2. ステラというおばさん冒険者

 おはようございます。


 今日も張り切って冒険者の一日を見て行きましょう! というか皆さん、まだ決めかねているんですかね? 全員集まっているようですけど……。


 ……そうですか、これが皆さんのお役にたてればいいのですが。

 

 それでは、本日はこちらの方の一日を見て行きましょう。

 

 カチッ

 


 「今日はどうするんだい? ダンジョンに行くのかい?」


 「そうですね。ステラさんが来てくれるなら地下二階でゆっくり稼げますし」


 本日の冒険者はこちら、ステラさんです。もう30歳で、結婚をしていない方ですね。

 この世界だと20歳までにはだいたい結婚をするので、まあいわゆる行き遅れというやつですね。


 「余計なお世話だよ!? 喧嘩売ってるんなら買うよ!」


 「ど、どうしたんですか!? 僕、何もいってませんけど!?」


 カチッ


 ……緩いなあ、袖が引っかかっただけでスイッチが切り替わる……。


 こほん。


 気を取り直して、このステラさん。こう見えて……といっても結構美人ですよね?

 魔法使いなんです。


 お、食いつきましたね? この魔法使いという特技のおかげで、この歳でも冒険者としてやっていけているんですね。あまり歳を取ると剣を振るうのも大変ですから。


 昨日のロイデさんはソロでしたが、このステラさんはパーティに呼ばれることがあるほどの実力者です。


 ちなみに愛称はステラおばさんで、シチューが得意だそうですよ。


 え? 混ざってる? 何の事か分かりませんが先に進みますね。




 「「それじゃあ今日もお願いします」」

 

 「はいよ! あたしゃ後衛で見てるから危なくなったら手助けする。それでいいね」


 「そうですね、腕を磨きたいので今日は地下三階へ行きましょう」


 どうやらダンジョンに行くようです。


 ダンジョンは外に居る魔物よりも強いですが、その分素材の買い取り金額が高いので一攫千金を狙う人にはお勧めですね。そこのあなた、パチンコが好きそうな顔をしてますねー、ギャンブルみたいなものですから合っているかもしれませんよ! (命がけですけど)


 ……いえいえ、何も言ってませんよ? では次の場面を見てみましょうか。


 はあ、そういえば次回もおっさん冒険者って言ってたのにおばさんじゃねぇか? 細かい事を気にしますねあなた。だからハゲるんですよ?



 「ふーん、結構みんな腕をあげたじゃないか」


 「と、思っていただけるのは嬉しいんですけど、ステラさんが居るから全力を出せているだけなんですよね、はは。何かあっても助けてもらえるので、つい……」


 カチッ


 

 聞きましたか? こんなおばさんでも、頼りにされるんですよ? いい世界だと思いませんか?

 そこのあなた、差別されて会社で干されて壁際に追いやられたとかそういう経験ないですか?

 この異世界なら! 実力さえあれば、こんなおばさんでもおっさんでも羨望の眼差しで見られるのですよ!



 「さっきからおばさんおばさんってうるさいね! 何だ、壁際に追いやられるって! もう引退しろってか? 実はあたしが居るのは迷惑なのかい!?」


 「え、ええ!? 僕たち何も言ってませんよ!?」


 おっと、また……早く交換してもらわないと困るなあ。


 カチッ


 ちょっとアクシデントがありましたが、リーダー冒険者と仲間が説得して何とか事なきを得たようです。

 話せばきっと分かってくれるんですよ。


 おや、強敵のようですよ。

 

 「火ムカデだ! ステラさん、氷魔法をお願いします!」


 「あいよ! <ロックアイス>!」


 ……巨大な氷の塊であっというまにぺしゃんこになりましたね。


 どうです? 魔法。興味がありませんか? は? どうしてウィスキーの話が出るんですか?


 火ムカデは皮が硬く、防具の素材になりますね。牙にも毒があるのですが、薬の材料としても重宝します。これ一匹で元の世界ならだいたい5万円くらいの収入でしょうか? 


 ざわざわ……。


 まあまあ、落ち着いて。一匹で5万でも、ほら、パーティを組んでいるので一人一万円ですよ? え? それでも生前時の日給より高い? ま、まあそういうこともあるでしょうね。


 こほん……さて、パーティにいる解体のプロがあっという間に解体しましたね。解体は知識も度胸も要るので結構面倒なんですよ。パーティ内に解体できる人が居れば解体代はタダ丸儲けですよ! はい? 解体を頼むとどれくらいかかる? そうですね、5万円の報酬だとして……1万円は解体料で持っていかれるでしょうね。パーティ内でも解体してくれる人には少し多めに報酬を渡すのは暗黙の了解ですから覚えておいてくださいね。


 おや、そこのあなた、解体師に興味がおありで? ……ほう、生前は動物を切り刻む事に興奮を覚えた、と? ここなら合法的に? ええ……そうですか……なるほどー。




 誰かーこの人を摘まみだして昇天させてくださいー!

 

 


 やれやれ、とんだ異常者が紛れていましたね。こういう手合いはその内弱い子供に手を出しますから、今のうちに処理しておかないと。


 では気を取り直して……といってももう町へ戻っている映像ですね。


 カチッ



 「ステラさん! 今日もありがとうございました! これ、少ないですけど報酬です」


 「金貨一枚と銀貨五枚……ちょっと多いんじゃないかね?」


 「いえ、いつも助けてもらってますし。解体師がステラさんに渡してくれと……」


 「……なら、ありがたく貰っておくよ」


 はい、というわけで今日の収入はだいたい一万五千円でした!

 これからステラさんは酒場へと繰り出すんです。

 独り身ですからねー。結婚もしないと、フラフラと。私知ってるんですよ、若い頃好きな男に告白してこっぴどく振られたことを……。


 「どこだ! どこにいる! さっきからおばさんやら、独り身やら告白やら! 言っていい事と悪い事があるよ!? 魔法で消し炭にしてやるから出てこい!!!」


 おわ!? またスイッチが……。


 カチッ


 今日はこの辺で。


 どうです? この世界で生きてみませんか? 今なら確実に人間で転生できるのでお得ですよー。


 はい? 家庭を持ったらどうなるのか? 子供がたくさん欲しいけど生活に不安……なるほど……。


 分かりました。


 明日は、一家の映像をお見せしましょう! 次で最後ですからね?

 そろそろ決めてもらわないとこちらも仕事なもので……。


 では、本日はこれで解散です! お疲れ様でした!








 

 次回! 何の変哲もない一家の日常をお送りします!!

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