第15話 悪夢


 犠牲者がある人数を超えた瞬間、それまで整然と避難していた住民がパニックを起こし、統制が取れなくなった。


 最初は避難民の一部、カオナシが肉眼で見える範囲だったが、それがどんどんと伝播でんぱしていった。


 住民は前を歩いている者を押し倒し、我さきにと逃げ出し始める。


 そうすると肉体的に弱い、子ども・老人・女性が被害を受ける。


 数万人のパニックによって、群衆圧力で圧死する者まで出てくる。


 王都警察はそれを抑えようとするが数が違いすぎる。


 小さな子どもや老人はパニックになった群衆によって数百人単位で犠牲になる。


 そうなると、もはや避難どころではなかった、殺到する住民同士が殴り合い、時には殺し合いまで起きている。


 至る所で悲鳴と叫び声が起こり、東側への避難が遅々ちちとして進まない。


 そのうちに群衆にカオナシが突っ込んできて、また百名単位で死者が出る。


 王国騎士団も攻撃を加えようとするが、近づく団員はことごとくカオナシによって撃破され、騎士団もすでに30名近い犠牲者が出ている。


 それでも、王国騎士団は空を飛んでいるだけましなのかもしれない、地上に配置されている王都警察は群衆によってもみくちゃにされて、生きているのか死んでいるのかも分からないような状態の職員が多数出ていた。


 カオナシはそんなパニックになった住民の中から幼児を見つけ出し、悠々と食事をしている。


 ただ、もし、カオナシが人であればなんでも食料として認識していたのであれば被害はもっと大きかったかもしれない。


 群衆の中にいる幼児だけを見つけ出して、いやらしく食べる。


 それも口に入れるまでは大事に大事に傷をつけずに持ってくる。


 そして、牙で幼児の珠のような肌を傷つけないようにして舌で圧し潰して食べる。


 人が葡萄ぶどうを食べるようなやり方である。



 そして、カオナシは群衆の中からまだ生きている幼児だけを何人も何十人も見つけ出しては口に入れていく。


 



王都には混乱と絶望と死が充満していた。





 そう、そういったタイミングだった、遠くから群衆の上をPN-1の轟音がカオナシ目がけて飛来してきたのは。

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