05

「大野、もう少し愛想よくできない?」


早田さんの言葉に、大野くんはゆっくりと私たちを見回す。


「すみません、これでも愛想よくしてるつもりです。結構気を遣ってますよ。」


物怖じしない貫禄っぷりに、私たちの方が萎縮しそうだ。私が入社したての頃はもっと先輩にペコペコしてたっけ。


「堂々としてるわ~。」


祥子さんが感心したように呟き、私もそれに同調して頷いた。


「えっと、何か飲む?」


「じゃあビールを。」


「はい、どうぞ。」


私は空いている綺麗なグラスを大野くんに手渡すと、まだ残っているビール瓶を探して注いであげた。


「どうも。」


淡々と受け答えする大野くんに、真希ちゃんがボソッと呟く。


「姫乃さんにお酌してもらって喜ばない男、初めて見た。」


「はあ?」


「確かに。ほら見て、あっちのテーブルのおじさんたちは羨ましそうにしてるわよ。」


祥子さんが指差す隣のテーブルでは、年配の男性陣がみんなこちらを見ている気がした。


「さすが姫ちゃん。」


「ちょっと、祥子さん、そんなわけないでしょう。からかわないでください。」


何だか急に恥ずかしくなって私は慌てて否定する。お酌くらいで羨ましがるとか、意味がわからない。


「なるほど。」


「ちょっと、大野くんも真に受けないの。」


大野くんまで感心したように頷くので、私は居心地が悪い。


「姫ちゃんも早く結婚したらいいのに。」


「えっ?いや、あの…。」


「あ、彼氏仕事に忙しいんだっけ?大変ねー。」


「えっと…。」


突然の祥子さんからの話題に私は心臓が跳ねる。そういえば今日こそ“彼氏と別れた”って言おうと思っていたんだった。

今こそチャンスじゃない?

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