5. 運命の海岸線

 前回の続きから物語は始まる! ゴブリンが放った一撃はどうなったのか!






 パキィィィン!!


 俺の首へ振り降ろしたゴブの剣が折れた!


 痛みも無く、どうなったんだと思い目を開けてみると……。



 「カペペペペペペペ」


 女の子二人を脇に抱えた偉そうなゴブリンの額に折れた剣が刺さっていた。

 

 「……」


 「……」


 処刑ゴブリンと目が合い二人して目を泳がす。周りで囃し立てていたゴブリンも完全に困惑状態になっていた。 そして、何かを思いついたようにポンと手を叩き、別の剣を持ってきて叫びだした。


 「オノレェ! ヨクモキングヲ!!」


 「わああああ!? おい!? 俺のせいじゃねぇだろうが今のは!?」


 さっきよりも大きい大剣を俺に振り降ろしてきた! これは今度こそ……!

 またも目を瞑り心で「南無三」と唱える。


 ぐわわわわ~ん


 何かぶつかったな、と思ったがやはり痛みが無かったので目を開けるとぐにゃりと曲がった大剣を持ってボーっとしている処刑ゴブリンが立っていた。


 どうなってんだ? と思っていると、額に剣が刺さったままのキングとやらが叫ぶ。


 「エエイ! コロセ! ミナデカカレェェイ!!」


 「「イ、イエッサー」」


 ゴブリンがイエッサー……でもキングだからそれは違うと思う……ツッコミどころが多すぎて追いつかん!?

 そこで分かった事だが、俺はゴブリンに殴られても切られても刺されてもまったくダメージを負う事が無かった。

 そしてオルコスがその光景を見て俺に言ってくれたのが……



 <変ですね……チートはこの前の会議でダメになったから……あ! いやあ、すいません。あなたが申請した『丈夫な体』なんですけど、ちょっと手違いがありまして。丈夫になりすぎちゃいました、はは>


 「はは、じゃねぇよ! 今は助かってるけどどうなるんだこれ!?」


 コイツ! タオレロ!


 尚も俺に攻撃してくるゴブリン達を無視して怒鳴る俺。


 <物理や毒といった『外部からの影響』を受け付けなくなるみたいで、はい。なのでそのゴブリンは勿論、凄腕の剣士だろうが、何でも斬る剣だろうがその身体には影響がないという……>


 「それ、チートじゃねぇの?」


 コイツゼンゼンヒルマネェ!?


 <分かっているだけだとそれだけなので、まだ大丈夫ですよ。うまく隠ぺ……>


 カチッ


 おほ、切りやがった!? いや、切られたのか?

 

 ウ、ウ……タオレナイヨウ……


 段々攻撃の手が緩んできたが、俺の手は縛られたまま。

 ダメージは無いがいいかげんうっとおしいので、俺は反撃に出る事にした!


 「とぅ!!」


 「ナ、ナンダ!?」


 俺はキングに狙いを定め、足元へ滑り込み……両足を挟んだ!

 そう、カニバサミである!


 バッターン! と勢いよく倒れるキング。そこから俺がギリギリと足を締め付け始めると、下半身への攻撃はあまり経験が無いのか雄叫びを上げてもがいていた。


 「ギャァァァァ!? イタイ! ヤ、ヤメロオ!?」


 「キングゥゥゥ!」


 倒れた俺に殴り掛かってくるが、俺にはダメージが無い。

 さらに締め上げると、泣きながら手を床をバンバン叩いてタップしていた。しかし審判など居ない。容赦なく締め上げるとその内キングが根を上げた。


 「コ、コウサン。コウサンダ!」


 「それが聞きたかった。誰か縄を切ってくれ」


 お互いの顔を見合わせてオロオロするばかりのゴブリン達をキングが一喝し、無事に俺と女の子は解放された。

 手近にあった角材を担いで、キングを正座させ説教をした。


 「とりあえずもう人間に手を出すなよ?」


 「あ、はい」


 普通に喋れんのかよ。キングだけらしいけど。後、額の剣は抜いたらどうか?



 ちなみにゴブリンにも女性は居るようで、別に繁殖のために人間をわざわざ襲う必要は無いらしい。

 だが、どうもキングが人間の女の子に憧れ、部下を焚き付けたようだった。

 

 聞けば1000年前に人間を食べた事があると言っていたが、原始時代みたいな状態なので殺るか殺られるかだったらそういうことがあっても仕方ない気もする。


 「それじゃ帰ろうか、何か怖い思いをさせてごめんな……」

 

 「あ、ありがとうクリス……様」


 「た、助かったわ……」


 女の子二人はお礼を言っていたが目は泳いでいた。シルヴァは熱っぽい顔をしてボーっとしていたし、もう一人のそばかすの似合う子(名前忘れた……)も顔を真っ赤にしてしどろもどろに俺に答えていた。


 その後、遠巻きにじっと見られるようになり、俺が気付くとすぐ逃げるので相当嫌われたに違いない。今でも町で会うと顔を真っ赤にして逃げるのだ。心が痛い。


 ゴブリン達は改心して、山の平和を守る正義の戦士たちに変わったのに……。

 


 それはともかく、この一件で俺は丈夫な体の意味を知ることになったのだ。

 





 ---------------------------------------------------





 で、本題に戻ろう。


 物理も毒も効かないのはあくまでも『外部からの影響』なので、窒息なら自身のミスなので死ねるのではないかと思ったわけだ。


 余談だが、ちょいちょいオルコスが出てきたけどイラついたろ? イラつくだけで役に立たないから始末が悪い。


 「ふう、嫌な事を思いだしちまった……」


 シルヴァ達の事を思い出し、少し泣きそうになったが気を取り直して海岸線を歩く。

 ビーチから離れても釣り人が居たりして結構賑やかなので、すぐに助け出されてしまう可能性がある。死に場所は慎重に選ばなければなるまい。


 「こりゃ沖に出た方が早いか? 足こぎボートを造ってみるか……遺作として……ん?」


 ぶつぶつと砂浜を歩いていると、数人の男が角材を持ってなにやら茶色い物体を叩いていた。

 浦島太郎ならタートルだけど、ありゃなんだ?


 無駄だと分かっているが一応声をかけてみることにした。

 近づくと、鳴き声をあげているのでどうも生き物っぽい。


 「おい、お前等! 殴るなら俺を殴れ!」


 「あーん? 何だ兄ちゃん! 海から変のが流れて来たんだよ、見たことも無い生き物だ、きっと悪魔の使いにちがいねぇ!」


 「アウッ! アウッ!」


 すがるように俺を見るその生き物は……アシカか?

 

 「そいつはアシカって動物だ、悪魔の使いじゃない」


 「アウッ!? アウー!」


 ん? 何か首振ってる? あ、また叩かれた!?


 「こら、マジでやめろって、死んじまうだろ! ほら、俺を殴れ!」

 アシカを庇い、角材による攻撃を受ける俺。あわよくば打ち所が悪かったりしないだろうか?


 「ほら、ここ、この後頭部とかいいぞ? ガーンと行ってくれ」


 すると男達は攻撃を止め、角材をその場に捨てて後ずさりをしながら言う。


 「な、なんだコイツ……」


 「気持ち悪ぃ……いこうぜ……」


 「ぺっ!」


 スタスタと興味を失くして去っていく男達。ヒーローは孤独なのだ。


 「アウッ!」


 アシカは俺に飛びつき手をパンパンと叩いて頭を下げた。なかなか律儀なヤツだ。

 傷だらけなので海水で傷を洗ってやる。見た目よりダメージは少なかったようで意外と元気に波打ち際まで歩いていた。


 「大丈夫そうだな? もう捕まるんじゃないぞ?」


 「アウッ」


 立ち去ろうとする俺のズボンのすそを咥えて留まらせようとするアシカ。

 そして波打ち際で背中に乗れと手を上へあげる。



 むう、まんま浦島的なアレだな……。

 さて、どうする?



 1.乗ってみる⇒アレと同じなら海の中で呼吸できて、お城みたいな建物に行くから窒息の可能性は低い。だが、歳を一気に取って老衰からの身体が弱るor老衰死というワンチャンスは期待できる。



 2.クールに立ち去る⇒帰ったらビーチでみんなと昼ごはんだ! 沖に出るため足こぎボートを作ろう!


 

 3.アシカを連れて帰って新生物として発表⇒お金は入るがアシカは実験や研究で調べられる可能性が高い。きっとアシカは死ぬ。



 うーむ、悩む……。








 ---------------------------------------------------



 

  クリスの思惑とは裏腹に運命は加速していく。


  クリスは何を選択するのか?


  そして、クリスが助けた動物は本当にアシカなのか?



 次回『沖へ』



 ご期待ください。


 ※予告の内容とサブタイトルは変更する場合があります。予めご了承ください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る