第21話 オルテキア辺境伯と婦人

 オルテキアの街。キオネの故郷であり、オルテキア元選帝侯領の中心地。

 しかし立派な防壁と中央大通りとは裏腹に、街には活気がない。

 既に日が沈んでいるからと思ったが、ろくに通行管理もされていない正門と、通路脇に積まれたゴミの山、手入れされていない街路樹を見ると、そういう訳でもなさそうだ。


「なんか寂れてないか?」


「テグミンが言ってたでしょ。

 オルテキア候は跡継ぎがいないまま病にかかって、選帝侯権を親戚のディロス家へ譲ったのよ」


「そういえばそんな話をしてたっけ」


 すっぽり抜けていたが、再度説明されると思い出す。

 今のオルテキア候――キオネの叔父に当たる人物は、病に倒れて選帝侯権を親戚に譲った。

 貨幣鋳造権やら鉱山運営権。辺境伯に至っては常備軍保持と国内からの労働力徴収が行えた。

 それが突然無くなって、肝心の辺境伯も病に倒れているのでは、街が寂れてしまうのも無理ないだろう。


 キオネは不満げに続ける。


「ディロス家が親戚と言っても、名前ばかりで随分遠い親類だわ。

 選帝侯家が断絶されれば選帝侯権が一度皇帝に返されてしまう。

 そうなると皇帝側に都合の良い人間を選帝侯にされるからって、他の選帝侯が働きかけて無理矢理譲渡させたのよ」


「オルテキア候は他の選帝侯から見限られたってことか」


「そうなるわね。

 必要な根回しの出来るほど賢い人間じゃなかったのよ。

 あの叔父にあったのは、権力への野心とバカみたいに強い戦闘能力だけ」


 キオネは口にすると、いつも以上にフードを深くかぶり直した。

 それから宿を探すと通りを歩き、周りに人が居ないのを確認すると再び語り出す。


「この街も、昔はもっと綺麗で繁栄してた。

 東方植民事業の利益を最も享受できる街だったし、父様の代では事業は極めて好調だった。

 今では見る影もないわね。

 6年でここまで変わり果てるとは、思っても居なかったわ」


 寂しそうに町並みへと目を向けるキオネ。

 宿もいくつか潰れていて、ようやく見つかった安宿で、2人部屋を1つとる。

 キオネは今日はここで泊まると告げて、お祈りしてくると1人で宿から出て行こうとする。


「ついていこうか」


「お祈りくらい1人でさせて。

 食事は先に済ませていて構わないわよ」


 言い残してキオネは出て行ってしまう。

 1人残されて、まだお腹も空いていなかったので部屋で横になる。


 キオネのやり残したこと。

 この街に来た以上、やることは決まっている。


 彼女は自分の顔に傷をつけた傭兵マガトへと復讐を果たした。

 残っているのは、両親を殺し、選帝侯の座を奪い取った叔父への復讐。

 だがその叔父は今や病に倒れ、選帝侯権すら失っている。

 

 それでもキオネは復讐を成し遂げるのだろう。

 自分にはキオネの行動を止められない。

 彼女のやることには口出ししない。見届けるだけだと約束した。

 それがどんな結末を迎えることになっても……。


          ◇    ◇    ◇


 キオネは1人、教会へと入った。

 今のオルテキア候はボレアリス派へと改宗しているので、このアウストラリス派の教会にはあまり人が集まらない。


 教会の建物は古く、6年前ですら倒壊寸前で建て直しの話が出るほどだったが、その話は無くなったらしく、ろくに改修もされずにボロボロの状態で放置されていた。


 扉を入って直ぐの広間には、槍棚が置かれ数本の槍が並べられている。

 それは街の治安がどういう状況にあるのか如実に伝えてくれる。

 教会すら武装しなければならないほど、地の底に落ちているのだ。


 広間を抜けて礼拝堂へ。

 夕暮れ時とあってお祈りに来ている人が数人。

 キオネもそれに混じって、カニ様の像へと祈りを捧げる。


 人々が祈りを終えて帰路についても、キオネは1人で祈っていた。

 熱心に祈り続ける彼女の姿を見て、教会の老神父は声をかける。


「何かお悩みごとですかな」


 キオネは顔を上げて応える。


「そういうわけではありません。

 ただ、どうしてもこの教会で、カニ様にお伝えしなければならないことがあったのです」


「事情がおありのようですな。

 どうぞごゆっくりお祈りください。

 教会の扉は開けておきますから」


「ありがとうございます、神父様」


 キオネは頭を下げて礼を言った。

 その際、老神父の目にキオネの銀色の髪が映った。


「美しい髪色をしていらっしゃる。

 銀色の髪を見ると、先代オルテキア候婦人様のことを思い出します。

 あの方はよくよく娘をお連れになってお祈りに訪れてくださった。

 あの子も今ではあなたと同じくらいの年頃で――

 お顔を見せて頂いても?」


 老神父が何かに気がついたように尋ねる。

 キオネは「嫌ですわ神父様」と断るのだが、彼は更に告げた。


「アステリア様。

 アステリアお嬢様でしょう?」


 キオネはため息1つついて、仕方が無いとフードを脱いだ。

 右目を髪で隠しては居るが、その顔立ちを見て老神父は目を見開く。


「ああ。やはりアステリアお嬢様だ。

 お母様に似た美人になりなすった」


「私がこの街に居ることは秘密よ」


 厳しく言いつけると老神父は頷いた。

 それからお茶をお出しすると言い張って、無理矢理キオネに了承させる。


 広間に出て、階段を上がり2階へ。

 巡礼者向けの宿泊施設になっている2階だったが、木造の床は朽ち果てて、所々穴が開いている。

 穴には渡し板がおかれているだけだ。

 その穴を補修し、補修跡を隠そうとしたのか、壁際には丸めた絨毯が並べられていた。


「直さないの?」


「老人1人だとどうしても力不足で。

 床板が朽ちていますのでどうぞ足下にお気をつけて」


 廊下を抜け、老神父の私室へ案内される。

 キオネが古びたソファーに腰掛けると、茎茶が出された。


 キオネはお茶に口をつけ、渋いと顔をしかめる。

 そんな彼女へと老神父は問いかけた。


「もうお病気はよろしいのですか?」


「両親が亡くなったショックで頭がおかしくなって修道院で療養してるって話なら作り話よ」


「おお、なんと――

 ということは今のオルテキア候は――」


「それ以上は言わない方が良いわ」


 選帝侯権は失っても辺境伯であることは変わらない。

 キオネは老神父が現オルテキア候に対する悪口を言わないように言葉を遮り、それよりもオルテキア領について話して欲しいと頼んだ。


「見ての通りです。

 街は寂れ、治安は悪くなるばかり。

 息子達もディロス領の教会へと移りました」


 大変ね、とキオネは頷くと、続いてオルテキア候について尋ねた。


「病気の具合が良くないらしく、久しく人前には出ていません。

 政務は婦人が取り仕切っているようですが、ここ数年は看病に忙しいと人前に顔を出さなくなりました」


「叔父様が亡くなれば、婦人が辺境伯となりますよね?

 再婚して子供を残すつもりはないのかしら」


「ええ。熱心に看病をしているそうですので、そう言った考えはないのでしょう。

 だからこそ、選帝侯権をディロス家へ譲ってしまったのだと思われます」


「今時珍しい女性ね。結構なことだわ」


 キオネは残っていた茎茶を飲み干す。

 あまりの渋さに顔は引きつったが、美味しかったと礼を述べると立ち上がる。


「アステリア様はオルテキア候を相続なさらないのですか?」


 キオネは首を横に振った。


「今の私はアステリアでなければ貴族でも無い。

 1度は責務を放り出してオルテキアの地を離れた身だわ。今更相続なんて、父様も母様も許さないでしょう」


 キオネは再度、自分の存在については秘密にするように老神父へと言いつけると、フードを深くかぶり教会を後にした。


          ◇    ◇    ◇


 翌日、朝はのんびりと食事を済ませ、キオネと共に街の職人街へと出かけた。

 行き先は男物の衣類を扱う店。

 何やら商談が行われたかと思うと、新しい服一式を渡された。

 これまで身につけていたどことなく古びた衣類から一新されて、真新しい衣類に袖を通す。


 生地の質も造りも良い。

 結構な値段をしたのでは無いかと尋ねるが、キオネは値段を答えない。

 必要だから着ていろとのことらしい。


 それから宿に帰り、部屋の前で見張りをしているよう言いつけられる。

 しばらく待つと、キオネも着替えて出てきた。


 明るい色合いをした、細やかな刺繍の施された衣服。

 フードでは無く帽子をかぶり、ローブの代わりにマントを身につけている。

 その服装の雰囲気は、どことなくテグミンが着ていた衣類に似ている。


「袖が短いわね。

 胸もきついわ」


 キオネは文句を言いながら、袖からはみ出した手首を隠そうと手を引っ込めてみたり、胸元の生地を伸ばそうとするのだが、結局諦めたらしい。


「それってテグミンの服?」


「そうなるわね。

 返せとは言われなかったわよ」


「それなら……良いのか?」


 良いかどうかはさておき、テグミンはカルキノス領へと帰ったのだから今更返せない。

 それにテグミンの服を着たキオネは、いつもの野暮ったいローブ姿の時よりも魅力的に感じる。

 もし彼女が貴族と言われても、多くの人はそれを信じてしまうだろう。


「オルテキア辺境伯へ会いに行くわ」


「それ、やらないといけないことなんだよな」


「そうよ」


 キオネは即答して、ついてこないのならば1人で行くという風に、大股で宿の出口へと向かう。

 ここまで来たのだからついていかないなんて選択肢は無い。

 早足でキオネへと追いつき、オルテキア候の屋敷へと続く大通りを並んで歩きながら尋ねる。


「会ってくれるかな?」


「さあね。

 本当ならテグミンの貴族の証見せて屋敷に入り込むつもりだったけど、返しちゃったし」


「ええ……。

 断られたら?」


「その時考えるわ」


 澄ました顔でキオネは言って、それから無言のまま歩いた。

 屋敷の正門前には衛兵が2人。騎士階級と言うわけでもなさそうだ。

 元選帝侯だというのに、本当に今となっては何の権力も無いらしい。


 それでもその衛兵は職務に忠実で、キオネが向かってくるのを見ると正門の前で槍を構える。

 キオネはその前で一礼し、懐に手を入れた。

 武器を取り出すのでは無いかと警戒する衛兵。

 しかしキオネが取り出したのは戦闘用の武器では無い。

 銀製の小さなナイフだった。


「アステリア・フォン・オルテキアが訪ねてきたと伝えて頂けるかしら?」


 その問いに対して、衛兵は槍を構えたまま言った。


「アステリア様は修道院で療養しておられる。

 名を語る偽物風情が、良くもこの場所に顔を出せたな」


 衛兵が槍を突き出そうとしたので、キオネを庇うように前に出た。

 だがそれをキオネは遮って、貴族の証である銀のナイフを衛兵達の目の前に掲げると言った。


「これが本物かどうか、叔父様か婦人でしたら分かるでしょう。

 それと、叔父様の病気の原因を知っていると伝えて」


 2人の衛兵は顔を見合わせるが、結局片方がキオネからナイフを受け取り、屋敷へと走って行った。

 その間待っていろと言いつけられたので、正門から下がって待機。


「病気の原因を知ってるって――」


「黙ってて」


 ぴしゃりと言いつけられて口をつぐむ。

 そうしていると屋敷へと向かった衛兵が大急ぎでやって来て、もう1人の衛兵へと話を通し、正門を開いた。


 キオネは貴族の証を受け取り、マントを翻して屋敷へと入る。

 扉を開けると、血相を変えた女性が奥からやって来た。


「アステリア!

 病気の原因を知っているというのは――」


「まず叔父様に会わせて頂きたいわ」


 キオネは澄ました顔のまま返した。

 やって来たその女性こそが、現オルテキア辺境伯婦人だろう。

 婦人は随分やつれた顔をしていて、身につけたドレスもぶかぶかになるほど痩せ細っていた。


 街は衰退していると言えど彼女は辺境伯婦人。

 栄養失調では無いだろう。

 だとすれば、辺境伯の病気による心労が原因だろう。


 婦人はキオネに対して睨むように視線を送ったが、結局「こちらへ」と言って廊下を指し示す。

 婦人に連れられて、1階奥の部屋に案内された。


 その部屋は辺境伯の私室というには何処か殺風景で、中央におかれた天蓋付きの大きなベッドが異質さを際出せていた。


 オルテキア候が小さくうめき声を上げる。

 婦人はベッドの元へ駆け寄ると、濡れ布巾で彼の汗を拭った。


 ずかずかと進んでいくキオネ。

 それに続いてベッドの元へ。


 ベッドに横になっているオルテキア候の姿を見て息をのんだ。

 乾燥し、黄色く変色し、痩せこけてボロボロになった顔。

 手足は骨だけしかないように痩せ細り、その代わりに腹部が極端に大きく膨らんでいた。


 ――栄養失調。それに腹水が発生している。肝硬変か?


 キオネは現オルテキア候――クレイオスの顔を覗き込み、貴族らしい丁寧な身のこなしで一礼した。


「お久しぶりですわ。クレイオス叔父様。

 6年ぶりでございますね。

 私のことを覚えていますでしょうか?」


 クレイオスは光を失った瞳でキオネの姿を見る。

 それから消え入りそうなか細い声で答えた。


「アステリア……。

 私を、殺しに来たか――」


「確認したいことがあったのよ。

 どうして父様と母様を殺したの?」


「そのようなことを!!」


 キオネの言葉に婦人が激情して詰め寄る。

 だがそれをクレイオスが視線で制した。

 キオネは続ける。


「父様がクルマエビの事故如きで死ぬはずがない。

 でも素人の仕事では無かった。

 それに私の相続権について、皇帝陛下や他の選帝侯とも事実確認が必要だったはず。

 地方領主に過ぎなかった叔父様が、彼らを説得できるだけの金を積めるとは考えられない。

 誰かが野望の手助けした。

 それは一体誰かしら?」


 問いに対してクレイオスは瞳を伏せる。

 発言を躊躇いながらも、自身の死期が近いのを理解しているのだろう。

 瞳に僅かな光を宿し、震えながらもクレイオスは過去について答えた。


「……イビカ教徒だ。

 彼らが全て恙なく事が運ぶようにと、手はずを――」


 むせ込むクレイオス。

 身体を震わせる彼を婦人が優しく支える。


「気が済んだでしょう。

 病気の原因を教えなさい」


 婦人のきつい視線がキオネに刺さる。

 それに対してキオネは右手を前に出して、手のひらに1匹のカニを召還した。

 そのカニをクレイオスの目の前で動かして見せながら告げる。


「6年前。私が追い出されたあの日。

 食事の席に詰め寄ったのを覚えているでしょう?

 その時叔父様のグラスに、召還したカニの卵を落としたの」


 息をのむ婦人。

 キオネは構わず続ける。


「卵は体内で孵化して、叔父様の魔力を吸って成長する。

 やがて体内に住み着いたカニは卵を産み始める。


 でもこれは私が召還したカニ。

 他人の魔力では生きることは出来ても、新しい命を生み出すことは出来ない。


 孵ることの無い卵は血液の流れに乗って多くは体外に排出されるけれど、そうならないものもある。

 それは臓器内部の細かな血管を詰まらせ、細胞を壊死させる。

 臓器は機能を停止し身体へと栄養を吸収できなくなり、壊死した細胞から溢れ出た体液は腹部へ蓄積される。


 これが叔父様の置かれている状況。

 今も叔父様の身体の中で、私のカニが卵を産み続けている」


 そこまで説明を終えると、婦人は痩せ細った手でキオネの襟首を掴んだ。


「今すぐにカニを消しなさい!」


「消す気が無いならこの場に顔を出したりしないわよ」


 キオネは自分の力で婦人の手を振り払う。

 それから顔を左右に振って、右目にかかっていた髪を払った。

 右目の下に走った傷を見せて、彼女は続ける。


「あの日、私は選択を迫られた。

 叔父様達の元で地方領主として生きるか、貴族の名を失い放逐されるか。

 私は後者を選んで顔を傷つけられた。

 叔父様達の行く末にも選択肢があるべきだわ」


 キオネはカバンから薬ビンを取り出した。

 彼女は婦人へと、サイドテーブルに置かれていた水の張られた陶器製の入れ物を使わせて貰うと言いつけると、薬ビンの蓋を開ける。


「エリオチェアの錬金術師から買った酸の秘薬よ。

 これを垂らされた水は、皮膚を焼く酸となる」


 薬ビンの中身が陶器の器へと数滴垂らされる。

 キオネは薬ビンをしまうと、代わりに銀貨を1枚取り出して陶器の器へとそっと沈めた。

 銀貨は泡立ち、少しずつ酸によって浸食されていく。


 キオネはそれから婦人の方へと向き直って言った。


「私は顔に傷をつけられても、貴族の名を失おうとも、あなたたちからの解放を望んだ。

 あなたが自分の意思で顔を焼くというのなら、叔父様の体内から1匹残らずカニは消し去るわ。

 それが嫌だと言うのなら、叔父様はあと僅かな人生を私のカニと過ごすことになる。

 どうぞ、お2人で話し合ってお決めになって」


 それが条件の全てだと、キオネはもうクレイオスにも婦人にも何1つ言うつもりはないとベッドから離れた。


 そんなキオネの袖を思わず引きそうになる。

 こんなことはダメだと。間違っていると。

 こんな私刑に何の意味も無いと。


 それでも約束を違えられない。

 キオネのやることには口出しをしないと、事前に取り決めていた。

 いくら私怨にまみれたバカげた復讐が行われようと、止めることは出来なかった。


「やめろ」


 か細い、消え入ってしまいそうなクレイテスの声。

 その弱々しい、命の炎が今この瞬間にも尽きてしまいそうな声は、かえって婦人へと決意をさせてしまった。


「わたくしが顔を焼けば、主人の体内からカニを消すのですね」


「ええ。間違いなく」


 再度のクレイオスの制止も聞かず、婦人は意を決したように陶器の器を手で支えると、息を止め、酸の水へと顔をつけた。

 酸の水は沸き立ち、しゅうしゅうと白煙が上がる。肉が焼ける気味の悪い音が数秒続くと、キオネは冷めた声で告げる。


「もう十分よ」


 婦人が顔を上げるが、焼けただれた顔をこちらには見せようとしない。

 キオネは婦人へと近寄って、「手で触らない方が良い」と真っ白なハンカチを差し出す。

 婦人はそれをひったくると顔に当て、そのままベッドへとうずくまるように倒れた。


「水で流した方が良い」


 キオネの助言に対して婦人は声を上げる。


「言われたとおりにしたわ!

 今すぐカニを消して!!」


「もう消したわ」


「なら出て行って! 今すぐに!!」


 叫ぶような婦人の声。

 キオネは素直に頷いて、最後に1つだけと言い残す。


「数日はこの街に滞在するわ。

 旅人向けの『海の鶉亭』よ」


 再度出て行くように言いつけられて、キオネはオルテキア辺境伯の邸宅を後にした。

 通りを歩き、宿へと向かう途中に彼女へと話しかける。


「なあキオネ」


「口出ししない約束よ。

 文句があるなら何処へなりとも行けば良いわ」


 大きな銀貨を1枚投げつけられる。

 手切れ金のつもりだろうか。


 それでもキオネの元を離れられない。

 最後まで見届けると約束したんだ。

 まだその使命は終わっていない。


 キオネは叔父夫婦へと復讐を果たした。

 だけどキオネがこの先どう生きていくのか、その答えをまだ聞いていない。

 

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