第3話

「どうしても何もあったものか! 貴様、自分がどんな扱いを受けたかわかってるのか!」

「だって、私にはそれくらいの価値しかありませんもの!」

「……」

「騎士様のように強くはない。貴族のように尊い血もない。商人の子のようにお金もない。街の子のように親もない。だったら……これくらいしか……」

「……よいか、聖女よ。血筋や金や親がなくても、誰もが平和に生きられるよう政策を施すのが国家の役割だ。お前の国は、それを放棄しているといえよう」

「そんな……」

「それゆえに俺は……。ちょっと待て。その首輪は着替えるときに外さなかったのか?」

「え?」

 

 生贄聖女の首元には、瞳の色にあわせた菫色の首輪がはめこまれていた。武骨な鉄製で、奴隷の首枷のようにR1897と刻まれている。


「は、はい。これは、わたくしの製品管理番号ですし、けっして外すなと神父様に厳命されているのです。私が役目を果たしたときに、首輪だけでも人間界に帰ってこれるよう手配するから、と……」

「なるほど……」


 俺は、生贄聖女の首輪に手をかける。

「魔王様……?」 

 時を同じくして、ジンの切迫した声が響いた。

「魔王様、お逃げください! 生贄の首輪には爆弾がしかけられて………!」


 次の瞬間、魔王城には雷鳴が轟いた。否、聖女の首輪が爆発し、魔王城が崩壊したような音だった。

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