第7話 共闘

後ろの黒い生物には五寸釘と金槌が握られている。

木々の隙間から光が入りその黒い生物の形が浮かび上がった。


「藁人形?」


「ここは、貴船じゃからな! 納得が行く」


「どういうことだ?」


「知らないの?  藁人形の呪い」


「そうじゃ! 藁人形を呪いたい人間に模して、釘を突き刺すのじゃ!」


「そういえば、聞いたことあったなそんな話」


「藁人形を打っている事を見られたらその人間は死ぬ!  そこから、壊霊になってしまったんじゃろう」


「呑気に解説してる場合かよ!」


霊が完全には見えない、菫の手を引きとにかく逃げた。

足が早い。

いや、疲れて俺達の足が遅くなったのか!


「チクショウ!」


「ねぇ、まだ追われてるの!」

菫の息がかなり荒い。

もう体力の限界なのだろう。


「頼む、頑張ってくれ!!

 晴明!どうにかならないのか?」


「すまぬ!誰か動きを止めてくれるものが居れば!」


「痛!」


「相楽さん!」

菫が木の根っこに引っ掛かって、転けてしまった。

マズイ……


藁人形の壊霊が、五寸釘を菫に向かい振り下ろす。

駄目だ!間に合わない!

この先の事に目を閉じてしまった。


「危ない 危ない!間一髪であったな!」

目を開けると、藁人形の壊霊の腕を掴み敵の動きを止めている天狗の姿があった。


「え!どうなってるの??」


「菫、とにかくこっちに来るんだ!」


「隆!頼んだぞ!」


「わかってるよ!」

この前の時より、遥かに厳しい。

天狗と藁人形が戦闘している中に突っ込まなければならないのだ。

まずは、天狗を含め円を描く。


「よし、ここまではOKだ」

そうだ問題はここからだ。

恐怖心に打ち勝てるかどうか。

おそらく何があっても天狗が何とかしてくれる。


「ふぅ~」

深く息を吸い込み天狗に入れ替わるよう目で訴える。

天狗が一歩間合いを引いた瞬間に真ん中に突っ込む。

五寸釘や金槌が俺に向かって振り下ろされる。

ひらりとそれらを避け、五芒星を描いていく。


「晴明は、こんな中で五芒星を描いていたのか」

全く凄い奴だ。


残り一本の線を描くとき安堵から隙を生んでしまった。

一瞬、藁人形の武器から目を離してしまったのだ。


「やば!」

やられると思った。


「グォ~」

藁人形が突然バランスを崩した。

釘が俺の横で空を切る。


「ぼさっとするでない」

どうやら晴明が足に体当たりをしてくれたようだ。

この隙に俺は飛ぶように残りの一線を引いた。


「あとは、任せるのじゃ!」

晴明が、素早く宝石たちを置いていく。

五芒星から出ようとした藁人形を天狗が押さえつける。


「隆!今じゃ!」


「五体の聖獣たちよ、その力もって壊霊を沈めよ!!」

唱えた瞬間藁人形のみがすっと光の粒になって消えていった。

この前は、火の光の中であったからわからなかったのだろう。

ダイヤの粒が空に上がっていくような光景だ。


「うまくいったの~」


「本当にな!」

よくよく考えたら、この前とは逆だ。

なんだったら、五芒星も俺が描いた。

ぶっつけ本番。

そんなリスクを良く犯したものだ。


「よくやったぞ!」


「いえ、こちらこそ助かりました。 ありがとうございます!」


「そこにいるんですよね? 天狗様、ありがとうございます!」


「この雀に、おぬしたちが帰るのを見守れと頼んだ!」


「それで、僕たちが追われていることを知ったのですね!」

合点がいった。

この場所にピンポイントで助けに来てくれた事が少し不思議だったのだ。


「ここからは、私が護衛について駅まで送ろう!」


「すいません! よろしくお願いします」

そこから駅まで、天狗の背中に菫。

腕に俺を抱えて、駅まで送ってくれた。

藁人形に襲われたことで、後から腰が抜けてしまったのだ。

天狗の腕は逞しく、安心が無限に続いているようだった。


「ありがとうございました!」


「助かりました!」


「うむ、では晴明殿! 後は、よろしくお願いします!」


「わしゃに任せておれ!」


「では、皆さん。また、遊びに来てください!」


こうして波乱万丈な夏休みを終えたのだ。







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