第2話 妹

 僕がVtuberとして活動を始めたのは1年前。

 企業・個人問わず、大勢のVtuberが現れ、消えていった頃。

 当初は全然登録者も伸びなかった。

 僕は個人で活動をしているので、企業所属のVtuberのように配信前に登録者がいるなんてことは無く、当然0。

 そして、僕自身も、自分が面白いことを話せるなんて思っていなかった。

 それでも、それを続けようと思っていたのは、Vtuber自体が好きだったからだ。


 それが変わったのは、妹の海菜のおかげだった。

 今の登録者約50万人のうちの9……いや、8割5分……もしかしたら9割9分かもしれないけれど、とにかく大部分は海菜のおかげだと思っている。


 ある時、僕が、見てくれる人が増えない、と海菜に愚痴をこぼしてしまったところ、海菜はゲームを作ってきた。


 その時は本当に、驚いた。

 海菜は俺のVtuberの皮、つまり見た目の絵を描いてくれた。

 それもかなり驚いたのだけど、ゲームを作れるなんてことは聞いたことも、見たこともなかったので、訊ねてみれば初めて作ったと。

 それを配信でやってみて、と。


 出来はともかく、今まで世に出たことのないゲームなら、誰かしら興味を持ってくれるのではないかと思い、実際に配信でやってみた。

 当時はロケハン、ロケーションハンティングと言い、ゲームに対して使われる時は、配信前にそのゲームを実際に少しやって、配信内容を決めたりすることを意味する。

 配信でぐだってしまうことも考えたのだが、はじめてやってみた、という演技をできるとは思えず、ぐだることを覚悟して、その時はロケハンをしなかった。。


 ある意味、海菜の作ったゲームは問題があった。

 件のゲーム、『ばか×ろわ』は、名前の通り、バトルロワイヤル系だったのだ。

 しかし、対戦相手がいない。

 NPCはいても、世の中に出されていないので、他のプレイヤーがいない。


 だが、そのゲームは想像以上に話題になった。

 『バカゲー』として。


 海菜の『ばか×ろわ』で使えるキャラクターは、おもちゃの兵隊、ニホンオオカミ、魔女の3体だった。

 のちにキャラクターは、侍、すもーれすらーなど、増えていくのだけど、初期はそれだけだった。


 おもちゃの兵隊は全身緑色で両足が板で固定されているグリーンアーミーメン、ニホンオオカミは一応狼のように見えるドット絵で、魔女は魔女のコスプレをしているようなリアルなお姉さんといった特徴あるキャラしかいない。

 他にもグリーンアーミーメンの銃の効果音が布団をたたく音であったり、ニホンオオカミは攻撃音が全くの無音であったり、魔女の使う魔法は金属の擦れる音であったりと、戦闘に似つかわないものであった。


 そんなふざけた内容ではあったが、ゲームとして面白かった。

 バランスであったり、操作性も世の中で有名なバトルロワイヤルと比べても、遜色なかった。


 本当に、面白かった。


 僕のような、登録者も全然いないようなVtuberの、たった一度の配信で話題になってしまうほどに。

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