一から剣術を極めた俺は最強の道を往く

 原作は↓になります。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054935435681



 堅い地の文に話し言葉が混ざっているのを相当見かけました。

 これについては私も指摘を受けたことがあり偉そうには言えませんが、文体を統一することをもう少し意識しましょう。




 少年は剣を無心で振り続けていた。


 晴れの日も、雨の日も、風の日も、いつもただひたすらに剣を振っていた。


 彼の生活のほとんど、時間の大半は剣と共にあった。


 家族を守るため、そしていつの日か憧れた英雄になる為に──


 少年はただひたすらに努力し続けた。


 だが、少年の努力が結果に結びつくことはなかった。


 少年が少しずつ成長していっている間に、周りの皆はさらに先の地点へと進んでいく。



『いくら亀が一生懸命に歩き続けても、空を飛ぶ鳥に追いつくことは出来ない』



 いくら努力をしようと、他の皆より時間を費やそうと、その甲斐なく開いていく差に、悲しい事実を少年は悟ってしまう。


 これまで、少しずつでも進歩していっていることに喜びを感じていた少年だったが、このことには流石に焦燥を感じ始めた。


 ──足りない、足りない、足りない、足りない。


 さらに少年は剣を振る。


 けれど、少年がいかに努力しようとも、周囲の皆との差は開いていくばかりだ。


 いつしか、少年は落ちこぼれと、そう呼ばれるようになった。


 ──足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない。


 これでも足りないかと、そう言わんばかりに少年は努力し続けた。


 それでも、少年に突きつけられるのは残酷な現実だけだった。


 少年は泣いた。


 どうしてこんなにも自分は強くなれないのか──


 空を飛べなくとも、ゆっくりであろうとも、前には確かに進める。


 だが、皆が休んでる時間も絶えず進み続けたとしても、自分の歩みでは決して追いつくことができない。


 周囲との差を埋めるためには圧倒的に時間が足りない。


 皆の時間が止まりでもしない限り、追いつくことなど決してできはしない。


 努力しているからこそ突きつけられる、残酷なまでの現実だ。




 *




 太陽も地平線にかかろうかという夕暮れの道で、少年はふと足を止めていた。 落ち込んでしまう心境を表しているかのように地面に向けられていた視線は、何かを探すように忙しなく周りに向けられる。

 今日の夕日はやけに赤く、夕焼けで真っ赤に染まった景色はやたらと心をざわ付かせる。 しかし、それが原因ではないと、少年は感じていた。 不意に胸を襲った不安と焦燥──それの出処は外にはない。


 第六感のようなものか、どこからきたかは漠としながらも、確たる恐怖を感じていた。 初めての感覚に少年は戸惑う。

 理由は全く分からない。 分からないままに、少年はなぜかはっきりと感じていた。 『家が危ない』と。

 弾かれたように、少年は静まり返った道を駆け出していた。 どうしようもない焦りの気持ちを胸に抱えたまま、この感覚が間違いであることを願いながら、少年は急いで家へと向かう。



 少年はまだ知らなかった。 運命とは時に無慈悲で、悪辣で、嗤いながら絶望を押し付けるものだということを。




 *




 ―――『地獄』


 この状況を表すのにこれほどふさわしい言葉がこの世にあるだろうか。 そこかしこで繰り広げられる絶望を絵筆で描いたならば、どの場面を切り取ったものであろうと、付けられる題名はその二文字以外にあり得ない。


 村にたどり着いた少年が見た光景は、まだ短い彼の人生の中では想像したこともないほどに『最悪』だった。

 何軒もの家が、屋根や壁を壊された無残な姿を晒している。 中には夕飯の支度に使った火が燃え移ったか、炎に包まれている家もあった。 だが、それを消火しようとする人間はいない。 それどころではなかった。


 血を流して倒れる人間の姿があちこちに見える。 一見して生きているのか、死んでいるのか、分からない者もいる。 だが、胴体を両断された者、半身を潰された者、腹部に大穴を開けられた者──すでに事切れていることが明白な、凄惨な死体も転がっていた。


 ──少年の村はたった一体の魔物によって蹂躙じゅうりんされていた。

 二足歩行の黒い牛のような外見の巨大な魔物──人間の倍は優にある巨躯は、おぞましいほどに膨れ上がった筋肉に包まれている。

 その手に握られた巨大な太刀は、人間が五人がかりでも持てるかどうかすら怪しい代物だ。 人間の胴体よりも太い腕でそれを軽々と振る様を見れば、どれほどの暴力の嵐を巻き起こすか、想像するのは容易い。 周囲にばら撒かれた惨状と、魔物の体に付着した多量の血液が、まさにそれが現実に行われたのだと語っていた。


 少年は恐怖した。 初めて見る魔物に対する驚きと、その暴力の凄まじさに体が硬直してしまう。

 だが、少年は我に返り周りを見渡す。 魔物が浴びた血が家族のものでないことを必死に祈りながら、周囲で倒れる人々を一人一人確認していく。

 幸いにも倒れている人間の中に家族の姿はなかった。 他の場所で無残な結末を迎えていない、その保証にはならないが、少なくともまだ希望を持つことはできた。


 ほっと胸を撫でおろした少年の耳に、悲鳴と怒号が飛び込んできた。 聞き覚えのある声に慌てて見やる少年の視線の先に、今まさに、少年の大切な家族が魔物に追い詰められている姿があった。

 少年は焦る。 衝動のままに駆けだそうとする体は、同時に恐怖に縛られて足を踏み出せずにいる。 そのことが、少年の焦りに拍車をかけていた。


 こうしている間にも、魔物は少年の家族を追い詰めていく。 どうやら、父親は母親を庇っているようだ。

 しかし、父親は武器となり得る物を何も持っていなかった。 それでも逃げようとはせず、母親を庇い魔物の前に手を広げて立ちはだかっている――その目に確かな覚悟を宿しながら。


 こんな形で大事な家族を失いたくないと、少年は強く思った。 理不尽な運命を必死の思いで拒絶する。


 失いたくない、欠けさせたくない、助けたい、負けたくない、踏み出したい!


 だが、少年の思いを嘲笑うかのように魔物が腕を振り上げる。 死が目前に迫った絶望の中、父親の目にはまだ強い思いが篭こもっていた。


 ――死なせない!


 体を縛り付ける恐怖の鎖を決意の刃で斬り払うと、少年は大きく飛び出した。


「はぁぁぁぁあ!! 燕返つばめがえしぃぃぃ!」


 少年に気付いた魔物は、父親に振り下ろそうとしていた太刀を翳し少年の剣を受け止める。

 勢いよく飛び出した少年は、ひとまず両親を死から遠ざけられたことに安堵し、驚きで目を見開いている親に気付くことなく剣を握り、魔物の太刀に抗おうと力を必死に込める。

 だが、魔物の太刀は少年をやすやすと押し込んでいく。 それは当たり前の話だ。

 上背が違う。 膂力が違う。 太刀の重さが違う。──わずかにでも少年が抵抗できているのはむしろ瞠目に値するだろう。


 魔物の太刀に押し込まれ、少年は地面に膝をつきながら必死に耐えていた。 しかし、それもいつまでも続かない。 段々と押し込まれ、太刀が、死が、文字通りの目前まで迫り──




 *




 それは一瞬だった。 まばたきをした瞬間、全身を軋ませていた圧力が不意に消失し、少年の体は勢いのままにつんのめるよう倒れ込んでいた。

 何が起きたのか理解できず、痛みにしばし呻いていた少年だが、慌てて体を起こすと焦って周りを見渡す。


 そこには先ほどまであった地獄はなかった。

 まるで天国のような、自然と神秘を感じさせる不思議な空間に少年はいた。




 *




 目を閉じて、そして開く。 目の前に広がるのはそれまでとは打って変わった、あの時・・・と変わらない光景だ。 地獄のような光景に、目の前で戸惑ったように辺りを見回す魔物の巨大な背に、現実の世界へと戻ってきたことを実感する。


 状況を確認すると、少年は不敵な笑みを浮かべながら技の名前を口にした。


「"雲外蒼天うんがいそうてん"」


 瞬間──辺りの空気は一変していた。 まるで御使いが降臨したかのように、神々しい空気が世界を満たす。

 突然の異変に気付いた魔物が振り返り、少年の姿を認めると太刀を振るおうとする。 だが、それはあまりに遅かった。 少年の手から一閃の剣戟けんげきが放たれ、目の前の魔物を浄化する。

 声を上げることもなく魔物が消滅すると、後に残るのは蒼空のみ。 そして、その青空には明るく輝いている光が差し込む。


 先ほどまでの、魔物に一方的に押し込まれていたことがまるで嘘のように感じるまでの技の冴え。



 ――雲外に蒼天あり



 努力を積み重ね、苦しみを乗り越え、そうして一心に歩んだ道の先には、素晴らしい剣戟が作り上げられる。

 それは、少年がこのこの世界で初めて解き放った、至高の剣戟だった。





 三人称の地の文でも混ざりやすい話し言葉はあります。 「〜だけど」「〜したら」とかですね。 しかし、「父さん」「母さん」というのは三人称であり得ないとそう感じました。 細かいところは置いておくとしても、これは直すべきです。


 他の作品でもありますが、段落がなくてとにかく読みづらいです。 文を詰めないでおけば読みやすいというものではありません。

 序盤は雰囲気重視の表現として、私もそのままにしています。 しかし、現実の描写が入ってきた部分からは、意味が繋がる部分は段落として繋げるようにした方がいいです。



 三人称の地の文で「……」が多用されるのは好ましくありませんし、「…」はあくまで二つワンセットで扱うところを単独で使ってしまっています。 この点は気を付けましょう。

 地の文で間を表現したい時は、これは単に私個人の感覚ですが「──」を使った方が美しいと思います。



『だが、父親は何も武器となり得る物を持っていなかった。 しかし、それでも庇い続けている。』


 これは細かい指摘になりますが、日本語は言葉の順番を変えてもある程度は成り立ってしまう曖昧な部分があります。 それでも、やはり守った方が文章が綺麗に、すっと頭に入りやすくなります。

 この文の場合は『武器となり得る物を何も持っていなかった』とした方が自然に感じます。

 そして後半では『しかし』と『それでも』、逆接が重なっています。 もちろん強調のために重ねるのも表現としてはありですが、その場合は『しかし、それでも、庇い続けている』と読点で区切った方が伝わりやすいです。



『目の前の魔物ごと浄化する』


 魔物以外の何が浄化されたのかと、読みながら首を傾げてしまいました。 『ごと』=『一緒に』ですから読者に匂わせたいことがある──例えば魔物の背後に何者かがいてその相手も一緒に浄化した、というようなことをほのめかしたいのであれば、もう少し別の表現で匂わせた方がいいですね。

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