3章 Teen's Music Servival 本選

10話 返り咲くために

 ターミナル駅の前の路上で演奏する二人組の女子高生がいた。ギターの音色に乗せてボーカルの歌声が響く。前を通る際に彼女らへ目を向ける者もいるが、立ち止まって聴く者はいない。


 それでも、


(一人でもいい。とにかく歌を届けて次に繋げるんだ)


 ボーカルのリカはその思いで歌う。ギターのなこもリカを後押しするように演奏で盛り上げる。そうして許可をもらった十八時までリズは演奏を続けた。立ち止まってくれる人も数人現れたが、一曲を最後まで聴いてくれる人はいなかった。


 これが現実。


「ストリートライブはあたしも初めてだけど、いや~厳しいね」

「うん。けど一人でもリズを知ってくれれば、今はそれでいいよ」

「そうだね、前向きに考えよ。さて、次はどうしよっか? また高校で弾いちゃう?」

「それもいいし、他校でもどうかな? 文化祭が近いトコなかったっけ?」

「あったね。先生に相談してみようか」

「うん。他にも演奏できそうな場所がないか探してみるよ」



 リカと分かれて帰路の途中、


「なこ!」


 聞いたことのある声で呼び止められる。なこが振り返ると、

「あれ、藍子あいこじゃん。久しぶり、元気にしてた?」


 前のバンド【パラレルタイム】のキーボードを務めていた藍子だった。


「その……路上ライブ、遠くから見ててさ。ボーカルの子といる時は声かけづらくて」

「カノジョと一緒にいる元カレに声かけづらいみたいな?」

「そう、それ……って、違う違う!」

「違うの?」

「もう、冗談やめて。あの……そのぉ……」

「ん?」


 なこが首を捻ると、藍子はもじもじ照れながらも、澄んだ綺麗な目で


「バンド、がんばって。私たち本気で応援してるから。そ、それだけっ」


 鳩が豆鉄砲を食らったように呆けたなこだけれども、くすっと口元を緩めて、


「応援ありがと。うん、【パラレルタイム】で経験してきたことも含めて出し切るつもり」



 帰宅後、リカは私室でボイストレーニングに励む。一枠を勝ち取り、本選出場を決めた時のために準備は怠らない。選考動画をチェックしたら、リズの再生数は二十五組中七位。しかし一位のバンドの再生数との差に開きはない。残り十日、挽回はできる。


「ただいま」


 妹が帰宅した。リカはリビングで妹を出迎えると、


「あれ、お迎えなんて珍しい」

「怜那、頼みがあるんだけど」

「私に?」


 するとリカは妹に頭を下げて、


「私たちの……リズの曲を聴いてほしい」

「リカ……」

「一人でもリズを知ってほしんだ。駄目なトコがあったら遠慮なく言っていいから」


 家族の前では飄々としているけど、妹は自分にも他人にも厳しい。悪いと思ったものは容赦なく悪いと評価する。それでも、たとえ容赦のない意見を言われたとしても、リズの音楽を知ってほしかった。


「ああ、もう聴いたよ?」

「え、そうなの?」

「仕事帰りにね。カッコよかったよ、曲もすごい好き。あの『マジック・プラネット』って曲、リカが作曲したの? すごいじゃん!」

「あ、ありがと……」


「リズの動画もリツイートしといたよ」

「それで広めてもいいのかな? 芸能人パワーを使ったって言われそうだけど」

「私がいいと思ったからそうしただけ。もち、他のバンドも聴いたうえでね。あ、今度なこさんに会いたいな。かわいい人だよね。背も高くてモデル体型で羨ましいなー」

「いろいろ落ち着いたら会わせてあげる」

「やった~! 楽しみにしてる!」


 ――“売れる”という結果は、実力以外にもあらゆる要因が絡まってそう至るものだろうか。有名人の目に留まったり、SNSで話題になったり。逆に言えば、実力があっても必ず売れものではない。だから売れるためには様々な要因をかき集め、引き寄せていくしかないのだ。


 プラスワン枠の締め切りまでリズはあらゆる場で演奏をした。自分たちの通う高校や他校、路上やお店など。演奏動画を共有サイトに投稿したりもした。

 投稿した動画に対するコメントをなこと並んで見ていると、


「私の……曲を?」


 こんなコメントがあった。『リカさんが投稿した曲を聴きました。メチャメチャ好きです』、『天才女子高生じゃないっすか!?』など。どうやらリズの結成直後に投稿した、リカの自作曲を聴いてくれる人たちの反応みたいだ。


「リカちゃんが投稿した曲、結構再生されてるね。二万再生突破したやつもあるし。広告付けたらお小遣い稼げるんじゃない?」

「考えとく。収益は私の独り占めだから」

「え~ケチ」

「なこもポエム出せば?」

「素人のそれは売れないでしょ。リズが売れたら詞集を出すのは考えるけど」


 少し前に曲動画を確認した時は、四桁の再生数ばかりだったのだが。コンテストの出場や怜那のプロモーションが後押ししてくれたのだろう。どんな経緯であれ、評価されることはこのうえない喜びだ。


 なこは時計を確認して、


「そろそろ締め切りだね。あたしは五日前から再生数は見てないけど、リカちゃんは約束破ってない?」

「ちゃんと見てないよ。おかげでかなり緊張してる」


 今日に至る五日間は再生数を目にしないと二人は約束していた。最後に確認した時は二位で、一位とは五〇〇程度の差だった。


「よし、見よっか」

「うん」


 なこがコンテストのチャンネルを開いて、再生数順に動画をソートしたら――……。

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