好きになってはいけない人

永田先輩。


お姉ちゃんの同級生で且つお姉ちゃんの好きな人。


だから、私が好きになってはいけない人。


たぶん、永田先輩もお姉ちゃんが好きなんだと思う。


***


紗世さよちゃん」


私は呼ばれて振り返る。


「永田先輩……」


「どうしたの? 傘、忘れちゃった?」

「えっと、はい」

さちは帰ったの?」

「お姉ちゃん、探してみたんですけどいなくて……」

「そっか。じゃあ、入ってく?」

私はどきりとした。永田先輩と相合傘。

お姉ちゃんに悪い。

「こんなに降ってちゃ濡れちゃうよ? 」

「え、えっと……」

「分かった。それじゃあ、これ使って! 俺、走って帰るから」

「そ、そんなのダメです!!」

私は慌てて叫んだ。

「じゃあ、一緒に帰ろう?」

「すみません。よろしくお願いします」


お姉ちゃん、ごめん。


好きになってはいけない人。


なのに。


そんな笑顔、反則だと思う。

永田先輩は私がお姉ちゃんの妹だからそんな顔してくれるんでしょう?


「紗世ちゃん? どうしたの? 寒い? 大丈夫?」

「私は大丈夫です。でも、永田先輩、肩濡れてます。も、もう少しカサの中に入ってください」

「ありがとう。紗世ちゃんは優しいね」


また、そんな笑顔……。


「え? 紗世ちゃん? ど、どうしたの?! な、何で泣いてるの?」

「ふぇ。だって、永田先輩がそんな笑顔するから」

「ええ?!」


お姉ちゃん、ごめんなさい。私、このままじゃ、永田先輩、好きになっちゃうよ。


「ええっと……」


永田先輩が困っている。


そんな顔させたいわけじゃないのに。


永田先輩が笑っても困っても私は、戸惑ってしまう。


「ゴメンね。俺がなんか紗世ちゃん、困らせてるのかな」

「違うんです。永田先輩が悪いんじゃないんです。

でも、でも、永田先輩は好きになっちゃいけない人だから」


「え?」


永田先輩の足が止まる。


「そんなこと、どうして思うの?」

「永田先輩はお姉ちゃんが好きなんでしょう?」

「祥?」


永田先輩は不思議そうに目を瞬かせた。


「えっと、なんでそんな勘違いしてるか分からないけど、祥には付き合ってる奴いるよ?」


今度は私が驚く番だった。


「え? お姉ちゃん、永田先輩が好きなんじゃないの?」


永田先輩が笑いだす。


「なんだ、紗世ちゃん、変な勘違いしてたんだね。俺は祥の彼の幼馴染だから、よく相談には乗るけどね」

「そ、そうなんですか?!」


なんだ。そうなんだ。

私は力が抜けてその場にヘタリ込む。

そんな私を

「濡れちゃうよ?」

と優しく永田先輩が立たせてくれた。


「なーんだ。良かった。俺、嫌われてるのかと思った」


「本当に? 本当にそうなんですか? よくうちにも来てたし……」

「あはは。嘘ついてどうするの? それに、半分は紗世ちゃんに会いに行ってたんだけどなあ」


再び歩き出した永田先輩が言った。私も一緒に歩調を合わせる。


ん?


「え?」


「駅、着いたね。返事、考えといてね。じゃあ!」


永田先輩は再び駅から離れていく。

わざわざ駅まで送ってくれたんだ。やっぱり優しい。


ん?


「えっと、どういう意味だろう?」


私が永田先輩の言葉の意味を理解するのはまだ少し先のこと。



               了

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