Day.3 落葉

 庭の木の下は降り積もった落ち葉で地面が見えなくなっている。冬になれば消えるだろうか。庭先から門の辺りまで落ち葉だらけで不思議な気持ちだ。

「今年は落ち葉が消えるのが遅いわね」

 私の髪を整えているマーサにそう言うと、ええ、と彼女は曖昧に頷いた。鏡越しに見ると、どこか困ったような、悲しそうな、寂しそうな顔をしている。最近のマーサはこういう顔をすることが多いが、調子でも悪いのかと訊ねても否定するばかりなので私にはどうすることも出来ない。

「今日のお洋服はどうなさいますか?」

 そうだ、今日は久し振りに父と食事をするのだった。久し振りにあの帝国シルク製のドレスにしようと言うと、マーサはまたあの顔をして、今手入れに出しているところだと言った。仕方がないのでお気に入りの夕陽のドレスにすることにして、髪の手入れが終わった私は鏡の前から離れた。

 今日は何をしてすごそう。刺繍もいいし、読書もいいが、そう、温室でお茶でも飲もうか。マーサにそう伝えると、彼女は用意をすると言って部屋を去った。お茶の用意をするのは私付きの彼女ではなく、メイドではなかっただろうか。マーサはなんでも出来るから問題はないのだろうけれど。

 私はふたたび窓から庭を眺める。遠くに人影が見えた、少し早いが父だろう。父はいつからか屋敷の前まで馬車で来ることをやめていて、少しお腹周りがすっきりしたようだった。

 お茶をご一緒出来るかもしれない。マーサに伝えるべく部屋を出て、廊下を歩く。秋だからか日差しは強くなく、廊下は少し薄暗く感じる。玄関ホールを通りすぎようとすると、丁度父が自ら扉を開いたところだった。フットマンが間に合わなかったのだろう。

「お父様、お帰りなさい!」

「ああ、ただいま」

 父はにっこりと笑い私を抱き締める。久し振りだからかなんとなく胸がじいんとする。私は子供ではないしそんなつもりはなかったが、やはり無意識のうちに寂しかったのかもしれない。

「今度はゆっくりしていかれるの?」

「いや……また三日後には出なければ……お前には寂しい思いをさせてすまない」

「あら、私もう子供じゃなくてよ? お父様がお忙しいのはわかっていますわ」

 父は眉を下げると黙って私をもう一度抱き締めた。父も私と同じように寂しい思いをしていたのかもしれない。そっと背に手を回して子供にするように撫でると、びくりと肩が震えて動かなくなってしまった。どうしたのだろう。お疲れなのだろうか。

「……お父様?」

「いやすまない、久し振りにお前に会ったものだから……私も年だな、涙もろくていけない」

 父は私から離れると軽く目頭を押さえた。私が安心させるように微笑んでみせると、ぐっと一度唇を噛んでから苦笑した父は私の隣を通りすぎようとして足を止めた。

「そうだ、……今日は大事な話がある。食事の時に話そう」

「? わかりました」

 階段を上って行く父を見送った私は、ああ、お茶へ誘うのを忘れてしまったと思った。

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