それぞれのカタチ

春嵐

01

 人を、好きになったことがない。

 正確には、嫌いになったことがない。人を嫌わないというのは、好きにならないのと同じことだった。人に対して、感情が動かない。好きなアイドルとか、好きな映画のキャラクターはいる。でも、映画に映るのは現実の人間ではないし、アイドルは仕事であって人格ではない。


摩亜めあちゃん。出番です」


 マネージャ。入ってくる。


「はい」


 言われるままに。ステージに立つ。そう。わたしはアイドル。多くの人に、愛と希望を与える存在。だけど、何も、感じない。多くの観客を前にしても、緊張しない。人がたくさんいるなと、なんとなく思うだけ。

 歌う。歌だけは、なぜか上手かった。べつだん、技術があったりするわけでもない。ただ、歌っているだけ。踊っているわけでもない。それでも、たくさんの人が、わたしの姿に多くのものを感じて、応援してくれた。

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