第8話 目的の発見

 なぜこんな行動を取ってしまったのかわからず、また、実際に触れた彼女は思ったよりもずっと小さくて柔らかくて、混乱しながら体を離す。済まない、なぜこんなことをしてしまったのか…と言い訳とも謝罪ともつかない言葉を口にしながら。

 星は笑って首を振った。気にする必要はない、と言うように。その様子に少し安心し、同時に少し不安になる。心拍数が跳ね上がっているのを感じる。


「シリウスの戦略コンピュータは、あなたの哨戒データを分析していたか?」


 私は首を振る。送信していたデータの内容は毎日全く同じものだった。ビークルから吸い上げられた情報は極度に単純化されて、全く意味をなさないものになっていた。それを戦略コンピュータに送信したところで、全く無意味だろう。本来このことは最重要機密であり、一兵卒に暴かれるなど、あってはならないことだ。最早隠す力もなくなっているらしい。


「それであれば、協力してほしいことがあるんだ」


 星は真剣な表情で、真っ直ぐに私を見る。


「開拓者の船を調査したい」


 開拓者。それはこの惑星に移住してきた第一世代の人々を指す呼称だ。


 そこに何がある?


「発送電衛星の秘密がある。と思う。夕陽、不思議に思わないか。戦争に明け暮れながら、誰があの衛星をメンテナンスしているんだろう。もしかしたら、私たちが知らない、国を超えた機関があるんじゃないか? そこに、この戦争を終わらせ、この星の人間に、また愛や美しさというものを取り戻すきっかけが隠れているんじゃないかと」


 星の声は力強く、明るい。

 

「夕陽さえ良ければ、一緒に行ってくれないか」


 わかった、行こう、と言うと、星は笑顔になる。そんなことはあり得ないとわかっているのに、光源を直視しているような感覚がある。


 

 それから準備に数日要した。不在を悟られないため、自動データ送信システムを構築し、バイタルデータ監視システムに侵入し、私が通常どおり行動していると誤認させる。どれもこれもあまりに簡単で拍子抜けしてしまった。この拠点は、どこまでも放棄されたもののようだ。私のような欠格者を捨てておくのに丁度いいのだろう。なぜ、欠格と認定した時点で殺さず、こんな場所で飼い殺しにしているかと言えば、過去に作られた法律のせいだ。いかに欠格者であろうと、それだけを理由として殺すことはできない。その法律を変えようにも、議会が解体された今となってはできないのだ。

 ただ、これからやろうとしていることが明るみに出れば、確実に死刑だ。しかし、それが何だというのだろう。生きていることと死んでいないことの区別もつかないのに。

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