メリト~Märchen richten Träumerei~

 原作は↓になります。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054890857780


 抽象的な書き方は作者さんが大切にしている作品のイメージを表すものと思います。

 それでもこれくらいは足していいかなと修正をさせていただきましたが、作者様の意図から外れてしまっている可能性はあり、その際は大変申し訳なく思います。



 果てなき天に浮かぶ太陽は、世界を白く塗り潰す純白の奔騰。 苛烈な光をもって人から視力を奪う漆黒の色。


 歯を食い縛り拳を握る少女の口から、喉も裂けんばかりに獰猛な吠え声が溢れる。 どれだけ足掻いても、圧倒的で、膨大な、そんな光の圧は全てを覆い尽くし、灼き尽くそうとする。

 焦がれるような熱と、全身をひりつかせる苦痛は、しかし少女を奮い立たせていた。


 血がたぎる。 沸騰するような熱を帯びる。

 身を焦がそうと、心を灼こうと襲い来る光の熱のせいではない。 それにすら勝るほどの心の熱量が少女の全身を巡り、己を灼き尽くさんとする烈光に耐えさせる。


 不撓、不屈、不退転──曲がらず、退かず、何があっても貫き通す熱い意思。 熱血と、そう呼ぶに相応しい意思が、彼女の裡から溢れ出さんばかりにみなぎり荒れ狂っていた。


 たとえ、それが全てを救済する光だとしても―─黒い泥をぶち撒けながら、少女は前進する。


 光の奥、白い女神が弓矢をつがえた。

 無数の黒い腕が、救済の光に弾けた。

 少女を見守る目の数々が消し飛んだ。


 それでも、少女は拳を握って前進する。 光をはね除け、前へ進む。


 黒い巨人が倒れた。 アーチのような漆黒の石柱が道を造る。 その背中を、残るただ一対の目が追っていた。

 その姿を光から遮るように、ついに少女は女神の翼の内側へ──



「届いたぞ――――アリスッッ!!」


「私は、あなたを救いにきたんだよ――――あやかちゃん」



 にこりと笑いかけると、困ったような顔をした女神は、ついに光の矢をつがえた弓を引いた。

 彗星の如く疾る光の奔騰──挑む少女の拳はちっぽけで、それでも、誰よりも獰猛に、太陽の如く輝いていた。


 彗星と太陽がぶつかり、弾けた光がほとばしる。

 そして、全てが光に飲み込まれていた。







 太陽の色は、人によって見え方が違うらしい。 子供の絵や絵本を見れば分かる。 赤だったりオレンジだったり黄色だったり、見え方は様々だ。

 気が付くと、いつの間にか右手を太陽に翳していた。 開いた手を透かせても、強烈な陽射しを遮ることはかなわない。 ぼんやりと頭に浮かんだ光景が掻き消えていく。


「太陽は――とっても熱い魂の紅蓮色だ」


 太陽を自分のものとするように開いた手をぐっと握り締め、少女はにっかりと笑った。


 汗の染み込んだスポーツウェアをぱたぱたと扇ぐ。 日課のランニングの途中だったはずが気が逸れてしまった。 妙にボヤける頭をバシバシ叩いて気合いを入れ直す。

 息を弾ませながら大きく伸びをする少女。 イマドキの女子中学生にしては珍しいくらいの、黒のショートヘア。


 十二月三十一日ひづめあやか、それが少女の名前だ。


 14歳、高梁中学二年生。 明朗快活、健康優良、(自称)頭脳明晰、そんな少女の目には、世界はこれ以上ないほどに輝いて見えていた。 まさに今、突き抜ける高い空に輝く太陽のようにだ。


(俺、生きてる。 今が一番幸せだ――――今が楽しい!!)


 溢れるエネルギーに衝き動かされるように、あやかは再び走り出す。

 中途半端に開発が進んだベッドタウン。 緑が揺れる並木通りがぐんぐん後ろに流れていく。

 荒い息遣い。 その顔には汗が滴る。 しかし、その汗は決して不快ではなく、流れていく水滴に命の温もりを感じる。

 生きている実感に頬を弛ませながら、あやかのギアがさらに一段上がる。 風のように並木道を走り抜ける彼女の姿は、まさしく生の輝きに溢れていた。



「うしっ、今日のメニュー完遂!」


 息を弾ませながら大きく伸びをする少女。 世界は輝いている。 茂る緑も、駅周りに立ち並ぶビルも、流れる水のせせらぎも、それらを包む風も、全てがだ。

 あやかにとっては自分の一部のように慣れ親しんだ世界。


 紅蓮の太陽に手を向け、にっかりと笑った。


『選択の意志は、定まったかい?』


「ああ、決まったぜ」


 あやかは、そんな日常の風景を思い出す。

 幸福な自分。 満ち足りていた世界。 誰よりも幸せである自信があった。

 それでも、足りないものがある。 手を伸ばせばきっと手に入る。 そんな星が目の前にある。


──太陽だってこうしてつかみ取ってやる!


 そんな決意を示すように、あやかはもう一度、太陽に伸ばした手を握り締めるとはっきりとその意思を口にする。


「俺は、勇者ヒーローになりたい」



 世界を──

 日常を──

 家族を──

 親友を──

 学校を──

 人を──


 ──守る。


 そのために戦う。



「俺は――マギアになる」


『君の願い、受け入れた。 約束の賭けをしよう――――』



 この日、少女は、運命を切り拓く。

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