第25話 秘密工場とカニ風味カマボコ

 ナトラに御者をさせてタルフへと向かう。

 街の門をナトラの市民権を使って通過して、町外れの家屋へ。

 民家のようだったが、地下に隠し部屋があり、レジスタンスのメンバーが詰めていた。

 ナトラを入れても6人。あまり人数は多くない。


 リーダー格らしい男から、街の実権を握るイビカ教徒について説明を受ける。

 領主コルネフォロスが親玉。

 彼はイビカ教徒から盟主と呼ばれ、その下に幹部として郷と呼ばれるイビカの暗黒郷達が連なる。


 情報源は潜入しているレジスタンスの一員で、役人として街の政務局に出入りしている。


 本拠地は郊外にある城。

 しかし堀と壁。そしてイビカ兵によって守りを固められているため、城の内部については情報がない。

 その城の中で何が行われているのかを突き止めなければ、皇帝も選帝侯も動いてはくれない。


 キオネは地図を見て言う。


「街から離れてるわね。

 侵入経路を調べないと城までたどり着けもしないわよ」


 しかしそれにナトラが異を唱えた。


「ああ、侵入経路については調べがついてるんだよ。

 堀から水路を通って、城の中に入れるってさ」


「分かってるなら何でまだ調査してないのよ」


「いやあ、潜入は出来ても敵の本拠地だからさ。

 中の構造も分からない状態じゃ調べられないでしょ。

 その点、2人は上手く出来るんだよね?」


 ナトラの問いを受けて、キオネへと視線を向ける。

 キオネの能力を使えば、一度潜入さえしてしまえば城中をくまなく調査することが出来る。

 だが彼女は不服そうな顔をする。


「私に泳げって言うの?」


「泳げない?」


「そうは言ってないわ」


 ナトラの問いにキオネはうんざりした様子で返す。

 それから地図を見て、肝心な点について指摘した。


「水路の状態はどうなってるのよ」


「それについては資料があった。

 はいこれ。城の中にある井戸まで続いてる」


 簡素なスケッチを示されて、キオネは眉をひそめる。

 水路の距離は長い。そして堀の水面を意味する線からして、水路は完全に水没している。


「息持つ距離なの?」


「そのあたりはナトちゃんが上手くやるって!

 善は急げだよ。こっちの準備は出来てるから、ちゃちゃっとやっちゃいましょ!」


 ナトラの勢いに押され、そのまま城へと潜入することに。

 レジスタンスのメンバーが城の警備情報を一部だけ把握できていたので、隙を見て堀の中へ。

 潜入メンバーは僕、キオネ、ナトラの3人。


 堀の水は清潔とは言いがたい。

 その中に潜って、目的の水路へ。水路は狭く、人が1人通り抜けるのがやっとの幅しかない。

 前を進むナトラから空気の入った泡が送られてくる。


 キオネは泡を1つ掴んで、カニを召還して中の空気が安全かどうか確かめてからこちらへと渡した。

 泡に顔を突っ込み、酸素を吸って水路を泳いでいく。


 井戸へは意外と直ぐにたどり着いた。

 水面に顔を出し、見上げると明かりが差し込んでいる。

 

 キオネが外を調べるためにとカニを召還して井戸を登らせる。

 しかし結構時間がかかりそうだと分かると、ナトラは新たにカニを召還して、直径5センチばかりの泡を作り出した。


 声を出さず、ハンドサインだけどナトラは意志を伝える。

 キオネは疑いながらも、その泡の上にカニをのせた。

 ナトラのカニの口を離れた泡は、重力に逆らって上へと昇っていく。

 ヘリウムか水素か。ともかく空気よりもずっと軽い気体が入っているのだろう。


 泡が井戸の出口まで昇ると、キオネがこちらへと合図を出す。

 問題なしのサインだ。


 右手をカニ化させて上へと伸ばし、井戸のへりを掴み上へと登る。

 それからキオネとナトラを引き上げた。


「これだけ人が詰めているのだから、ここにも人が居るものだと思ってたわ。

 ここ、厨房と言うより洗濯場ね」


 キオネが無人の厨房を見て所感を述べる。

 見る限りでは、今は厨房としては使われて居なさそうだった。調理器具の類いがほとんどない。


「資料によると大きな厨房が増設されたっぽいね。

 こっちはもう使ってないんじゃない?」


「ふうん。

 ここも小さくはないと思うけどね」


「城の規模的には十分なの?」


「戦争でもしてなければそうよ」


 キオネは質問に答える。

 それから扉近くに立って、小さなカニを無数に部屋の外へと送り出す。


「これで情報収集は出来るね」


「いやあ、出来ることなら証拠品持ち帰りたいんだよね。

 ちょろっとヤバ目なもの回収できたりしない?」


 ナトラの要求に対してキオネは嫌悪感を示す。

 しかし証拠品の実物については、キオネも必要性を十分に理解していた。


「ちょっと待って」


 カニが調査するのを待つ。

 30秒ほどで答えは出たらしい。


「工場? みたいなのがあるわね。

 ゴットフリードで見たとの近い、けど、作ってるものが違うわ。

 完成品の倉庫がある。そっちに行って、1個拝借して帰ればいい?」


「そうそう。そういうのが欲しかったんだよ!

 じゃあ道案内よろしく!」


 ナトラが明るく言うと、キオネは渋りながらも先導を引き受けた。

 部屋を出て、兵士達の居ない隙を見つけては進んでいく。

 工場の脇を通って完成品倉庫へ。

 出荷のためだろうか、箱詰めにされた何かが積まれている。


「中身は?」


「分からない。何よこれ」


 箱の隙間からカニを中へと入れたが、キオネにはそれが何か分からないようだった。

 でも中身自体に害はなさそうなので、一番上にあった箱の蓋をゆっくりと開ける。


「これってなに?」


「私に聞かないでよ」


 ナトラとキオネは箱の中身を見て首をかしげていた。

 だが自分には、その品物に見覚えがあった。

 繊維状をした外側の赤い部分。内側は白くやはり繊維状。縦に割きやすいよう加工されている。


 カニ教徒であるキオネやナトラが知るよしもないもの。

 それはカニの身。

 正確には、カニの身を模したもの。


「カニカマだ」


「知ってるの?」キオネが問う。


「サカナのすり身を使って、カニの身みたいな味と食感を出した加工食品だよ」


「神への冒涜だわ」


 キオネのカニがカニカマをその小さな爪先でつまむ。

 やはり本物のカニの身ではない。外側の赤い繊維がぺろりと剥がれた。


 そのままカニはハサミでちぎったカニカマを口へと運ぶ。

 途端、魔力がほとばしり、小さなカニはキオネの制御も効かずに暴れ始めた。


「これ、とんでもない魔力よ」


 暴走したカニを叩き潰してキオネは告げる。


「カニを食べれば魔力を得られるから、カニカマでもその効果があるのか」


「所詮は紛い物よ。

 こんなもの大量に作ってどうするつもりなのよ」


「分からないけどさ。

 今言えることは、始祖――カニ様の身を模した食品製造は皇帝陛下にも裁いて貰えるってこと」


 ナトラが答え、カニカマの1つを手に取って懐へ納めた。

 キオネも念のためと、カニカマを腰に下げた革袋へとしまい込む。


「やることやったわ。

 外に出ましょう」


 キオネが撤退を告げたその時、大きな鐘の音が響いた。

 それは時を告げるものではない。明らかに、戦いのために鳴らされる鐘の音だ。


「兵士が動き出した。

 場所がバレてるわ!」


 キオネが叫び、退路を示す。

 先陣を切って駆け出して、示された通りの道を進む。


 兵士達の足音が聞こえる。

 肩に乗せたキオネのカニが示す進路に従って移動。

 井戸へは戻らず、城の中庭へ。


 兵士達に追いつかれたので、最後尾に回ってカニ化したハサミを振るい牽制。

 その隙にキオネとナトラを逃がして――


「何!?」


「うわっ落ち――」


 キオネとナトラの悲鳴。

 振り返ると、2人は中庭に仕掛けられていた落とし穴にかかったらしく落下している。

 だが目の前にはイビカ教徒の兵士。

 直ぐには追いかけられず、ハサミの攻撃で壁の一部を崩し、通路を塞いでから駆けつける。


「キオネ!」


 穴は既に閉じていて、地面を強く踏んでも反応はない。

 代わりに遠く下の方からキオネの声が響いた。


「こっちは大丈夫! あんたは1人で逃げて!」


「でも――」


「大丈夫だって言ったわよ。

 今危ないのはあんたの方なんだから、さっさと逃げて!」


 中庭に兵士が集まり始めている。

 キオネの言うとおり、今危ないのは自分の方だ。

 まずは安全を確保して、それからキオネを助ければ良い。

 肩の上にはキオネのカニが居る。

 行くべき道はこのカニが示してくれるはずだ。


         ◇    ◇    ◇


「で、私をどうするつもり?」


 キオネはナトラに対して問いかける。

 地下の1室。明かりが灯されたその空間には、キオネとナトラの2人きりだった。


「どうって、何のこと?」


「とぼけなくてもいい。

 あんたがイビカの――盟主の手下だってのは分かってる」


 ナトラはぎくりとして、それから一呼吸おいて問う。


「そういうのってどうやったら分かるの?

 ヘマした覚えがないんだけど」


「適当言ったらあんたが引っかかっただけよ」


「あ、ずるい! そういうやり口は卑怯だよ!」


 バカバカしいと、キオネはナトラの言葉に耳を貸さず、一方的に問いかける。


「確認させて。

 レジスタンス全員が裏切ってるの? それともあなただけ?」


「言う必要を感じないけどなあ。

 でも教えてあげる。ナトちゃんは優しいからね。

 盟主側についているのはナトちゃんだけだよ」


 キオネはそれに相づちをうって、細めた目でナトラを睨む。


「だったらあのレジスタンスの連中はどうするつもりよ」


「反乱分子は後でまとめて処分だってさ」


「あんたはそれで良いの?」


「ナトちゃんはいつだって強い者の味方だからね」


 ナトラは品のない笑みを浮かべる。

 キオネはそんな彼女へと冷たく言い放った。


「長生きしないわよ」


「かもね。

 でも先のことなんて分からないじゃない。

 まずは今を生きることを考えないと。

 そうでしょう?」


 ナトラは壁に掲げられていたランタンを1つ手に取った。

 それからカバンから取り出した、鳥のくちばしのような形状をした、顔全体を覆うマスクを付ける。

 両肩に召還されたカニからは、泡が吹き出されている。

 気体保存能力。

 ナトラの召還したカニは、それぞれ毒ガスと可燃性ガスの泡を生成している。


「あなたの能力は厄介だからこっそり消すように頼まれてたの。

 頼りになる騎士様も居なくなって絶体絶命だね、キオネちゃん。

 さあ。どんな死に様を晒すのか、見物だね」


「そうね。

 あんたがどんな醜態を晒してもがき苦しむのか、楽しみだわ」


          ◇    ◇    ◇


 キオネからの指示に従って地下通路へと降り、出口を目指した。

 地下通路の存在は一部の兵士にしか知られていないようで、追っ手も来ない。

 しばらく通路を進んでいくと、上へと向かうはしごがあった。


 キオネのカニは登れと言っている。

 しかし助けに行かなくて大丈夫だろうか?

 身振り手振りで助けに行かなくて大丈夫かと問うと、さっさと登れとばかりにサインが返ってきた。


「そこまで言うなら登るけど」


 とにかく、カニが動いているうちはキオネも無事だ。

 言われたとおりにはしごを登り、出口を塞いでいた石の蓋をどける。


 斜陽が差し込む。

 外へ出てみるとそこは崖の上に作られた墓地だった。

 墓石の下に隠し通路があって、城まで繋がっていたのだ。


 墓地からは城が見渡せた。

 敵襲を告げる鐘も鳴り止み静かなものだ。案外キオネの方が先に脱出しているかも知れない。


「おっとまた会ったな」


 墓地に2人組が姿を現した。

 キオネのカニはさっさと逃げろと警告している。


 だけど相手は2人だ。足を止め、彼らに対して向き直る。

 2人はフードをかぶって顔を隠していたが、視線を向けるとフードを脱ぎ、顔をさらした。

 鮮やかな髪色をした男女2人組。


「イキザール兄妹と名乗っている。

 ああ、貴様の名前はいい。ワタリだな。それは知ってる。

 とにかくだ。貴様の存在は目障りだそうだ。ここで始末させて貰う」


「エビ教徒がどうしてイビカに協力しているんだ。

 金のためか?」


 問いに対してイキザール兄はかぶりを振った。


「金じゃない。土地だよ。

 イビカと我々でカーニ帝国を領土とするんだ」


「土地を奪うつもりなのか」


 土地が目的と聞いてそう返すと、イキザールは憤りを露わにした。


「奪うだと?

 先祖代々の土地を奪ってきたのはカーニ帝国だ!

 東方植民だとか抜かして、兵士を殺し、土地を奪い、民を農奴として連れ帰った!

 報いを受けるときが来たのだ!」


 イキザール兄妹は懐に手を入れ、それぞれがカニカマを1つ手に取った。

 それを躊躇なく口へと運ぶ。

 膨大な、通常の魔力とは雰囲気の違う、ピリピリとした刺すような魔力が放出された。

 異質などす黒い魔力だ。


 妹がエビ化すると、イキザール兄はそれにまたがる。

 応じるように、こちらもカニ魔力を解き放ってカニ化した。


 攻撃を待ち受けるようにハサミを構え――

 イキザール兄妹の姿が視界から消えた。

 違う。超高速で移動している。


 背後からの接近を察知して、回転しながらハサミを振るう。

 しかし攻撃は寸前で避けられ。無防備な側面からシャコパンチを受ける。


 カニカマで増強されたイキザールのシャコパンチは、一番分厚い背中の甲殻すら一撃で叩き割った。

 失った甲殻へと魔力を送り回復させながら反撃。

 だが振り回したハサミは空を切る。


「遅い!!」


 一度距離を取りながらも、攻撃の隙に対して急接近してくるイキザール。

 すかさずもう一方のハサミで迎撃しようとするが、その攻撃すら緊急後退で避けられ、がら空きとなった背後からシャコパンチを受ける。


『くそっ! 速すぎる!』


 目で追うのがやっと。

 攻撃してもその隙をつかれてしまう。

 身体が大きい分どうしても攻撃は大ぶりになる。

 2本のハサミでは、イキザールの動きに対応しきれない。


 ――どうすれば良い? 考えるんだ!


 キオネは言った。

 大切なのは能力じゃない。能力をどう使うかだ。

 力の使い方を考えるんだ。


 イキザールの速度に対して、こちらの手数が足りていない。

 カニの身体には手は合計10本もあるのに、攻撃に使えるのは2本のハサミだけ。


 ――待てよ。本当に、攻撃に使えるのは2本だけか?


 2本のハサミ。8本の足。

 でも別に、足が8本である必要はないんじゃないか?

 この身体はカニ魔力によって作られた身体だ。

 身体の具体的な構造をイメージできれば、その通りに作り替えることだって可能だ。

 例えば、2本足で8本のハサミを振るうカニだって実現可能なはずだ。


『うおおおおおおおおお!!』


 声を張り上げ、空っぽになった頭で新しい姿をイメージする。

 2本足で立ち、8本のハサミを振るうカニを。

 魔力行使の結果を強くイメージし身体を再構築。

 大量の魔力を消耗しながらも、イメージを形にすることが出来た。


 2本足で直立し、8本の長い腕にハサミを供えた異形のカニだ。


「バカめ!

 いくらハサミを増やしたところで、そんなものコントロールしきれるものか!」


『出来る出来る出来る出来る!!

 行動の結果をイメージしろ! 思い通りに、動けええええええ!!』


 向かってくるイキザール。

 迎え撃つハサミの1撃目は回避される。

 だがこちらだって隙を見せない。

 第1のハサミが当たらなければ第2の。第2のハサミが当たらなければ第3の。

 ハサミは8本ある。

 8本のハサミが当たらなくたって、その頃には攻撃準備の整ったハサミが出てくる。

 いくらでも、攻撃が命中するまでハサミを繰り出せば良い!!


『うおおおおおおおお!

 秘技、カニ三昧!!!!』


 8本のハサミによる乱舞。

 縦横無尽に振るったハサミは、回避を続けるイキザール兄妹を追い詰め、ついに妹のエビを叩き潰し、無防備になった兄へと一撃を見舞う。


「小癪な!! そんなバカみたいな見た目のカニに負けるものか!!」


 シャコパンチが繰り出される。

 ハサミの数を増やした分、1本1本の強度は落ちている。

 シャコパンチの威力に耐えきれずハサミが崩壊する。

 

 だがまだ7本ある。

 容赦なく、7本のハサミを兄へと向けて繰り出した。

 シャコパンチによる迎撃を掻い潜り、エビの尾による後退すらも、手数によって強引に押し切った。


『うおおおおおおおお!!!!』


 ハサミが兄の無防備な腹部を捉えた。

 エビ化して攻撃を和らげられたが、振り抜いたハサミによって甲殻を砕き、兄の身体を弾き飛ばす。


『勝負あったな!』


 イキザール兄妹は全身から魔力を放出し、カニカマによって増強されていた力も失う。

 カニカマは一時的なドーピングだ。その力を失い、風船が萎んだように2人の魔力は急激に減衰していた。


 だが倒れた2人は、互いの身体を頼りにしながら立ち上がる。

 血の気の引いた、死人のようなやつれた顔をしていた。


「まだだ。まだ終わっちゃいない」


「そうよ兄さん。私だってまだ戦える」


 2人は懐に手を入れた。

 取り出したのはカニカマだ。


「止めろ! これ以上の戦いは無意味だ!

 それにそのカニカマはどう見たって普通じゃない!」


 今のイキザール兄妹の見た目は、魔力を失ったというだけではない。

 カニカマという劇薬は、一時的には魔力を増強できても、その力を失ったときには相応の負担がかかる。ハイリスクな代物に違いない。


 だが制止しても、イキザール兄妹は止まらない。

 手にしたカニカマを口へと運ぼうとして――


「な、何だ!?」


「え!? どういうこと!?」


 2人の顔が驚愕に歪む。

 カニカマが禍々しい魔力を放つ。どす黒いオーラが溢れ、2人の身体を包んだ。


「なんだこの感覚は! カニカマに、腕を食われるっ!!!!」


「いやあああっ!! 私の、私の手が!!」


「今すぐカニカマを離すんだ!!」


 どす黒いオーラに包まれた2人は苦しみ藻掻く。

 それでも手にしたカニカマを手放さない。いや手放せないのだろう。

 カニカマはどす黒く変色し、イキザール兄妹の魔力を――それだけではなく命すら吸い上げていく。


 兄妹の身体からは魔力が吸い尽くされ、枯れたように水分を失っていく。

 その様子を見ていることしか出来ない。

 カニカマに全てを吸い尽くされた2人の身体は、粉々になって風に舞った。

 後にはカニカマしか残らなかった。


「所詮は始祖の器ではなかったのだ」


 低く重い声が墓地に響く。

 背の高い大柄な男。歳は30代か40代くらい。浅黒い肌に漆黒の髪をしていた。

 彼はマントを翻しながら、イキザール兄妹の亡骸の元からカニカマを回収して懐に入れる。


「お前は何者だ!」


「ほう。ここまで来ておいて知らないと言うのか。

 ならば教えてやろう。

 イビカ教徒から、盟主と呼ばれている存在だ」


 盟主。

 その呼び名は、タルフの街の実験を握る領主。コルネフォロスのものだ。

 目の前に、違法薬物製造やキオネの両親暗殺に関わった男が現れたのだった。

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