乙女ゲーのヒロインに転生しましたが、悪役令嬢によって攻略済みの世界でした~スローライフ希望なのでそれでオッケーです!~

ゴルゴンゾーラ三国

01

 最初は全く世界の違和感に気が付かなかった。


 何故か、と言われれば、『黎明のアルケミスト』という乙女ゲームのファンでありながら本編を真面目にやっていなかったから、と答えるしかない。

 しかし、いくら本編をほとんどプレイしていなくても、パッケージに写る攻略キャラクターくらいは分かる。

 分かると、思い込んでいた。


 わたしの店に訪れた団体に、ふと、違和感を覚えて――わたしは思わず固まってしまった。


「姫鶴(ひづる)、お前の黒髪にはこれが似合う。姫鶴の美しさを際立たせてくれるはずだ」


 完璧主義でプライドが高いくせに口下手なため、周囲に勘違いを起こさせる、と公式ホームページで紹介されていた青慈(せいじ)。

 ――目の前にいる彼は、緩み切った笑みを見せ、華麗に少女を口説いている。プライドが高いそぶりも、勘違いを起こさせる要素も感じられない。


「そう? ボクはこっちの髪飾りのが似合うと思うけどな」


 子供っぽくて弟系、あざと可愛い小悪魔男子、と人気投票で一位を取った詩黄(しき)。

 ――姫鶴と対等な”男”として彼女にすり寄る彼からは子供っぽさも可愛らしさも感じられない。


「俺らの姫様なら、どっちも似合うだろ」


 俺様系で若干のナルシスト。実弟の詩黄と反するようにやや粗暴な態度も彼の魅力のうちの一つでしかないとファンから認識されているメイン攻略の赤希(せっき)。

 ――棚の商品を触る手つきは優しいもので、乱暴っぽさは感じられない。


「はいはい、喧嘩しない。ひぃちゃんに似合う装飾品が多いのは今に始まったことじゃないでしょ?」


 無口で寡黙、とにかく心の壁が厚く仲良くなるまで時間がかかる、と噂の隠しルートキャラの湖黒(こぐろ)。わたしはしっかりプレイしていないから、公式サイトにもしっかりとした紹介のない彼の個別ルートは詳しくないが。

 ――四人の中でもひと際目立ってキャラ崩壊しているように見える。どことなくオネエ男子っぽい。


 そして、その四人の中心にいる一人の少女。


 わがまま放題でありながら、男を手玉に取るのが上手いぶりっ子系悪役令嬢と紹介されていた、ライバルヒロインの姫鶴(ひづる)。

 ――男を手玉に取るという腹黒さも、ぶりっ子というわざとらしさも、どちらも全然感じられない屈託のない笑みは、到底知っていた設定のものとは思えない。


 愛おしいものを見る様に微笑む彼らと、活発にはしゃぐ彼女を目の前で見て、流石におかしいと気が付いた。見た目は確かに『黎明のアルケミスト』のパッケージやホームページに描かれていた彼らなのだが、雰囲気や態度が全然違うので、別人にすら感じる。


 ――いや誰だお前ら!

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