第344話 娘さんを僕にください!

 2月18日、月曜日の夕方。

 俺は論破役の桐葉、美稲のふたりと一緒に麻弥たんの家を訪れていた。


「ここが麻弥の家か……」


 その外観に、俺の視線は釘付けだった。


 一言で言えば、可愛い。


 シルバニアファミリーでも住んでいるのかなと言いたくなるような一軒家だった。

 レンガ調のアーチをくぐり、白い石畳を歩けば左右には花の咲き乱れるお庭。


 他、塀も、花壇も、家の外観も、まるで生クリームで飾り付けたようなデザインだし、童話に出てきそうなドアには犬の顔のドアノッカーがついている。


「相変わらずメルヘンな家だねぇ」

「美稲は来たことあるのか?」


「あるよ。ハーレム入りする前は私たち、けっこうお互いの家を行き来していたから」


「行ったことが無いのはハニーに張り付いているボクだけかな?」

「き、桐葉、お前はもっと好きにしていいんだぞ」


 束縛彼氏になる気はない。


「もっと好きに? それはつまり毎日ハニーのお風呂に突撃していいってことだよね?」


「邪悪な笑みを浮かべるな。今日はそう言うのは無しだぞ!」

「わかっているよ」


 くるりんと表情を変えて、桐葉は戦闘時のようなクールビューティーに変化した。


「今日は麻弥をハニーの爆乳美少女ハーレムに入れるために、麻弥の怖いお父さんを説得するんでしょ? 心配しなくても、ボクと美稲が論破してあげるよ」


「本当にわかっているのか?」

「安心してハニー君、私もフォローするから」

「美稲が女神に見えるッ」

「もぉ、それは言い過ぎだよ」


 ひらひらと手を振りながら、美稲の頬がちょっと赤くなっている。可愛い。


「あれ? 美稲顔が赤いよ? 美稲なら美人とか女神とか言われ慣れているんじゃないの?」


 桐葉のツッコミに、美稲はくちびるをとがらせた。


「わかってるくせに意地悪しないでよ。他人に言われるのと、好きな男の子に言われるのじゃ全然違うでしょ?」


 照れている。

 あの冷静で穏やかで大人な品格溢れる美稲が照れている。


 駄目だ。

 今日は麻弥たんのお父さんに俺と麻弥たんの関係を認めてもらわないといけないのに、他の女子にメロメロしていちゃいけないのに。


 だけどうちの嫁の魅力が致死量過ぎてどうにもならなかった。

 このままではいけないと、俺は一度家にテレポートしてから、また戻って来た。


「ハニー、いまどこに行っていたの?」

「あぁ、家に戻ってちょっと末美にボディブロウを叩き込んでもらったんだ……横隔膜に響いたよ……」


「ハニー君、体張り過ぎじゃないかな?」


 美稲が心配して俺の背中をさすってくれた。優しい。


「じゃあ行くぞ……」

「      」


 犬の顔のドアノッカーの横から、赤毛美幼女の顔が突き出ていた。


 ドアをすり抜けるようにして顔を出している美幼女はほっぺをふくらませたり、コロコロ笑ったりしている。


 ――君、自由過ぎないかな?


 桐葉が小さなおでこを指先でこねこねすると、キジムナーちゃんはキャッキャッと笑った。


 続けて美稲がドアノッカーではなく、キジムナーちゃんのほっぺをつまんでドアをノックすると、赤毛美幼女はドアの中に消えた。


 少しして、家の中から何か可愛いものが迫る気配がした。


「いらっしゃいなのです」


 ドアを開けて出てきたのは、フリルの可愛い私服姿の麻弥たんだった。

 家でも変わらず、愛らしい服を着て過ごしているらしい。

 正直、いつまでも眺めていたい。


「パパは猟銃と日本刀を手に待っているのです。上がるのです」


 ――帰りたい。いますぐに!


「あれれぇ? まやちゃんお客さぁん? ドアノッカー聞こえたぁ?」


 まのびした舌っ足らずな声と一緒に、廊下の奥から姿をあらわしたのは、麻弥たんと負けず劣らずの幼女だった。


 ピンク色のワンピースの上からリボンだらけのエプロンを着て、よちよちと歩く姿は完全に童話のヒロインだった。


 ――はいはい、わかってますよ。どうせこれで俺が麻弥のお姉さんですかって聞いたらお母さんですって流れなんだろ?


「麻弥のお母さんですか?」

「まやちゃんの祖母ですぅ」


 ――K点超えてきたぁあああああああああああ!


「お母さんだなんてそんな若く見えますぅ? 嬉しいなぁ?」

「ママぁ、まやのお婿さんきたのぉ?」


 おばあさんの双子の姉妹みたい幼女がもう一人、廊下の奥から歩いてくる。


 ――何これ? 小学生のつどい? ていうかこの人たち超能力者? 不老が能力なの? でも年代的に超能力者じゃないよな?


 どちらにせよ、これで俺の望みは絶たれた。


 俺に残された最後の希望は、麻弥たんがお父さん似で、お父さんが可愛らしいロリショタ系という可能性だけだったのだ。


 けれど、麻弥たんはお母さん似だったらしい。


「あらいらっしゃい、君がハニーくん? ママ息子いないからうれしいわぁ」

「あ、はい、こちらこそ、会えて嬉しいです」

「あらあら、外人さんなのに日本語がお上手ねぇ」

「俺は生粋の日本人ですよ?」

「んぅ? でもハニーなんですよね? 日系アメリカ人てことかしらぁ?」


 ――ぐっ、こんなところでもハニーの呪縛が!


「えっと、一応聞くけど麻弥、俺の本名は?」

「……………………奥井ハニー育雄なのです」

「あらあらミドルネームだったのねぇ」


 ――くそぉ! これも早百合さんのせいだぁああああああああああ!


「そんなことより息子が待っていますからぁ。ちょうどいま弾込めと研ぎ直しが終わったところらしいですよぉ」


 ――何の!?


 俺が恐怖する間に、麻弥たんたち三人の幼女はよちよちとリビングへと歩き去っていく。


 その背中はさながら、俺を地獄へといざなう小悪魔のようだった。


 そうしておっかなびっくり、俺がリビングへを足を踏み入れると、まず目についたのはギラリと光る白刃の切っ先だった。


 それがガチャコンと音を立て、横に二門並んだ銃口が獰猛に俺を睨んだ。


 かくして、右手に猟銃、左手に日本刀を握り、額に【殺人上等】の鉢巻を巻いた男の人が、俺を……見上げてきた。


「貴様がオレの弁天様をかどわかした腐れド外道かぁ! そこにひざまづけ! キンタマに風穴空けて打首獄門にしてくれるわぁ!」


 と、ショタボイスですごんできた。


 ――ちっちゃ……。

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 4月25日と26日にギフトを頂きました。

 何度もギフトを送ってくれて感謝しています!満足いただける作品を作れるよう頑張ります。

 また、26日の方は私の過去作も読んでくれているようで、好みに合って何よりです。今後も楽しんで頂けると嬉しいです。 

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー26112人 1388万2892PV ♥202255★10456

 達成です。重ねてありがとうございます。

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