荷物持ちなんだが、俺のハーレムパーティの女が最強で美少女なのにアホすぎる!

杜甫口(トホコウ)

第一章 俺の異世界転生!

 俺の名前は荷井刃弧武ニナイハコブ18歳!


 美少女とハーレムにちょっぴり興味があるってだけの、どこにでもいるごく普通なイケメンナイスガイだ!


 突然だが俺はついさっき死んだ!

 今居るのは周囲を無機質な白い壁で囲まれた広さ16畳ほどの部屋。


 天井がめっちゃ高いのと、こじんまりとしたソファーとサイドデスクがある事以外は特に変わったところはない。後はなんか食い散らかしたアイスの包装があるくらい。


 知ってる!

 この状況、俺は知ってるぞ!!


 アニゲーオタの俺が推測するに、これは異世界転生という奴だ! この後きっとオトナな女神様が現れて、優しい声で『アナタは残念ながら死んでしまいました』とか言ってくれる!!


 そんで悲しんでる俺を優しく励ましてくれて、チート性能なスキルとかくれて異世界に旅立たせてくれちゃうのだ!!


「そしたら俺は最強無敵! チートスキルで女勇者とか聖女とか賢者とかケモミミ奴隷少女とかを片っ端から助けまくって仲間にし、俺だけのメチャモテハーレム帝国を築くのだ!!! うははーッ!!!」


 なんて握りこぶしを突き上げながら喜んでいると、さっそく天井付近がパアアっと明るくなった。俺が片手をかざしながら見上げると、煌びやかな光がカーテン状になびいて、その向こうから何者かが降りてくるのが見える。


 おお、さっそく俺の女神が降りてきたぞ!?

 どうせならこのす〇のア〇ア様みたいだといいな! 俺ああいう一見アホだけど強いし可愛いしおっぱいデカいしなんだかんだ優しくって母性溢れるタイプって控えめに言って超大大大好きなの!!


 だから来たれア〇ア様! 俺が異世界に持ち込むのは『あんた』だ! 

 なんつってな!? グワハハハハーッ!!!!!


「はじめまして。私は転生の女神エリシャ。貴方を転生させる者よ」


 ………………………………………………………………………………。


 やがて俺の前に降りてきたのは、たぶん女神だった。

 だが俺が期待したものとは断じて違う。

 そいつは蒼髪だったが吊り目のツインテール。

 しかも見た目の年齢は12か13くらい。

 肌は染み一つなく透き通るように白いが、いわゆる象牙とかシルクみたいっていうよりはお菓子。マシュマロみたいにプニプニしてそう。

 身の丈も俺の半分くらいだし、当然出るところも出てない。

 なのにビキニみたいな服の上からビスチェドレス、いわゆる肩出しの胸元を強調したシースルー生地のドレスを着てやがる。

 こいつじゃなくてもっとオトナなお姉さんとかが着たらおっぱいとか乳とかボインとかでおちんちんが核爆発起こすのにそれが台無しである。


 ……。

 台無しである(切実)!!!


「なんじゃこのちんちくりん幼女神はあああああああああ!?!?!?! 胸ぺたんこだしケツも小さいしただの生意気そうなガキだしで全然俺の好みじゃないいいいいい!!!! キャンセルだキャンセル!!! 女神キャンセル!!!! 女神ガチャ引き直しいいいいいい!!!!」

「ち、ちんちく……ッ!? ちょっとアンタ! いきなり全力で人の容姿をディスるんじゃないわよッ!!! つうか初対面でアンタなにフザケてんの!?!!??」

「お願い今すぐ歳取って!? それかお母さん紹介して!!? お姉さんでもいいから!!!」

「フザケた事抜かしながらあたしに抱き着くなああああああああ!!!!!」


 俺がケンゼンなイチ男子高校生として当然の権利を行使しようとすると、幼女神もといエリシャがそのちんまい両腕を振って俺をボコスカ殴ってきた。


 痛い痛いけっこう痛い!!?


「なぜだ!? 女子に嫌われる事なんかこれっぽっちもしてないというのに!?」

「自覚ないんかいドアホウ!! セクハラと強姦未遂で禁固1000億年申し付けんぞ!!!」


 エリシャが両腕で自分の体を隠しながら涙目で叫ぶ。


 1000億年って宇宙まだ始まってねえぞ!!

 つうか涙目なのはこっちの方だ!

 俺のア〇ア様を、俺のア〇ア様を返せええええええ!!!


「まったく……見た目は普通っていうか、背が高くてスマートで黒髪茶色目でわりとイケメンなのに中身なんでこんな残念なの……!? もはやギャップって一言で許されるレベルじゃないんだけど……!?」

「急に褒めんなよ照れるぜ」

「ほめてねえよ!!」

「ふっ……俺も女の子からモテるために見た目は勿論中身も色々気に掛けてるからな。だからよく後輩とかからも『先輩、警察に被害届出していいですか?』とか『1時間1万円なら付き合ってあげなくもないですけど?』とか『あ、別途タクシー代も出してくださいね? 先輩の隣歩くの私嫌なんで』とか言われちゃって、それはもうモテまくりで困ってたからな!!」

「なんか武勇伝語り出したよコイツ!! だけど全然武勇伝になってないよただの黒歴史だよこれ!?」


 俺が現実世界でいかにメチャモテハーレム無双をして来たかを披露すると、エリシャがギャーギャー騒ぎながら自慢のツインテールヘッドを抱えて蹲ってしまった。


「どうしたエリシャ。何か悩みでもあんのか。聞いてやるぞ?」

「ハア……! こんなヘンタイクズのゴミ性犯罪者送っても、絶対世界救えないでしょ……そしたらあたし、また『役立たず』って思われちゃうじゃない……!」


 俺が優しい目をしてそう言うと、幼女神もといエリシャがため息吐きながらブツブツ独り言をし出した。

 そしてソファーに座りサイドデスクに置いてあったタブレットのようなものを操作し始める。気付けばいつのまにやら、頭にもマイク付きのヘッドフォンみたいなものを頭に装着していた。


「あ、上級神さまですか?……あの、どうしましょう。明らかに自分の事しか考えてないドヘンタイクズが来ちゃったんですけど……こんな奴送ったって逆に迷惑どころか世界滅びかねないですよ……え、自分で選んだ人の事悪く言っちゃダメって? でもー……」


 エリシャが天井を見上げながら独り言をし始める。

 どうやら別の場所にいる神様と交信してるらしい。


「うーん……ダメって言われたけど、こいつやっぱ地獄行きよね……今度ミスったらあたし女神クビだし……」


 やがてヘッドフォンを外すと、エリシャがブツブツ呟いた。


「って!? なんだよ地獄って!? 俺、異世界じゃなくて地獄に行かされんのかよ!? そしたら俺のメチャモテハーレム帝国の野望は一体どうなるんだ!?!?」

「そんなもん知らないわよ!! アンタみたいなクズは地獄行き!! 地獄で反省するの!! わかった!?」

「わかった!!!!!!!」


 俺ははっきりウム、と頷いた。


「へ?」


 俺の返答を聞いてエリシャがきょとんとしている。

 てっきり駄々でもこねると思っていたんだろう。

 たしかに俺としても苦渋の決断だった。


 だが仕方ない!

 正直この手だけは選びたくなかったが、そこまで言うなら譲歩してやろう!

 俺のメチャモテ異世界ハーレム冒険譚を完成させるためには、多少の犠牲はやむを得ないからな!!


 そこまで考えると、俺はアゴを少し上げ、高みから見下ろすようにしてビシッとエリシャを指差した。

 そして、


「俺が選ぶのは、『あんた』! 正直ちょっといや全然全く俺の好みに合わないが、一つだけ持ち込む『もの』としてお前を選んでやる! だからさっさと俺を異世界に連れていけや!!!」

「何の話だッコラああああああああ!??!?!?」


 すると甲高い声でエリシャが喚き散らす。俺は構わず続けた。


「何ってハーレムの話じゃん。お前俺に選ばれなさそうだからって拗ねてるんだろ? 仕方ないから俺の恋人一号として連れてってやるよ。だから感謝しろ」

「意味解らんし!! なんでドヤ顔であたし恋人にしようとしてるのかワケわからないしいいい!?!?!?!?!?」

「まーたそんな事言っちゃって! ホントは俺のこと大好きなんだろ? ほらこの〇ばのアク〇様もさー結局……!」

「人の話を聞けええええええ!!!?!?! あたしはこのすばのアクア様じゃないいいい!!!」

「あーあ言っちゃった! せっかく伏字にして言わないようにしてたのに、あーあ!」

「ふ・ざ・け・ん・なああああああ!!!?!!??!?!!」


 エリシャは「うがあああああああ!!!」叫びながらソファークッションをゴスゴス殴っている。


「やれやれ気性の荒い女だ。暴力女はモテないぞ」

「てめえのせいだわボケええええええええええ!!!」


 何を怒っているやら、せっかく整ってたエリシャの顔面がすっかり崩壊している。


 しかしこの女神、案外オタネタもイケるらしい。

 なんだか俺の幼馴染に似てんな。あいつ地味だし根暗だし自分に自信なさすぎだしでコイツとは全然違うんだけど、素の自分出し始めるとこんな感じになるから。

 あいつ元気かな。

 またイジメられたりしてねえといいけど。


「ああああもう決めた!! 絶対決めた!! あんた地獄行き!!! あたしの力で即刻地獄に送り付けてあげる!!!」


 なんて俺が現世に想いを馳せていると、エリシャが叫んでその白い両腕をグルングルン振り回し、何やら印のようなものを組んだ。

 するとどこからともなく風が吹き、俺の足元に幾何学模様をした魔法陣が現れる。


 なにコレやべえ!?

 なんとかしねえと!


「地獄なんてイヤだあああああ!! もしそんな所へ落とされたら、俺はああああああああッ!!!」


 俺が頭を抱えて狼狽えだすと、


「ふふーん。俺はァ?」


 エリシャが元々可愛げのない吊り目を更に吊り上げてニタニタ笑い始めた。


「俺は鬼の角を生やしたねーちゃん達に金棒で一生どつかれて過ごさなければならないじゃないか!! ああッ! 針の山で地獄の女の子たちと刺しつ刺されつッ!!! 気持ちいい!! 超気持ちいいぞーーーッ!!! これは新たな快感に目覚めてしまう予感!?!?! ああクーデレ女閻魔様の笏でお尻ぶっ叩かれたい!!!!!」

「んなもんいるわけねえだろッがあああああああああああ!!!!!!」


 俺のボケにエリシャが全力でツッコんだ。


 今だ!


 その一瞬の隙に、俺は駆け出す。

 正直なところ、やっぱり地獄は嫌だった!

 だがこの部屋に出口らしきものはない。このままでは俺の未来は決まったも同然。


 ならばどうする?

 そう、エリシャの弱点を突くのだ!

 俺が助かる道はそれしかない。なんとかこいつの弱みを握って地獄行きを回避する。


 ではエリシャの弱みとはなんだろうか?

 ずばり上司であるッ!! さっきクビとかなんとか言ってたし!!


「エリシャあああああああッ!!!!」

「えふぎゃあッ!?」


 俺はサイドデスクに向かって走り、エリシャをソファーに突き倒した。頭からソファーに落下したエリシャはモコモコのソファークッションの中に埋もれている。

 そのまま奴のヘッドフォンを取り上げると、それを自分の頭に装着した。そして、


「上級神! 聞こえるか!?」


 俺はマイクに向かって呼びかけた。「ちょ!? 敬語使ってよッ!?」後ろでエリシャの声が聞こえたが、すぐさまクッションの下に埋め戻す。余計な音声が入っては面倒だ。


「あらあら~? なんですかあなた~? エリちゃんじゃありませんね~?」


 もう通信切れちゃってるかな、と一瞬思ったけど回線は繋がっていた。

 ヘッドフォンからは上級神らしき声が聞こえてくる。

 間延びしていかにも温厚そうな女性の声だ。

 可愛い。


「自分は転生者だ! それよりエリシャなんだが、こいつ転生の仕事サボってアイス食ってるぞ!!」


 俺はデスクの上にあったアイスの包装紙を指差して言った。

 昨今のオフィスでは勤務中にオヤツぐらい当たり前な所が多いらしいが、転生のお仕事はどうなんだろう。ちなみに授業中なら一発アウト(二敗)。


「……そのアイスは何味ですか~?」


 すると上級神が尋ねてきた。

 さっきよりも声が低いせいか、温厚さが消えて疑うような口調に聞こえる。


「チョコミントです!! しかも〇城のチョコミントマカロンアイスですよ!! コンビニで売ってる高い奴!!」


 俺は空の包装紙に書かれたカタカナ表記を見ながら叫んだ。

 貧乏だから買ったことないが、パッケージからして美味しそうなアイスだった。


「は!? チョコミント!?……それも〇城……ッ! 〇城チョコミントマカロンアイスですって……!? 私でも食べたことのない高級アイスを……それは絶対許せません!!」


 チョコミント、という単語を聞いた瞬間、上級神さんの声色が変わった。

 それまでの間延びした感じが抜けて声がわなないてる。

 明らか怒ってる感じだ。


 なんか知らんが、ビンゴ!!


「ふざけんなあああああああああ!!!!」


 するとエリシャが叫びながらソファーのモコモコの中から跳び出してきた。

 奴は俺を突き飛ばすと、更に背中から白銀の翼を生やして、


「だっしゃああああああああああ!!!!!」


 女神っていうかプロレスラーみたいな奇声を上げながら俺にラリアートをブチかまそうとしてきた。

 こっちは起き上がろうとしている体勢で不利。

 しかし!


「高校生なめんなああああああああああああああッ!!!!」


 俺は襲い来る腕を日ごろのバイトと電車通学とカバン持ちによって鍛えた膂力で押さえ、逆に顔面わしづかみのアイアンクローをぶちかました。


 通学片道一時間半は伊達じゃねえぜ!!


「ぐっひいいいぃんッ!?」


 女神が女神らしくない悲鳴を上げる。

 俺の手首を掴んでジタバタしてる。床に足が付かないのだ。


「――ダメよエリちゃ~ん。転生して下さる方にご無礼を働いちゃ~?」


 次の瞬間、俺とエリシャの傍らに現れたのは、キレイ系のお姉さんだった。

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