら、ちょっと具合を見てくれよ!」


 親方……ドミンゴは俺を息子みたいに扱ってくれるのだが、少し気恥ずかしい。ま、良い人だけどな!

 さっそく足こぎボートの具合を確かめるとしよう。


 カチッ


 「このハンドル? ってやつを動かすと、後ろの羽が動くのは完璧だ」

 キコキコとハンドルを左右に回すと、尾翼が動く。うん、これで方向転換は問題なしだな。


 「足で何度も踏めば、水車みたいなやつが回って前に進む……いや、ぼっちゃんの発想はすげぇぜ」

 すいません……前世の知識で……。子供の頃、親に連れて行ってもらった湖にあった白鳥の足こぎボート……懐かしいな。

 これは屋根しかついてないけど。


 <ほうほう! いいじゃないですかぁぁぁぁ! これはポイント高いですよ? 港町やビーチ……いや待て、猟師にも売れるのでは!? 進水式しましょ!>


 「やかましいわ! 黙って見てろ! 言われなくても持っていくよ!」


 「ぼっちゃん……」

 俺が怒鳴ったせいで、ちょっと涙ぐんでいた。問いをとると涙もろくなるって本当なのね! って違う!


 「ああ、いやドミンゴせいじゃないんだ、俺は昔から発作があってな、急に口が悪くなると言うか、その……」


 「……いや、大丈夫だ。ぼっちゃんはそんな貴族じゃねぇってことは分かってる。おっと、早い所海へ持っていこうぜ、へへ楽しみだ」


 強がっているのは分かるが、あえて何も言うまい。


 <ところでその汚らしいおっさんは誰です?>ズズー……


 「一言余計な上に失礼なんだよお前は!」


 「おう……ぼっちゃん……」


 「あ! ごめん! 違うからな、今のはドミンゴに言ったんじゃないからな」

 

 <おっと、交代ですか? チャンネルはちゃんと変えておいてくださいよ?>


 カチッ


 切ったか……。たまに不穏な事をペラペラと言うなあいつは……。


 それはともかく、すごく落ち込んでしまったドミンゴと一緒にボート(二人乗り)をビーチへと運んだ。



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 そしてここがビーチ。



 「この辺でいいか」


 今日は海で泳いでいないから、今は俺一人だ。

 ボートを制作するのに三日かかった(早いけど)から滞在時間は明日までである。


 え? アモルと一緒に寝た日? ……思い出せないでくれ……色々危なかった。いわゆるパターン〇というヤツだ……。

 (※その話を読みたいと思ったあなた! お便りください!)


 ボートを海辺近くまで運んでいると、ホテルから出てきたウェイクと母さんが俺を見つけて歩いて来た。


 「あら、ドミンゴじゃないー。いつもクリスがお世話になってるわね」


 「いえいえ、ぼっちゃんは昔から手もかかりませんでしたし……」


 「当たり前じゃない」


 「……っ! 今も発明品を作らせてもらったところでして……」

 

 「母さん、威圧するのは止めてくれ。ドミンゴが困ってるだろ」

 またも涙目になるドミンゴの前に立ち、母さんを牽制する。


 「あ、あら、ごめんなさいねドミンゴ!」


 「あ、あはは、大丈夫でさ!」


 強がったな。

 

 「わ、またクリス兄さん何か作ったの?」


 「ああ、足こぎボートって言ってな? これなら腕力が無くても足で漕ぐから、例えば力が無いお前でもすいすい進むんだ」

 腕力が無い所でぷうと頬を膨らますが、自分でも遊べるとなっては好奇心が勝ったらしい。ぺたぺたとボートを触りまくっていた。


 「まずは俺が試運転だ! 着水!」


 一応、沖まで行って帰れなくなってはとドミンゴがロープを屋根にくくりつけてくれた。

 しかし、俺は今日、沖に出て帰ってくるつもりは無いのだ。すまんな。


 バシャバシャ……。


 「お、良い調子だな」


 キコキコとペダルを踏んで前進すると、周りの人達がなんだなんだ? と注目してくる。

 後ろを見ると、日傘を差した母さんとウェイクが手を振ってくれた。


 ありがとう母さん、俺を産んでくれて! 楽しかったよ!

 ウェイクもアモルに負けないよう、俺の代わりに頑張って生きるんだぞ!


 しゅるしゅるとロープも伸び、結構沖までやってきた。

 ふう……いざとなると緊張するが……行くか。



 「あーバランスがー(棒)」


 ざぶん! わざとらしく海に投げ出されるように飛び込むと、俺は一気に底を目指す。

 服を着ている人間は溺れやすいと聞いたことがあるし、ここなら助けに来れる人もいまい。


 カチッ


 <あ!? ちょ! 何してるんですか! そんなことをしたらしんでしまいますよ!>


 「#ごべばべばいば__そのつもりだぜ__#! #じんばらぼぼえべろびょ__死んだら覚えてろよ__#!」


 <さっぱり分かりませんが!? 自殺じゃないでしょうね? 自殺は書類上、私に責任はありませんが、『貴方を選んだ』のは私ですから、監視役からしばらく外されてしまうんですよ! エリートのこの私が……!>



 「#びぶが__知るか__#! #ばばあびぼ__ざまあみろ__#! #ば__あ__#!? #びぶぼぼんば__水飲んだ__#……」


 <あ、ああ……!>


 オルコスの絶望した声が聞こえてきた。バカめ、どうせ何もできまい!

 あ……意識が遠くなってきた……起きたらオルコスの前だと……らく、でいいな……。




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 【あの世】



 <ぐう!? まさか自殺を図るとは!>


 <ていうか、オルコスがちょっかい出しすぎなんじゃない? ボーナスが欲しいからってスイッチ使いすぎなんだよ>


 <……しかしそれでいい思いをしてるのは貴女も一緒ですよ?>


 <ぐ……で、でも本人も嫌がってるし、トイレとそのボートで結構ポイント入るでしょ? だから……>


 <人間の欲望には限りは無いんですよ?>


 <私達神だからね!? 二級神だけど、れっきとした神よ!?>


 緑のショートカットの女性神が慌てて訂正する。

 そしてその女性神がモニターを見て何かに気付く。


 <あ? あれ、何かな? 黒いのがクリス君にもう接近してるけど>


 <ん? ……ほほう、まだ神は私を見捨てていませんでしたね>


 <だから私達がそうだからね?>



 モニターに映る謎の影、それは一体何なのであろうか!

 


 ---------------------------------------------------



 足こぎボートを作り上げ(てもらい)見事海中へダイブすることに成功したクリス。


 だが、そこへ迫る謎の影とは一体!


 そして、オルコスの横に居た女性は何者なのか? いい思いとは何の事なのか?


 物語はここで終わってしまうのか。



 次回『お城のような建物』


 ご期待ください。

 


 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください。

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