第6話 隠形の軍師編

第1章。逆流



 春宮は秋宮と比べて、調度品が豪華である。各部屋には、

名のある画家の絵画が掛けられ、旬の花々が飾られている。

彫刻なども、廊下の四方に陳列され、

国宝級の宝物もさり気なく展示されている。


 最も奥まった部屋にひとりの男がいた。圧倒的な存在感が彼を包んでいる。

その男の前に、ウーノ伯爵・レンリ伯爵・カキ子爵・

ツルキ子爵・ウェイ子爵が跪いている。

男の名は、レオヤヌス=ゴールデイール、この国の大公・・・生きる伝説。


「すべては、このウーノの失敗。罰はすべて我が・・・・。」


ツルキ子爵が口を挟む。


「恐れながら、私、ツルキの策が・・・。」


「やめい。」


重厚な声が、部屋に響く。


「大公国が罰するのは、

怠慢により失敗したもの。私の欲望のために国を毀損たもの。

己が絡まなければならぬ事案なのに、部下に責任を押し付け、

己だけ安全な場所に逃げた輩のはず。

両人とも、そうではあるまい。」


「ツルキ子爵。そのもの達はどうしている。」


「厳重な監視下に置いております。」


「ツルキ子爵。監視は緩め、行動した時のみ、意図を確かめよ。

ウェイ子爵。そのもの達に、接近できる状況をつくれ。

カキ子爵。このこと最優先課題の一つとする。他の事案との調整は任せる。

ウーノ伯爵・レンリ伯爵・両伯のみこの場に残り、他は直ちに取り掛かれ。」


「「「は!」」」


カキ・ツルキ・ウェイ子爵は、立ち上がり、部屋を後にする。

扉の閉まるのを確認して、レオヤヌス大公は2人の伯爵に厳しい声をかける。


「ウーノ伯、レンリ伯。猛虎を山猫と見間違えたか?」


「「御意」」


「今、王国連合との戦も避けられない時世で、

猛虎の力を見誤り、獅子の逆鱗を犯すとはな。」


両伯とも、俯むき、拳を握りしめる。なにも弁解はできない。


「暗黒の妖精に拘りすぎたな。だが大事なのは今後の事だ。レンリ伯、

伯ならどうする?」


「恐れながら。極めて下策かもしれませんが、このまま何もなかったものとして、

彼らを何処へなりと、立去らせる事が肝要かと。」


「どうだウーノ伯爵。レンリ伯爵の案で。」


「は、残念ながら。・・・異存はございません。」


「よし、この件は以上とする。下がってよい。」


両伯爵を下がらせた後、

大公は背後の赤いカーテンの後ろに控えている人物に声をかける。


「・・・という事だ。イルム。」


☆☆☆☆


 大公国政府内でそのようなやり取りが行われている間、

アマトはもただ寝ていただけではない。

ユウイが心配するにも関わらず、公都内の石工商を回っていた。

ひょっとしたら、今日にでも大公国の治安の騎士達に拘束されるかもしれない

との思いが、アマトをベッドから動かしたのだ。


何軒も訪ねるが、門前払いだった。やっといかがわしい通りにある店だけが、

依頼を受けてくれた。足元を見られた値段だった。


 宿に帰り、アマトは、ラティスに頭を下げる。『お金を貸して下さい。』と、

ラティスは、最初のうちは、


「は~。寝言は夢の中でいったら。」


と、素っ気なかったが、

(本当は、この日も、アマトが心配で、姿が消せるラファイアの分身を、

影供にいかせていた。)

一部始終を分身の目で見ていたラファイアが、ラティスに耳打ちをすると


「ま、仕方ないわね。」


アマトに白金貨を手渡した。


☆☆☆☆


 僕はブレイさんの墓標の前に立っている。

ブレイさんのお気に入りだった酒の革袋は、墓標の前で燃やした。

あちらへの旅に必要だろうから。

宿場の騎士は、『死に場所を探していた。』と言っていたけど、

僕たちの盾になってくれたことには、変わりはない。


自分達のために、命を無くした人がいる。僕たちの心は痛く重かった。

ユウイ義姉ェも、墓標に花を手向けてくれた。

ブレイさんが、先に逝った家族の人達に、あの世で会えるよう

僕は神々に祈った。



第2章。美しきひと



 墓標の広場を出ようとすると、石工商の主人と、黒に金の線があしらわれた

執事服の女性が待っていた。


「この前はお世話になりました。」


と、ユウイ義姉が挨拶をする。女性がニッコリと会釈する。


「お、お金の方はお返しします。こちらの方からもらいましたので。」


と、石工商の主人が言う。受け取られない旨の話をすると、


「もし、受け取ってもらわなければ、明日から商売ができなくなりますから。」


と言い、無理にアマトに金をわたし、急いで立ち去った。


石工商の主人が立ち去るのを見届けてから、女性が口を開く。


「差し出がましいと思いましたが、我が主人の方でお金の方は

支払わせていただきました。

今後、こちらの墓標の管理も、差し支えなければ、

私どもの方でさせていただきます。」


「先日はユウイ様には、偽りの名前と身分を申しましたが。

本当のことを申しますと、私の名前はイルム、大公国の騎士です。

レオヤヌス大公様の身辺の警護をーいえ、ありていに言えば、

妾の一人でございます。」


その言葉に、アマトは身構え、エリースの背後には緑雷が弾ける。


その前に、ユウイが立ち塞がる。


「アマトちゃん・エリースちゃん。イルムさんには凄い覚悟があるみたい。

とりあえず話だけでも聞いてみたら。」


ユウイに軽く頭を下げ、イルムは話し出す。


「ユウイ様ありがとうございます。

私は大公殿下から話をお預かりしております。しかし、私が相手では

納得いかないという事であれば、

大公殿下の御許へご案内するようにも、言われております。」


ラティスが口を開く前に、話を聞くことに、アマトは同意する。

ラティスなら言うだろう、『そいつが出てこい。』と。

ちなみに、リーエは姿を隠し、ラファイアは光折迷彩を使用し

姿を消している。


「まずは皆さま、特にアマト様には深くお詫びを申し上げます。

お詫びのしようもございませんが、

もし、なにがしかの気持ちで、皆様のご不興が収まりますなら、

伺ってくるようにと、殿下も申しておりました。」


アマトは考えていたこと言う。


「望む事は、このまま何もなく公都を離れさせてもらいたい。

これが第一です。」


「承りました。で、他には。」


「ありません。」


「殿下のほうから、あなた様方が公都を離れたいと言われるなら、

このようなお詫びの条件をお話しせよと、予め申しつかっております。


『この公都でなされた事は、一切何もなかったこととして扱わせてもらう。

退去するのであれば、鉄馬車はこちらで用意させる。』


あと、・・・。」


「それだけで充分です。」


「わかりました。鉄馬車を、至急用意させていただきます。

手形通行書もともにお届けします。」


「それと、アマト様・エリース様の学友の男ですが、

結界を無理に破ろうとして、魔力を使い続けて、

人格崩壊していたと話を聞いております。

もう自分がだれなのかもわからないでしょう。

独学中の『不幸な事故』として、家族に引き渡す予定になっております。」


・・・・・・・・


イルムが去った後、アマトは早速2人の妖精に吊し上げられた。


「あんた交渉って言葉知っている。どうせならギルス金貨の20枚でも

宝物庫から持ってこいと、なぜ言わないのよ。」


「あれじゃ、あの時、力を行使して助けた私が、アマトさん並みの

馬鹿みたいじゃないですか。」


 2人は仲が悪かった様子なのに、なぜか僕を責める時の連携は凄い。

ただ、僕と契約してるんだよね。

僕と2人の妖精さんと、エリースとリーエさんの関係とは、

なんか違うような気がする。


たとえば、他の超上級妖精と契約者との関係はどうなんだろう。

あ、今、帝国には他の超上級妖精契約者はいないのか、

今のところ永遠の謎になるっぽい。


これにエリースが加わってきた。


「ア・マ・ト・義兄ィ。あれって私、自主退学になるんだよね。」


リーエさんも現れ、エリースの気分を察したのか、僕を睨んでいる。

助けを求めて、ユウイ義姉ェに目配せをする。

ユウイ義姉ェはニッコリ笑って言った。


「アマトちゃん。自分のしでかした事は、自分で処理しなければ、

ダメでしょう。」


詰んだ・・・。


アマトは、それから2時間は責められる事になった。

彼が今日を厄日と思ったかはさだかでない。


☆☆☆☆


 それから2日後、真新しい荷車付きの6人乗りの長距離用鉄馬車が、

イルムによって届られた。荷車の中には、

白銀のパイザ(帝国内自由通行書)と

相当な数の白金貨・金貨が用意されてあった。


慌ててアマトが断ろうとすると、イルムが、


「アマト様、当然にもらえるものは、もらわないと、

含むところがあるんじゃないかと、逆に警戒されますよ。」


と微笑みながら話し、付け加えて、


「差し出がましいようですが、帝都のアバウト高等学院の公募は、

前王帝陛下崩御で喪の期間が開ける

今月までなされていません。来月に応募・試験があるでしょう。

もし、エリース様が高等学院へ進む事をお考えなら、

頭の片隅にでも置いておかれてもよろしいかと。」


「近い将来、このノープルが新帝都になるでしょう。

今の帝都は単なる地方の一都市になりましょう。

帝都は先々帝の愚行と戦乱の傷が癒えておりません。

人材は流失・枯渇し、先帝の御代になっても、戻るものもほとんど、

おりませんでした。」


「そんな田舎の都市に、どんな才幹が現れようと、レオヤヌス大公国

いや新帝国は無視するでしょう。あなた達が、関与してこない限り。」


 帝都で大人しく生涯を送れば、僕らにちょっかいは出さないという事か。

アマトは、イルムの言動の流麗さに、一つだけ聞いてみる。


「あなたは、大公国の軍師でしょう?表には出てこない。」


穏やかな表情で、イムルが答える。


「殿下の妾の一人とは思ってはいただけませんでしたか?」


「アマト様、人はある能力が著しく欠けると、

補うため何らかの力が発達するものです。

あなたの、その読みの鋭さ、大事にお育て下さい。」


「殿下より、あなたがたの旅立ちまでは、

『丁重にいたせ。』と申しつかっております。

出立の日・刻が決まれば、前日までに宿にお届けください。

つつがなく公都を出られるよう差配させていただきます。

では、これで。」


と言って宿を去っていった。


アマトは女性にこんなふうに、褒められたのは、初めてかなと思っていた。

なんか、嬉しかった。



第3章。新たな旅立ち



 その夜、アマトは、昼間イムルから聞いたことをみんなに伝え、

話をした。

故郷ガルスの街へは帰れないし、帝国を捨てて他の国にいっても、

帝国と王国連合の戦争が噂される今、いざ戦争となったら、

真っ先に、兵器として帝国の人々を殺す事を強要されるだろう。

消去法で帝都へいこうという事で、みんなの意見が落ち着いた。


エリースは昔から高等学院にいくことを夢みていたし、アマトもユウイも

エリースの夢をかなえてあげたいと思っていたのも大きかった。


 話し合いの夜から、一日で用意を済ませ、朝もやが漂うなか、

鉄馬車に乗り宿を出発した。

城門では、イルムからの手紙が用意されていた。

命令があったのだろう、出都検査もなく通過できた。


「義兄ィ後ろ。」


門を出てすぐに、エリースが、後ろを指差しながら、アマトに告げる。

門の横にイルムがいた。軽く頭を下げている。

女性らしく花模様があしらってある封筒を開け、手紙を読んでみる。

 

『 アマト様。


  大公国の帝都に所持している、護衛の騎士の滞在用の家をお譲りいたします。

 これは、私からの皆様方に対する好意であると同時に、

 アマト様にはどういう意味であるか、お分かりいただけるかと思います。

 再び私とお会いするような不幸な事態が起こらぬよう、

 今後の皆様方のお幸せを祈っております。


                            イルム    』


帝都に行くことは折込済みか、敵わないなとアマトは思う。

それとは別にこのような家臣を登用している事が、

レオヤヌス大公の凄いところだと改めて感じる。


☆☆☆☆


 城門を出て、半日程して、聖ラファイス像の後ろ姿が見えてくる。

来た時にみた像は片手に長剣・片手に盾を持っていたが、

この像は片手に秤を持っている。この像から左が、帝都へ続く道だ。


「そろそろ、ラファイア、御者を替わるわよ。」


光折迷彩を解いて、ラファイアさんが現れる。


「じゃ、次はどこまで私がすればいいですかね?」


「帝都までにきまってるじゃないの。一番最後に加わったんだから、

パシリ扱いは当たり前でしょう。」


「それに御者の姿に化けなさいよ。光折迷彩はそういう使い方もできたわよね。

アンタの性格と同じで、眼にうつる姿を歪ませて、だったけ。」


「ひどいです。ラティスさん。」


と言いながら、ラファイアさんは御者の姿に変化し、ラティスさんと交代する。


帝都でなにが待つかわからないけど、この2人と一緒なら、

なんかやっていけそうな気がすると、

アマトは確信していた。



第4章。迷路



 公都ノープルから、鉄馬車で約1時間の行程、ラファイス湖のほとりに

ファイスという町がある。

 伝説では、聖女ノープルがオフトレを倒したのち、残りの生涯を、

ここの修道院で過ごしたという。信仰の町であったが、

今年、歴史上の一大儀式が行われる事となった。


 アバウト=ゴルディール7世の遺言書の開示である。

本来は帝都で行われてきた儀式。

名実ともに帝国の第一人者になった、レオヤヌス大公は

帝都に残っている儀式部門も、公都ノープルに移譲させようと考えていたのだ。

つまり遷都。


しかし、ミカル大公国やテムス大公国を刺激しないため、

一気に公都ノープルへという事は断念した。


 予定された日、ファイスの町の住人に外出禁止の布令が出された。

町の中はもちろん、ファイスに向かう街道・間道は騎士により警備され、

ラファイス湖上の船々にも兵士が配備された。


 前々日までに、ミカル大公国レリウス大公・テムス大公国アウレス大公・

侯爵・伯爵、帝国の上級貴族が、ノープルにある自らの邸宅にはいった。


 そして当日、ファイスにある双月教のラ・ファイス教会に

一堂に会したのであった。


ラ・ファイス教会は双月教の教義に沿ってつくってある建物で、

二つのの非常に高い尖塔を持つ。

教会の全面に、神々の栄光を讃えるレリーフが施してあり、

白色の殿堂の異名をもつ。


 今まさに、この双月教のラ・ファイス教会で、先帝ゴルディール7世より、

直接遺言書を預かった、双月教会カイリ帝国最高枢機卿により、

遺言書が至読され始めた。



Ⅰ。旧ファンウィルス領はミカル大公国の属領から、

ミカル大公国に併合させるものとする。


Ⅱ。各公国・各侯国にある、帝国本領は、それぞれの国に譲渡するものとする。


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・


次々と読み上げられる文面は、先行して秘密裏に行われた

3大公国会議で妥結した内容とほぼ変わらない。

レオヤヌス大公は、内心⦅ピアスをはじめ皆いい仕事をした⦆と満足していた。


『さあ、いよいよ最後だ、とりあえずワシが8世に即位し、

3年後に息子トリヤヌスに王帝を譲位、

帝都を我がノープルへの遷都させ、名実ともに帝国を支配する。』


彼の夢が結実する瞬間が来るはずだった。


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・


ⅩⅩ。帝位は、わが義理妹、テイシア=ゴルディールに譲る。



 その後、一呼吸の間があっただろうか、レオヤヌス大公は無言で立ち上がり、

怒りに震えながらその場を退席した。

しかし、レリウス大公・アウレス大公は泰然として、

儀式の最後まで中座しなかった。


2大公の態度が、憶測につぐ憶測を呼び、侯爵・伯爵らは、

今後の対応に追われることになる。 


儀式後、アウレス大公が側近に漏らした、


『このままでは終わらんな。』


という言葉がすべてを代弁しているだろう。

しかし、それ以上に諸侯を恐慌に落としたのは、


〘テイシア=ゴルディールとは何者か?〙


という、もっともな疑問だった


☆☆☆☆


 曲線的な線で花々を写した柄の内装、青地に白の獅子の柄の座席どれもが、

日用品とは思えぬ贅の限りをつくした、ミカル大公国の専用鉄馬車に

(ファイスからノープルへの帰り)、レリウス大公は側近のトリハ

を呼んでいた。側室の一人に、彼へ酒をつぐよう、目で合図する。


「中座した、レオヤヌスのイヌおやじの態度を見たかい。全く笑えたね。」


「まさか、アウレス大公の工作でしょうか。」


「あのブタおやじにそれ程の器量があるかい。

あいつはあだ名どおり怠惰公よ。いい女を妃にするのも善し悪しだね。

6世に『否』と言ったのもオレからすると、天地がひっくり返る程の

驚きだった。」


「という事は、7世様の御意思だと。」


「誰の意思だろうが構わねえ。」


「先の会議でファンウィルス領全部やるといわれちゃあ、イヌおやじが

王帝の座に就くのはダメとは、オレはいえなかったからな。

けどこれで振り出しに戻ったわけだ。」


ここで、もう一人の側室に自分の盃にも、酒をいれるように促す。

そして、それを一息に流し込んだ。


「ま、お前を呼んだのはほかでもねえ。

3年前に飲んだコウニン王国産のギム酒おいしかったよな。」


「今年も飲みたくて、3年前と同じくらいうまいのを送ってほしいと、

イルガ王に親書を、お前の方から送ってほしいんだ。」


「御意。ギム酒の送り先は帝都でよろしいでしょうか。」


「ほかにあるかい?まあ送り先も、おいおい分かるだろうから。」


「では早速。」


「いやいや急がなくていい。確実にやってほしいからな。

くれぐれも、イヌおやじとブタおやじには、おれが贈ったなんてわからぬように。

おれは奥ゆかしいたちなんでな。」


☆☆☆☆


 レオヤヌス大公は、ノープルに着くと、宮殿には帰らず、

そのまま秋宮へ向かう。

秋宮のエントランスで待ち受けていた、イルムに、


「さすがだな、付いてまいれ。」


と命じ、半月の間に向かった。半月の間には、

トリヤヌス大公子と弟ピウス侯爵が、待ちわびていた。


「父上。あのネルファめがこのようなことをしていたとは!」


と怒髪天を衝く怒りを抑えきらず、トリヤヌス大公子は

レオヤヌス大公に駆け寄る。


「落ち着け、トリヤヌス。」


と、2人に席に着くように命ずる。


「兄上、このたびの不始末このピウスの命をもって・・・。」


「やめいピウス。この度の事、武力によらず策を用いて帝国を手にしようとした

ワシの誤りよ。」


「父上はこの度の事、レリウス大公かアウレス大公が絵を描いたとお考えか?」


「もしそうなら、今頃このノープルには別の旗が翻っていたろうな。」


「では、今回のこと。あの惰弱なネルファが自らの意思で行ったと。」


多少考えた後、レオヤヌス大公はピウス侯爵に当時の様子を聞く。


「ピウス。ネルファには、酒や女も十分に与えていたのであろうな。」


「7世様は、病弱だといってどちらも遠ざけておいででした。

執政官の私に意見するでもなく、毎日の業務をしていたように思いましたが。」


「理想的な、操り人形ではあったわけだ・・・・。

ところで、テイシアとは何者だ?」


「6世めが、城の下働きの女に、産ませた娘にそのような名前があったと

記憶しております。」


「イルムどう思う?」


と、レオヤヌス大公の後ろに控えていた美貌の軍師に声をかける。


「まずは今後、両大公がどう動くのか見極めるのが肝要かと。

特にレリウス大公様、今頃は暗殺者を帝都に送っているやもしれません。」


「暗殺者だと?それは飛躍のしすぎだろう。

王国連合との戦もあるかもしれぬ情勢にだぞ。」


と、トリヤヌス大公子が疑問の意見を述べる。


「恐れながら申し上げます。ミカル大公国が裏切らないまでも、

戦の最中、様子見を決め込む可能性もお考えにいれた入れた方が

よろしいかと存じます。

今は旧ファンウィウス侯爵領も手にされたわけですし。」


「わかった、イルム。お前なら、まずはどう動く?」


「まずは、テイシアという娘が、クリル大公国のための新しいとして

使えるかどうかです。」


「わかった、イルム明後日の朝にでも帝都へたて。そしてその目で

確かめてまいれ。」


「ピウス、明日の昼、今公都にいる伯爵以上のものを、春宮に呼び出せ。

今後の事を検討する!」


大公が両手で軽く机を叩く。それを合図にピウス侯爵・トリヤヌス大公子が

立ち上がり退席する。

2人を見送り、一礼してイルムが半月の間を出ようとする間際、

レオヤヌス大公が声を絞り出す。


「イルム。今宵はワシの側におれ。いや、いてくれ。」


イルムは軽く頷き、半月の間の扉を内側から閉めた。


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