第14話 海外旅行!

 中間試験が終われば、夏帆の高校は少し長めの休みをもらえる。

 中間試験なのに試験休みがある学校は割と珍しいらしく、同じ地域の他の高校からはかなり羨ましがられていた。

 実はその分だけ夏休みと春休みで調整されているという事実は、以外と知られていない。


「やっと終わったぁ」


 ホームルームを終えた教師が教室から出て行くと、待ちかねていたように美紀が大きなノビをする。

 開放感に浸っているのは美紀だけではなく、あちこちから悲喜こもごもの声が聞こえてくる。


「夏帆、明日からだっけ?」

「ううん。帰ったら、すぐに出発」

「いいなあ。南の島に一週間か。あー、部活サボりてぇ。あたしも行きたいよぉ」


 だらだらと机に突っ伏しながら、美紀が駄々をこねる。

 運動部に休みらしい休みなんてあるわけもなく、ここぞとばかりに強化練習が組まれているらしい。


「静香は? バイトかなんか?」


 二人の席までやって来た静香に、美紀が気だるそうな声で訊ねた。


「私はドイツ。父さんの仕事のついでに、姉さんに会いに行くの」

「うそ! じゃあ、何か? あたしだけ汗かいて走り回ってろと? ああ、クソ。世の中不公平すぎる。二人とも男つくって帰ってくるんだ、きっと。でもって夏休みはラブラブになって、秋には衝撃の出来婚だ」


 やさぐれたように美紀が二人をジト目で睨む。


「ロマンスの神さまって、どこにいるんだろ。夏帆、知ってる?」

「わたしが知りたいよ」


 軽く答えつつも、自分が誰かとつきあっているという姿がまるで想像出来ない。


「それにさ。男も何も、わたしはアリエルとずっと一緒だってば」

「わかるもんか。向こうにもいい男は一杯いるだろうし。第一、アリエルさんに彼氏いないわけないじゃん。あんなに綺麗でカッコ良いのに。夏帆、そしたらお邪魔虫だぞぉ」


 美紀の指摘に、ぐっと言葉が詰まる。

 その可能性はまるで考えてみなかった。

 けど、言われてみたらその通りだ。あれだけ綺麗なんだし。そう考えると、ちょっと……いや、かなり悔しい。


「美紀だって、相手いないじゃん」

「うっさい。あーあ。いいなあ。一度ぐらい、海外旅行に行ってみたいなあ。静香、連れってよー。北極とか。ペンギンだっこしたい。眉毛の凛々しいヤツ」

「神崎さん、北極にペンギンはいないよ」


 みーっと泣き崩れる美紀を、静香がよしよしとあやしながら教室の時計と夏帆を見比べた。


「夏目さん。時間、大丈夫?」

「あ、そうだった! そうだ。お土産のリクエストある?」


 パタパタと荷物を片付けながら、聞くとうっそりとした美紀の声が返ってくる。


「おとこー。それも格好いいの」

「だから、男は関係無いってば」

「それじゃあ、あれ。星砂ってヤツ。あれでいいや。南の島っしょ?」

「星の砂、ね。おっけー。静ちゃんは?」

「神崎さんと同じでいいよ。それより気を付けてね。ちゃんと、先方さんの言うことを守ってヘンなもの食べたりしないで」


 携帯に美紀と静香のリクエストをメモして、パタンと閉じる。


「大丈夫だって。子供じゃ無いんだから。それじゃ、行ってくるね!」


 勢いよく教室を飛び出していく夏帆を見送っていた、静香と美紀が思い出したように吹き出した。まるで子供の遠足を見ているみたいだ。


「子供じゃ無いって、まるっきりお子さまだよ」

「初めての海外旅行だもの」


 羨ましいような、寂しいような気持ちで夏帆を見送っていた美紀がぽつりと呟く。


「なんか、くやしいなあ」

「寂しくなった?」


 少し考えて、美紀は小さくうなずいた。


「妹を男に取られた兄の気分」

「子供のころからのお友達だもんね」

「まあね。ところで、静香さ。兄貴のことが気になってんなら紹介するよ? あたしと違って頭だけはいいし。甲斐性はなさそうだけど」


 イジワルな顔つきで、美紀はにんまりと静香を見上げた。不意を突かれた静香の顔がほんのりと桜色に染まる。


「ちょ、ちょっと。神崎さんってば」

「んー。いいねえ。初々しくて。夏帆のチャームポイントはほっぺただけど、静香はどこかなー。兄貴に教えてやんないと」

「もう、神崎さんったら! お土産買って来ないよっ」


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