3. 前準備は入念に

 

 「海へ旅行したいと思ってる?」


 父さんが両面焼きのハムエッグを切りながら、疑問形で聞き返してくる。


 次の日、朝食の場で俺は昨日アモルの持ってきたパンフを取り出し両親へ相談する。

 ここで、親孝行しておけば「冒険者になる」ということについて、うっかり「いいよ」ということに繋がるかもしれないと考えたからだ。


 まあ他にも理由はあるんだけど……


 カチッ



 「いいわねーあなたも仕事ばかりで疲れているでしょうし、家族みんなで行きましょうよ!」


 普段外に出ない母さんが釣れた。家の事はメイドが居るから基本食っちゃ寝生活で刺激など無い。たまに貴族のお茶会とやらに参加しているようだが、気を使うのであまり行きたくは無さそうだしな。


 「さすがお兄様、わたくしのプランを即採用なさるなんて!」


 「デューク達はどうだい?」

 父さんが兄さんとアンジュさんにも同意を求めていた。家族で、となればこの二人もというのが父さんの考えだろう。


 「僕たちは大丈夫だよ」


 「はい、海なんて子供の頃以来ですから楽しみですわ。もうすぐ家を出なくてはならないので、是非ご一緒させてもらいたいです」


 兄さんの家はまだ建設中だからなあ。この家は領地の南側に位置してるんだけど、兄さんの家は北に造られている。ちなみに俺が結婚したら東で、ウェイクは西と、もう将来のプランが決まっていたりする。


 <海ですか、流石は貴族様>


 「貴族じゃなくても海くらい行くだろ」


 「どうした、クリス?」


 「あ、いや何でも無いよ、はは……」


 <船とかいいんじゃないですかね? 最初はほら足こぎボートみたいなヤツ! あれ作りましょうあれ>モグモグ



 「(お前は何で俺に色々作らせようとするんだ!? 他にも転生者はいるだろう? そっちを当たれよ!)」


 <だって私、たんと……ゲフンゲフン、何でもありません>


 カチッ


 「どういうこった! あ、クソ切りやがった!?」


 「そ、それじゃあ今日は旅行の買い物に行きましょうか」

 すまん母さん、いつものことだけど独り言を叫んで!


 「あ、わたくし水着を買いたいですわね」


 「私は仕事があるからみんなで行ってきなさい。(パパ寂しい)」


 父さんは来ないのか……ここは良い息子を演じる必要があるな……。


 「父さんは何か欲しいものはないのかい? 俺が買ってくるよ」


 「おお、そうか? なら氷の魔道具を買ってきてくれないか? この時期は日差しも強いから冷たい飲み物は必要だろう」


 「いいね、お酒も必要じゃない?」


 「それは僕が帰りに買っておくよ、僕も仕事があるからアンジュだけ一緒に連れて行ってくれると助かるよ」


 そして朝食を食べ終えた俺達は出かける準備をし、商店の並ぶ区画へと足を運んだのだった。


 

 ---------------------------------------------------



 <商業区>


 ここは生活に必要な商品を売る区画である。まとまっていた方が買いやすいだろうと父さんが構築したが中々好評である。先ほど俺達の将来の屋敷について語ったが、この商業区は町の真ん中に位置しており、どこの居住区から買いに来ても問題ない作りになっている。

 東だと遠くて西は近いとかになると不公平だしね、とは父さんの言葉だ。


 スーパーを作るまでもなく店は色々ある……が、ウチの食料品は届けてもらっているのでここに来るときは大概雑貨になる。


 ほら、アモルが何かを見つけたようですよ(裏声)


 

 「あっち! お兄様水着がありますわ!」


 「アモル様、慌てて走ると転びます」


 「ぐえ!?」


 アモルが駆け出そうとしたところで、襟首を掴みその動きを止めさせたのは当家のメイドである。

 貴族になら付きものであるメイドはもちろん完備。


 「フィア、アモルの動きは止まるが、同時に息の根も止まるからな……」


 メイドの名はフィアールカ。俺より2つ年上の18歳で、元々ウチでメイドをしていたペティというお婆さんの孫娘なのだ。


 結構、栗色の髪をアップでまとめた美人で、仕事もキチンとこなし、この世界では珍しく計算も早い才女なのだが、いつもむっつりしていて笑った顔を見たことが無く、また先程アモルを止めた時のように気が利かない……というより手加減がないというか、容赦がないというかそんな感じだ。


 「申し訳ありませんクリス様。(きゃー! またやっちゃった!? あたしはダメな子だなあ……)」


 うーむ、無表情……やはり何を考えているか分からない……。

 そんな子だけど、別にとっつきにくい訳でも無いし返事をすれば答えてくれるので女の子に免疫の無い俺でも話しやすので気にしないことにしている。 


 「アモルも大丈夫か? 急に飛び出すと馬車にはねられることもあるから気をつけないと」


 「え、ええ。フィア、ありがとうございます」

 いつもの事でもあるのはアモルも承知なので、フィアに微笑みながら礼を言う。


 「申し訳ありませんでした、アモル様(もーアモル様かわいいいい! 超抱きしめたい! 金髪ツインテなんてずるいですよねー。私も金髪にしてみようかな? 栗色なんて地味だし……)」


 「さて、水着か……(一応買っておかないと怪しいからな)」


 俺は隠れてロープなど自殺に使えそうなものを買い物かごへ入れていく。


 「これ! これなんてどうですか?」

 アモルが自分に当てていた水着はほとんど紐だった。頭が痛くなる感じがした……。

 ちらちらとカゴの中を見ていたので、俺は慌てて後ろに隠した。


 「こらアモル。淑女がはしたない」


 「母さん、その真っ赤なビキニを置いてから言おう」


 よく見ればアンジュさんもきわどいのを選んでいる。一体どうした!?


 「兄さん僕はこれでいいや」


 ウェイクは普通の青い短パンを持ってきていた。うん、こういうのでいいんだ。


 「俺もそれの色違いでいいか……ん?」


 「お、お客様ー! それは男の子用ですよー!?」


 何か店員が慌てて追いかけてきていた。


 「え、僕は男ですけど……」


 「え!? ば、馬鹿なこんなに可愛い男の子が居るはずが……ひっ!? し、失礼しました」

 俺が睨むと店員はすぐに回れ右をして去って行った。まったく、マジで失礼なヤツだ。

 ウェイクを見るとキラキラした目で俺を見ていた。


 「流石は兄さん! 一睨みで追い返すなんて! こう、かな?」

 残念だウェイク、アモルと双子なだけあって顔がかわいいので凄みなど無い。

 何となく頬を膨らませたリスみたいな感じにしか見えない。


 「はは、まだお前には無理だよ」


 「ちぇー」

 ポンポンと頭を撫でて再び怪しい水着を選んでいる女性陣の中へと戻って行く。

 フィアも行くから選んでいるな……スク水? なぜこんなところに……。


 カチッ


 <ああ、別の転生者が作った水着ですねーこういうのでポイントを稼がないといけないんですよ>


 「(急に出てたなこの野郎! さっきの事忘れたわけじゃねぇからな! で、ポイントってのは何だ?)」


 <これは秘密なので言えません>シラー


 これだ。昔から重要そうなことは口を滑らさないが、俺……というか#俺達__転生者__#に何かさせたいのは確実だが理由が分からないんだよなあ。まあもうすぐ死ぬしいいか。


 「あ、そ。ならいいや、買い物してるからうるさくするなよ?」


 <おや、気にならないんですか? ねええええええ気にならないんですかあぁあああ>


 「うるせえ!? とっとと消えろ!」


 「う……」

 いつの間にか俺の所に来ていたアモルが泣きそうな顔になっていた。


 「あ、ああ!? ごめんな、いつものアレだよアレ! ほら、どうした? 俺に何か見せたいんじゃないのか?」


 慌てて取り繕うと無言で俺に何かを差し出してきた。



 それは……














 ---------------------------------------------------



 何かを企むオルコス。


 そんな中、海へ向かうための準備中アモルが差しだしてきたものとは?


 クリスたちは無事海へ向かう事は出来るのか?


 砂浜で襲いかかる魔物の脅威にクリスたちはどう立ち向かうのか?



 そして、クリス運命は!



 次回「角材」


 ご期待ください。



 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。

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