クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授

第一章 ハジマリの地下迷宮

第1話 序章その1

翔馬は目を見開いていた。

この瞬間を一瞬も見逃したくない。


目の前にいる倒したモンスターの身体が青い光に包まれ、見えなくなる。

光の奔流だ。

翔馬は眩しさに瞳の前に手をかざす。

と、それは起こった。

青い光の中に少女はいた。

輝く頬、長い睫毛、腰はくびれ胸は大きく丸みを帯びている。

健康そうな美少女であった。


「キタ!キタキタ! キィータァー!」

翔馬は心の中で叫び声を上げる。


少女はゆっくりと瞼を開ける。

翔馬の方を見て、ニッコリ笑う。


「主さまですか。はじめまして」


「あ、ああ。はじめまして、ショウマです」


「ショウマ…さまですか。ワタシ、ショウマさまの事が好きです。ショウマさまの言う事なら何でもききます」


「これだ!これこれ! こォーれェー!」

勢いあまって声に出して叫んでしまう。


「!」

少女は一瞬ビックリした顔をする。

翔馬が近づいて少女を抱きしめていたからだ。


「主さま…」

少女は太陽のような笑顔を浮かべた。






時を戻そう。


橘翔馬は一応高校生という事になってる。

一応、なってるとはどういう事かというと彼は高校にほとんど通っていないからである。


翔馬に言わせるとこうなる。


「高校は2ヶ月に一度通う事に決めたよ。

 中学の時は義務教育だから、月に一度キチンと通ったよ。

 先生も頭下げて頼むしさ。

 でももう高校生だし。

 最初は3ヶ月に一度にしようかと思ったんだけど、自分を甘やかしすぎてもイケナイかなって。

 2ヶ月に一度。うん。ちょうど良いくらいじゃない」


何がちょうどなのかは誰にも理解できない。

彼が何故中学を卒業できたかは永遠のナゾである。

頭を下げてきた先生が何かしたのであろう。

先生の人に知られぬ努力を褒め称えてあげたい。


「ぼくは引きこもりじゃないよ。

 だって週に一回コンビニに出かけてる。

 自分で決めたんだ。火曜の深夜コンビニに行くって。

 スケジュールを決めて、実行するってスゴイ事だと思わない?

 まさに偉業だよね」


翔馬がコンビニに行くのは深夜だ。

午前2:00頃。

その頃商品が届くのだ。

生鮮食品と加工食品はは別のトラックで届く。

それが火曜の深夜は重なるのである。

1時50分頃 加工食品・おかしやペットボトルドリンクが届き、ペットボトルをバイトAくんやバイトBくんが店舗裏へ運び込む。

バイトAくんやバイトBくんはコンビニのバイト。

翔馬は名札を盗み見て名前は憶えてる。

でもここではプライバシー保護のため伏せておこう。


運び込むのが終わる位の時間に生鮮食品・お弁当やスイーツが届く。

おかしは出しっぱなし。

オリコンという長方形の箱に入ってコンビニの床に散らばってる状態だ。

そのままバイトA君が裏でペットボトルを片付け、バイトBくんが生鮮食品を棚に並べ始める。

翔馬が店に入るのはその時間だ。

誰も彼に気付かない、ナイスなタイミングなのである。

翔馬はオリコンを勝手に開け物色する。

見たことの無いポテトチップ、チョコレート菓子、カップラーメンをチェックしカゴに入れる。

新商品が発売されるのが水曜日、火曜の深夜に入荷するのである。

何処のお店でも一緒かは知らない。

翔馬の近くのコンビニではそうなのだ。

バイトBくんは生鮮食品を冷蔵棚に並べているので翔馬の行動に気付かない。。

新商品もあるから工夫しなければならない。

いつも通りにパッパと品出しとはいかないのだ。

翔馬はすでにそれを分かって来ているのだった。


「なになに ポテトチップスにんにくショウガ味 フツウだなぁ。

 襲いかかるガーリック? コワイな。ヤ〇ヨシらしいや」

翔馬は優雅にオリコンをチェックし終えるとレジに向かう。

スイーツも嫌いではないが、冷蔵棚は他の客も来ることが多いし色々見すぎると疲れるしね。

それが翔馬の毎週の行動である。


ところが今夜はレジに行けなかった。

コンビニに二人組の男が入ってきたからだ。

フルフェイスのヘルメットを被って顔は分からない、でもバイトBくんに話しかけるイントネーションは日本人ではないと思わせた。

彼は包丁をかざしてこう言った。


「金を出せ!」

「うわぁ! ナニナニ 止めて止めて」


刃物を見てバイトBくんはパニックになっている。

二人組のうち一人は店内の防犯カメラの向きを変えに走っている。


翔馬は「とりあえず逃げるべき?」と思って、入口へ向かった。

二人組の一人は防犯カメラのところに行っていて、一人はバイトBくんのところだ。

そのまま扉を開けて 出ていけそうなのだ。

しかし翔馬は立ち止まる。

カゴ一杯に商品を持っていたのだ。

レジを通していない。


「あれ、これ万引きじゃない?

 万引きはマズイよね。

 犯罪だ」

彼は犯罪に手を染める度胸は無かった。


「ええっと、これお会計お願いします」

口に出してしまっていた。


「何だ。キサマ!」

「ノー! どこから出てきた」

防犯カメラをいじっていたヘルメット男が翔馬の姿に激高する。

彼も日本語じゃない言葉でなにか言いながら、刃物を翔馬に向かって突き出す。



「あれ?」


翔馬は気付くと白い空間に寝ていた。


「うん?」


周囲を見回す。


「ああ、起きたかい?」


目の前に美青年が立っていた。

いや正確に言うと浮いていた。

彼の足元には床が無い。

雲みたいな白い空間の上に浮いている。


「僕はマイケルくんだよ~」


「これはもしかして…」

翔馬は思う。


「キタ!キタキタ! 転生キター!」

翔馬は叫んでいた。

割と口に出しちゃうヤツだよね。コイツ。


金髪の美青年は翔馬の叫びを気にせずに説明し始める。


「そう君の転生の相談だよ

 君の魂そろそろ一万年越えてるんだよね。

 一万年くらい越えたら、そろそろこの世界離れて異次元も経験しといていい時期なんだ…

 でもさ~いきなり異世界送ると傷ついちゃうヤツがけっこういて、

 混沌の海に還っちゃう魂とか多いんだよね~」


うん

何を言ってるのか分からない


「だから僕が調整してるワケ。

 ほら補助輪付きを外して自転車に乗り出すとき、お父さんが体を持ってあげたりするだろう。

 そんなカンジ~」


翔馬はすでに青年の説明とは別の事を考えていた。

だいたい翔馬は自転車に乗った事が無いのだ。

そんな説明しても分かるワケが無い。


「ちゃんとその人に合わせて説明してよ。」

翔馬は心の中で文句を言う。


「まずなんでオトコなの?

 そりゃ金髪で美青年で浮いてて天使みたいでカッコ良いけど。

 ここは女神じゃないの、それもドジっ娘ぽいヤツ」

 

「ああ、女性形がいいのかな?」

「!」


翔馬はまた声に出していた。



「あんまり評判良くないんだけどな~」


いきなり美青年が光に包まれた。

と思うとそこには若い美女が浮いていた。

金髪、青い瞳、高い鼻梁、普通出会う事が無い美人である。


「どうかな?これで。ミッシェルさんて呼んでね」


「キタ!キタキタ! キィータァー!」

翔馬は心の中で叫び声を上げる。


「ただこのスタイルだとね~…。

 男はだいたいわたしの前だとどんな風に転生したいか、口に出すのを躊躇っちゃうのよね」

美女が言う。


どんな風に転生?

「ええと それは転生先の世界や自分の能力を選べるって意味ですか?」


「そうよ。そう言わなかった?

 全て願望通りとは言わないけど、あなたの魂のカルマ値によってだいたい希望に近いカンジにしてあげるわ~」


金髪の天使風美女に微笑まれみながら言われて、翔馬はうつむく。

こんな美女に微笑まれた経験なんか無いのだ。

顔を上げて美女を見るだけで無理ゲーである。


今、美女天使はなんと言った?

希望に近い世界に転生してあげると言ってなかったか


「そう、なんでもイイワケじゃないわ。

 『金持ちにしてくれ』とか『王様になりたい』なんてのは簡単ね。

 世界自体は今いる世界と大して変わらない既存の世界で、

 金持ちや王族の子に生まれ変わらせればいいだけだから」


「他にも『モテモテになりたい』、『史上最高の天才』とか。

 要するに金持ちの子にすれば良いだけ。

 だいたい金!

 世の中ほとんど金でかたづくわ!」


いやそんな天使のような美女が天使のスマイルで「金!金!」連呼しないで欲しい。


「ただ、やっぱり一部の人のニッチな願望ってのが有るものね」

『人間型ロボット兵器で戦争を続けている世界で、唯一の天才パイロットになりたい』

 とかいう場合、

 まず人間型兵器で戦争をしている世界を探さないと。

 その位なら良いんだけど。」


「『ライバルは仮面の美青年。その世界では強い方なんだけど、自分にはギリギリ敵わない』

 ここまで言い出されると調整がむずかしいわ。

 大変なの~。

 カルマ値が足りないって言って適当にごまかすんだけど…」


ゴマカスって言った! 今 ゴマカスって言った!


「後はね。

 『人間のいない辺境宇宙で兵器として改造されたエイリアンに生まれ変わりたい。

  エイリアン同士で壮絶なバトルロワイヤルを繰り広げて、最終勝者は自分』

 とか言われると、

 イチから世界を創造しなきゃイケナイし、

 ワタシじゃ無理ね~。

 カルマ値も足りないし~」


「イチから世界を創るの?」

とゆーか願った人間いるの?

バカなの?

死ぬの?

もう死んでいる。


「わたし、今3億歳くらいなのね。

 まだイチから世界創造は無理なの。

 今ある世界を改造するくらいならイケルわ。

 世界創造なら300億歳からかな~」


「アナタも一千万年くらい経てば高次元存在になって、世界を自由に行き来できるようになるわ~。

 そのくらいのカルマ値になれば超次元存在になった方にお願いして世界創造してくれるかもよ~」

 

「気が長い!長い長い! なぁがぁスーギールー」


しかし、翔馬は気を取り直す。

これはアレがイケルかもしれないという事だ。

永年持ち続けた願望。

それは…。


「待って。待って待って、まぁって~」


「キミ、それ好きね~」


「やっぱり男性形にチェンジ!でお願いします」


美女に自分の願望を言うとかムリ

顔を上げて見るだけでも無理なのに

無理!ムリムリ! って言うか死ぬ


「うん。そうなるかなと思った~」

美女はそういった途端 光に包まれて、もう美青年に変わっている。


「はい。マイケルくんです」

「ジャクソンさん?」


「違うよ~

 発音変えた方が良いかな~。

 ポピュラーな発音にしてみたんだけど。

 ミハイルくんとか、ドイツ風だとミヒャエルくんね

 ミカエルがしっくり来るのかな~」


ミカエル!

聞いたことがある名前

天使図鑑に載ってた


「うん。それ 僕がモデルのなのかもねぇ」

 僕に会ってあなたの生きてた世界に転生した人いるからね」


スゴイじゃん!


「それはそれとして そろそろ次の世界の希望を聞かせてよ」

 

「…………」


「……じゃあ……」


「モンスターと戦って、倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる! そんな世界がいい!」


「…です…」


翔馬は美青年に向かって言い切った。



【次回予告】

何も変わらない日々。

少年は歪んだ世界に腐っていた。

闇に落ちる自分を見つめるだけで何も出来ない。

人が生きるとはそういう事なのか?

だが、しかし少年の前に開かれたのだ。

新たなる世界への扉が。

「イヤ!違う!違う違う! ちぃがぁうぅー!」

次回、扉の先にもまた闇が待つ。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)


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