17  星ノ10「兆候」(2)




「メリアへの超法規的な巡礼許可を二名分貰いたいのだが……」




「ああそうかあ、じゃあさっきのケイに用意させるから今日はもう終しまいじゃ。また飲む時は連絡するわい。ええのぉ?」




「あ、ああ分かった……」





星ノ10「兆候」(2)





こうしてトネロは、自分とジェリカの特例巡礼許可証を受け、調査跡地までの移動のしやすさを確保したのだった。


「じゃあジレン、俺はスーチルの散策でもしに行くよ」


そう横になっていたジレンに言うと、ドアに体を向けた瞬間コウタが入ってきたのである。


コウタはトネロをまじまじと見ながら、ソファーで横になっているジレンに冷たい視線を送っている。


「おいジレン。こんなとこで酔い醒まししないで下に行け」


「あー頭様とうさまぁ、ちょっと3時間ほどここで休ませて下され。そこにおるトネロと朝まで飲み明かしたんですじゃ」


そう聞くと、コウタはトネロを見ながら窓側にある執務席へと腰をおろした。


「ジレンの連れか? 見ない顔だな」


コウタの少し鋭い視線に、若干手に汗ばみながらトネロは口を開いた。


「はい。アス大陸の西側からメリアへ巡礼に……」


「ほう、ジレンにそんな連れがいたとはな。名前は」


「トネロといいます、コウタ様」


そうトネロは軽く自己紹介をしその場を後にした。

その後ジェリカがスーチル入りする2日間、毎晩ジレンから連絡がありその都度朝まで飲み明かしたのだった。


ジェリカがトネロの宿へ到着し、そのままサンミエルから連絡船でデル・タマーガの手前まで行き、そこから合同調査跡地までは掘削地で使う乗降用ドローンで進んだのだった。


「そうだ、言われてた高性能バイタルチェック機持ってきたわ」


「ああ、ありがとう。この推測が正しければ必ずバイタルに影響が出てくるはずだ」


「そうね ……でもそれが分かればかなり重大な事だわ」


トネロとジェリカは若干の不安感を抱きながらも、約ひと月振りの再開にどこか高揚感も感じながら準備をしていた。


一通り調査の準備を終えて、ジェリカが専用スーツを着用すると、乗降用ドローンに調査機具を積みトネロとの通信端末を装着して、合同調査の際に埋め戻さなかった掘削地へと降りていった。


「ジェリカ気をつけて降りるんだそ! 調査機具の設置と通信設備のチェックしてから俺も降りるから!」


「分かったわー! 私も下で準備――」


ジェリカが返事をしていたその瞬間だった。乗降用ドローンからいびつ摩擦まさつ音と打撃音が、掘削地の穴の入り口から響いてきた。

それと同時にジェリカの叫び声もトネロの耳に届いたのだ。


トネロはそれに気付くと手に持っていた調査機具を投げ捨て、掘削穴へと一目散に駆け寄った。


「ジェリカー!! 大丈夫かー!! ジェリカー!!」


トネロは自分の心臓が、今にも破裂しそうなほど大きく激しい鼓動に変わり、頭の上まで突き抜けるように感じながらも必死に叫んだ。


しかし掘削穴は乗降用ドローンで降りても底に着くまでは5分も掛かる程の深さであり、そのまま落下していればトネロの呼び掛けなど、到底届くはずもなかったのである。


トネロも頭が真っ白になりながらも専用スーツを着用し、通信設備の電源を入れ自らも乗降用ドローンで下へと降りていった。


「たのむたのむたのむ、どうか無事でいてくれジェリカ!」


トネロは気が動転しながらも通信端末を見ながらどんどん降りていった。


穴の中腹ぐらい降りているところでトネロの通信端末に反応がありジェリカの声が聞こえた。


「ジェリカ無事なのか!?」


『ええ、大丈夫よ! ドローンのエンジン部が原因か分からないけれど、浮力が急に弱くなって…… でも私は大丈夫。ドローンはもう駄目ね』


「そ、そうか良かった…… 今にも降りてるから、明かりだけは点灯させてくれないか」


そう言ってトネロは底まで降りていった。


底に近くなると明かりをともしてドローンを扱っていジェリカが見えた。

トネロは下まで着きジェリカに駆け寄った。


「怪我はないか!? スーツに破損はないか?」


「ええ、スーツも大丈夫だと思う。ただ …… ドローン見てくれる?」


「…… ああ、これは酷いな。おそらく浮力を動作させるエンジンが駄目になってる。くそ、乗降用ドローンに俺とジェリカは同時に乗れないしな。助けを呼ぶか……」


「そうね、でも調査機具も幸い無事だし、私は調査を始めてるわ」


「……そうか じゃあ俺は一旦上がって助けを呼んでみる」


トネロはジェリカを心配そうに見ながらも、またドローンで上に上がっていった。



星ノ10「兆候」(2) 完

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