アピス!?誰それ。わたしはラティス!

稲の音

第1話 暗黒の妖精編

プロローグ


 夜の魔鳥 キルギリウスの不気味な鳴き声が、森の奥から聞こえてくる。

ぼくは、妖精の門の傍らに座り込み、何度も同じ言葉をつぶやいていた。


「契約が出来なかった・・・。ダメだった・・・。もう終わりだ・・・。

はははは・・・。」


〖死・死・死〗、心に張り付いた、嫌な言葉が、剥がれない。


 帝国では、初等学校卒業時に、誰もが妖精契約の儀式を受けさせられる。

どの階級の妖精と契約ができるかで、自分の将来が決まるといってもよかった。 

下級帝国民といえども、上級妖精との契約さえなされれば、

一代貴族(準爵)への道も開かれる。


上位階級の妖精と契約することは、家族の繁栄を約束するものであり、

当人だけの問題では終わらない。

どの階級の妖精と契約できるかは、自分の持つエーテル(魔力粒子)容積の容量に

その多くが左右されると言われている。

ぼくのエーテル容量は、年齢を重ねていっても、ゼロから増えることはなかった。


ぼくの両手の震えは、まだ続いている、止まらない。


「大賢者マリーン様の残した大呪も試した・・・。だけど・・・。」


ぼくは、頭を抱え込みながらも、さっきまでの儀式を思い返していた。


☆☆☆☆


 予定された刻限になった。4重の魔法円が現れ、それぞれ互い違いに回りだす。

魔法円に描かれた魔法文字が、連続した線に変わり、やがて一つの彩色された

円盤にかわると、円盤は拡大をはじめた。

巨大化した円盤が地面対しに半円形となった時、中心部が白く光りだす。

そして、その中心部が、人ひとり通れる大きさになった時、声がかかる。


「妖精の門は開かれた。一人ずつ中へ進め。」


 妖精の門の守護騎士が見守るなか、ガルス初等学校卒業式を終えた20名は、

ひとりずつ魔法円の中心部分、入口に入っていく。

妖精の門は1度通った者は2度は通れない。まさに一生に一度だけの儀式だ。


 魔法円を通過すると、回廊と呼ばれる空間に入る。足から地面の感覚が消える。

青緑色の世界。大きさがどれだけあるかわからない。

水中を歩いていくといった感覚に近いだろう。


日頃はすぐ不貞腐れる暴れ者たちも、先頭を切りたがる優等生たちも、

ただただその世界にのまれ、無言のうちに足を進めていた、

時間の感覚もすでにない。前方に輝く光が、見えてくる。


「アマト義兄ィ。」


急に誰かに手を掴まれる。義理の妹のエリースだ。いつもの強気さは影を潜め、

緑色の瞳が不安に揺らいでいる。


「大丈夫。大丈夫だから。」


と、ぼくはエリースの手を強く握り返す。


光る壁に近づいていくと、それは段々と城のようなものに変化していった、

壁面に魔法文字が浮かんでいる。

エリースが聖呪を唱える。一緒に光る巨大な城の中へ侵入する。

上下左右の感覚すら消えた。もはや誰がどこにいるのかもわからない。

何回も講義を受けた、白い世界、契約の場だ。


4色の数多くの光球が、踊るように、近づいてくる。


赤色は火のエレメントに属する妖精・青色は水のエレメントに属する妖精・

緑色は風のエレメントに属する妖精・黄色は土のエレメントに属する妖精・


大きさは、妖精の力の大小に関係するのだろか?光球はぼくたちに、

ある距離から近寄ろうとしない。


『なぜ?膨大なエーテル量があるエリースにも?』


と思った瞬間、2人が握った手を、何か強大な力が引き剝がす。


「エリース!」


ぼくは、エリースの方を見る。エリースの体が緑色に輝いている。

エリースが何かつぶやいている。

契約がなったのか、ぼくが思った瞬間、エリースの体は一瞬激しく輝き、

閃光を残し、消えていった。


『エリースは契約がなったんだ。』


義妹の契約成就に安心する。


エリースが消えた後、どの光球も、ぼくの近くにくることはなくなった。


白い世界が揺らぎだす。残りの時間もあまりないのだろう。

ぼくは、妖精学のカイム先生から聞き出した、〈マリーンの大呪〉を唱えだした。

最初の妖精契約者と言われるマリーンは、この大呪の使用で、視力を無くしたと、言われている。

しかし、エーテル量が皆無のぼくに、他に選ぶべき手段はなかった。


「我は命じる、神々の名のもとに。自由なものらよ、我らとの原契約を果たせ、

汝らの長の・・・」


大呪は続く、複数の光球がぼくの方に、強い力で、引き付けられる。


『もう少しだ』


精神を大呪に集中する。

だが次の瞬間、上方から巨大な木槌でなぐられたような衝撃を受ける。

体が落ちていくと感じながらも、なかば意識が飛んだ。


青緑色の空間に吸い込まれ、どこまでも落ちていく。

どのくらいの時間が経過したかはわからないが、

ドンと、ぼくの体は、妖精契約の空間から外へ投げ出されていた。

土埃の舞い上がるなかで、飛ばされてきた方向に、妖精の門が見えた。

 

4重の魔法円が、光を落としながら縮んでいく、そして完全に消えた。


☆☆☆☆


 巡回中の妖精の門の守護騎士アリスが、門の外に座り込んでいた

アマトに気づき、


「きのう、妖精契約に臨んだ卒業生の一人だな。妖精の門は閉じられた。

用がなければ、この場から立ち去れ。」


と、立ち去るように促した。


「はははは・・・・・・。」


アマトは、薄ら笑いを浮かべ、ふらふらと立ち上がり、街のほうへ歩き出した。

守護の騎士アリスは、その後ろ姿を憐みの眼差しをもって見送った。


 彼は全く希望のない世界へと戻っていく。その足取りは重い。


「帰らないと。行かないと。ぼくのためにユウイ義姉やエリースを、

火あぶりにするわけにはいかない。」


「ぼくと二人は義理の兄弟であることだし、ぼくだけが殺されれば・・・。」


そのような甘すぎる事を、アマトは考えている。


 ほぼすべての人が、いずれかの妖精と契約できる世界において、

妖精との契約が出来ない者は、《神々の恩寵に逆らえしもの》と呼ばれている。

たとえ貴族・上級帝国民であっても、〈初めから存在しなかった者〉として、

一族から追放される。


ましてや、下級帝国民であれば、生きている事自体が神々への冒瀆として、

家族ごと、近隣の人々によって、密かにあるいは公然と火あぶりにされる。


帝国から禁止の布令が何度も出されたが、帝国の辺境であるアマトの故郷

ガルスでは、

いや信仰が厚き人々により、それが守られることはない。


『災いの種になりそうな者は、理由の如何によらず、火あぶりにする。』


悲しいが、この世界の現実であった。



第1章。 禁忌の契約



 二つの月の光は明るく足元を照らす。

アマトにとって、それは死刑場への案内の光。

先程と同じように、ふらふらとそれでも、前へ前へ足を動かしていく。


『おい、おまえ。』


アマトの心に、突然声が響く。

アマトは一瞬にして、圧倒的な力を有するものが、自分に干渉してきたことを

理解した。

真妖魔?魔神?

とにかく、自分がそれの意思に反して、小指の一本でも動かせば、

瞬きもしない間に、この世界から消し去られるであろうことも、感じていた。

周囲の色が消える。


『死にたくない』


本物の死が隣現したことで、アマトの心の中に、生への欲望が、

爆発的に膨れ上がる。

なにかを察したか、それはアマトの心に直接語りかけた。


『心配するな。殺すつもりなどはない。我の質問に答えればよい。』

 

アマトは、ひざを震わせながら、次の言葉を待った。


『答えよ。妖精契約の儀式は終わったのか?門は閉じたのか?』


「先ほど終わりました。門も閉じました。」


虚空の一点に返事を返す。


『そうか儀式は終わったか。妖精界への門は閉じた。還れぬな・・・。』


思い出した。禁忌を犯したため、妖精界に戻れず、こちらの世界にとどまる

妖精がいることを。


『礼を言う。』


気配が消えていく。アマトは思わず言った。


「待って下さい。」


『なんだ?』


「あなたは妖精でしょう。妖精界に戻れないんでしょう。  

僕と妖精契約を・・・。どんな条件でも飲みますから。」


アマトの魂の叫びであった。


しばしの沈黙がながれた。夜の風がアマトのほほをつたう。


『フ、ハハハハ 少年。面白いことを言う。』


『お前の体からエーテルのかけらも感じぬ。エーテルが無いお前と契約をだと。

それも儀式外で。』


アマトは唇を噛み締める。


『人間の言う初級妖精、いや枠下妖精でさえ、お前と契約はしないだろうよ。』


「一ヶ月。いや一週間でも契約を・・・。」


『少年よ、我を禁忌を犯したるものと思うたか。愚弄するな。

これ以上の無礼を重ねれば、命なきものと思え。』


死の香りが甘く広がる。


「だったら殺せ!!街に帰ってもどうせ火あぶりになるだけだ。」


アマトは暴発した。もうどうでもよかった。


アマトの周りの空間に、もの凄い殺気が宿る。アマトがそれに耐えかね、

目をつぶった瞬間、


『面白い、そなたの願いかなえよう。』


アマトの心の中に黒雷が轟いた。


☆☆☆☆☆


「えー、契約の手順間違えた?何か実体化してるし。」


アマトが目を開くと、戸惑いを隠せぬ人外の美しきものが宙に浮かんでいた。

長身・緑黒色の長い髪・雪白の肌・黒の瞳・超絶の美貌・・・妖精?。


『もし女神というのがいるとしたら・・・』


二つの月の光に映えるその姿に心を奪われ、

アマトは瞬きもできず、その美しきものを見つめていた。


・・・・・・・・


 美しきものの周りに光がまとわりつく、それが踊りながら輝きを色に変え、

さらに衣装へと変化してゆく。


「ふん、実体化しても、どうやら力の低下はないようね。」


まとっていく衣装を眺めながら、興味のなさそうな態度で美しきものは、

後ろを向いてるアマトに、言葉をかける。


「私の名はラティス、暗黒の妖精。あんたの名は?」


「僕の名前は、アマトです・・・いえ、と申します。」


「堅苦しいわね。契約したんだから、もっとくだけた、話しかたはできないの。」


暗黒の妖精との契約、この世界の道徳では忌避されるもの、

犯してはいけない禁忌であった。


それでも義姉妹が逃げる時間が出来そうな事に、

アマトは暗黒の妖精に感謝していた。


「ところで一週間でいいと言っていたわね。あれってどういう事?」


アマトの前に、瞬間・移動した、ラティスが尋ねる。


驚きながらも、アマトは自分のことを話始めた。

自分に2人の義姉妹がいること。3人とも戦役孤児であり、

戦場で義父セグルトに拾われて、育てられたこと。

自分が全く子供の頃から、エーテル容積がゼロであっであったこと・・・・。


ビシッと大気が震える。


「あんた話が長いわ。」


「つまり、一週間だけでも私と契約をして、『自分は妖精と契約できてます。』

ということにして、

その隙に、義理の姉妹であるその2人を、街から逃がすという事ね。」


アマトは頷く。


「だけど二人は逃がしたとして、その後、あんたはどうするつもりなのよ?」


「その時は・・・・。」


「森に入って、魔獣の餌にでもなるつもり・・・。」


アマトは何も返事をしなかった。


ため息をひとつつき、ラティスは言葉を紡ぎ始める。


「一つだけ安心させてあげる。契約は完全な形で成立しているわ。

 あんたが死ぬまで、私の方から、契約を破棄する事はない。」


アマトはその言葉が信じられなかった。


え、本当か?夢でないのか?

いつの間にか涙が溢れていた。


長い間求めて、求めてきたもの。

だれもがが大した苦労もせず、当然のように手にしているもの。

自分には永遠に手に入らぬと、本心では思っていたもの。

つい今さっきまで、絶望の中であきらめていたもの。

神々は自分を見放したと思っていたもの。


それを否定するただ一つのものが、いま手の中にあるのだ。

涙が嗚咽へと変わり、闇の中に広がった・・・。



第2章。火刑の街



 キルギリウスの鳴き声が、聞こえる。

ラティスは顔を左に向け、さして近くにはいないことを確認し、

アマトに話かける。


「アマト、朝が近いわ。急がないと。あんたの義姉妹は大丈夫なの?」


アマトの顔から血の色が消える。


「は~あ~。あんたの街はどっちの方向よ?」


「太陽の沈む方向。」


と、右手で指を指す。


「わかったわ、目をつぶりなさい。私がいいと言うまで開けちゃダメよ。」


アマトは、しっかり目をつぶった。

ラティスが、詠唱を唱えるのが聞こえる。

彼は自分が宙に浮かぶのを感じた。全身に風を感じる。


「アマト、あんたがどんなに凹もうが、たとえ死んだとしても関係なく、

時の刻みは止まらずに、日はまた昇るの。」


「私と契約した以上、あんたが、


『これから先、数千の時の流れが否定しても、自分の生きた日々は満足だった。』


と思える日まで付き合ってあげる。」



☆☆☆☆



 体に感じる風が少なくなる。風切り音が聞こえなくなり、

足が石畳の上に降りたのを感じる。


「目を開けてもいいわ。」


ラティスに促され、恐る恐る目を開ける。炎に照らされた、

見慣れた建物が瞳に飛び込んでくる。


「炎が出てたんで降りたんだけど、ここで間違いない?」


緊張したラティスの声が響く。


「ユウイ義姉さん。エリース。」


叫んで、駆けだそうとしたアマトを、背後からラティスが抱き止める。


「はなせ。放せよ。」


アマトはもがく。家の周りには薪が積み重ねられ火が放たれていた。

パチパチという音、焼き焦げる匂い、炎による熱風、それらがアマトの五感に、

絶望を叩きつける。


しかし、ラティスは違った。


「ふふ、多面体立体障壁か。心配する必要はないようね。 

しかし、とんでもない化け物が、あの中にいる。」


と、薄く笑う。


頭上に松明をかざす多くの人の後ろ姿が見える。火の妖精と契約した者達が、

炎を次々に建物に放つ。


「アマトよく見なさい。彼らの炎は建物に届いていない。」


アマトは目を凝らす。確かに炎は建物の手前で消失している。


「後ろだ。アマトだ。妖精契約に失敗した奴だ。火あぶりにしろ。」


若い男の声がどこからか響く。面をかぶり、片手に松明、片手に得物をもって

建物を取り囲んでいた人々が、一斉に振り返りアマトを見つめる。

炎の塊がアマトへ、飛来する。


「ルーン!」


ラティスの詠唱が響く。藍色の魔法円が出現、アマトの目の前で炎が消え去る。


ラティスが、かばうようにアマトの前に足を進める。


「我が名はラティス。暗黒の妖精。アマトと契約をなしたるもの。」


「我が契約者アマトに手を出すというなら、死を覚悟せよ。」


怒りに満ち満ちた声、天をも滅ぼすような美貌に、人々は凍り付いたように

ラティスを見つめ、動きを止める。


「騙されるな。暗黒の妖精などいるわけがない。殺れー。」


再び若い男の声が響く。炎使いが次の炎を打ち出そうとする。

しかし、炎は現れようとしない。


男達の体の周りに赤い三重の魔法円ー結界呪縛ー。


「警告はした。」


ラティスの姿が目の前から消える。《バシッ》《バキッ》と鈍い音が複数重なる。

そこに集まった皆が、音のした方向を振り向いた。

そこには、ガルスきっての炎使い達と言われた男達の、首のない肉体が何体も

直立していた。

その中央に、血化粧をまとい、炎に照らされた、美しき人外、ラティスが、

人々を睥睨する。


 暗黒の妖精が、《パチン》と指をならす。


上空に橙黒色の魔法陣が現れ、炎も死体も薪の山も一瞬にして吸い込まれ、

消え去る。


『本物!?』アマトの家を囲んでいた者達は、ある者はその場にへたり込み、

ほとんどの者は恐怖から、慈悲と博愛の妖精ラファイスの聖印、

五芒星を胸の前で描いた。


「さてどうしようか、アマト。」


ラティスは冥く笑い、再び魔法陣を空中に描きだした。


☆☆☆☆


「朝も暗いうちから何事か?」


不意に野太い声が、響き渡る。巡邏の騎士が馬上より、人々を睨みつける。

その声は、集った者達を、我にかえらせた。

頭が冷え、現実が突き付けられる。


≪アマトは、妖精と契約ができなかったのか?暗黒の妖精だができていた。≫


だとしたら、捕縛されれば、帝国法の騒乱・放火の罪で、今度は自分達が

火刑に処せられる。

この事実に、集まっていた人々は恐怖した。


「これはこれは、お手柄ですな。」


騎士の後ろについてきた、腹の出た、見るからに成金趣味の男が

大きな声を上げる。


「放火魔を皆様で追い詰め、こちらの美しい妖精様が退治してくださったとは。」


「実に素晴らしい、この街長ロナト感服いたしました。」


「アマト君、君達に恩賞をお渡しするので、後日、街役所へ取りに

来てくれないかな。」


魔法陣を消した、ラティスの目が一瞬光る。底知れぬ者の眼差しに青ざめ、

ロナトは言葉を改める。


「イヤイヤこの街長ロナト自ら、ご自宅へお届しよう。

皆様方は恩賞はいりませんな。」


「それなら解散解散。今日もいい天気になりそうですな。」


・・・・・・・・


暗黒の妖精ラティスは、軽く片手を上げ、短い呪を唱える。

呆然と立ち尽くしている、すべての者の仮面が砕かれる。


『きさまらの顔は、すべて覚えた。』


彼らの頭に声が響いた。

立ち竦み、面が砕かれた人間の中に、アマトが小さい時から知っている、

肉屋のトムスおじさん・野菜屋のキネマおばさんの顔も見えた。


人々が、慌てふためいて消え去るのを見届けて、ラティスは殺気を解いていく。


いつの間にか、ラティスはアマトの隣に立っていた。


「これで許すの、アマト?あまいわね。けどいいわ、

さあ、あんたの家族を紹介してくれる。」



第3章。 風の超上級妖精



「ユウイ義姉ェ。エリース。僕だアマトだ。」


自宅の木のドアを、何度も何度も叩く。よく見ると、ラティスさんの言った通り、

焼き焦げ一つない。


ドアが開く。


「アマト義兄ィ大丈夫だった。なぜ直ぐに帰ってきてくれたの。

もう殺されたかと思ってたんだよ。」


義妹のエリースが泣き顔で、僕に抱きついてくる。

後ろから、目頭を拭いてた泣き笑い顔の、ユウイ義姉ェも加わってくる。


「アマトちゃん。本当にアマトちゃん。幽霊じゃないよね。」


「もし、アマトちゃんにもしもの事があったら、お姉ちゃんエイヤッて、

帝国を大地ごとひっくり返しちゃうんだからね。」


あゝ、いつも通りだ。僕は生きて帰れた喜びをかみしめていた。


後ろにいるラティスさんを見て、急にユウイ義姉ェが顔をこわばらせる。


「その後ろのキレイな方はどなた様。アマトちゃん、お姉ちゃん

女の人と付き合うなとは言わないわ。う~んと年上の方でもいいと思うわよ、

でも初めにお姉ちゃんに相談がなかったのは、さびしいな。」


完全に怒っている。なんで?相談?とにかくヤバい、慌てて僕は、

ラティスさんを紹介した。


「こちらはラティスさん。暗黒の妖精さん。契約して、

なぜか実体化してしまったというか・・・。」


「あらあらそうなの。アマトちゃんと契約していただき、

本当にありがとうございました。

初めまして、私はアマトの義姉のユウイです。」


満面の笑みで、ユウイ義姉は、ラティスさんに挨拶をした。


・・・・・・・・


 4人は家の中へとはいる。ガルスの街のどこにでもあるような、

けど掃除の行き届いている食堂兼居間に入り、椅子に座った。

エリースは、別名殺戮の妖精といわれている、暗黒の妖精を警戒し、

無言をとおす。


雰囲気を変えようと、アマトは気になっていたことを、エリースに聞く。


「エリースの契約はどうだったの。」


「それが聞いて聞いて、エリースちゃんは、風エレメントの上級妖精と

契約できたのよ。」


と、義姉ユウイが本当にうれしそうに言う。


「わ、おめでとう。末は準爵さまか。エリース準爵、かっこいいよな。」


アマトは道化を演じる。


それまで黙っていたラティスが、素っ気なく口をはさむ。


「本当の事をいったらどう。上級妖精で出来るのは、水晶型障壁まで。

最上級妖精以上の力を持つ妖精と契約してなければ、

多面体立体障壁はあり得ない。」


「今後の事もある。少なくとも家族には話した方がいい。」


エリースは、いったんラティスを睨み、ため息をついてから、口を開く。


「ユウイ義姉ェ・アマト義兄ィごめん、隠そうとしてた。本当に契約したのは、

風の超上級妖精。」


「名前はリーエ。」


エリースの身体が、淡く緑に光だす。

緑色の髪・青色の瞳・白い肌・超絶の美貌の風の妖精が、

エリースの背後に現れる。けど、直ぐにエリースの後ろに隠れようとする。


「彼女、超恥ずかしがり屋さんみたい。」


微妙な顔で、エリースがリーエを紹介する。


・・・・・・・・


 本物の超上級妖精?僕は立ち上がり、妖精リーエの胸元に手を伸ばした。

手には、何も感じられなかった。


⦅超上級妖精の目に見える姿は実体ではない、蜃気楼のようなものだ。⦆


という話は本当だった。

だったら、完全実体化しているラティスさんは何級の妖精なんだろう?

ハッと、僕は4つの冷たい視線に気づく、


「アマト。契約の時、実体化した私の裸身を、食い入るように見ていたわね。

やはりあんたは、そういう男なの?」


とのラティスさんの言葉に、ユウイ義姉ェも、


「アマトちゃんのベッドの下に、裸のお姉さんの絵本があるのは知ってたけど、

今のはいけないわ。」


言い訳をしよううとした瞬間、エリースのビンタが、僕の左頬に炸裂した。

『バッチン』という小気味のいい音が、部屋中に鳴り響き、

ラティスさんが笑いだす。


「いいビンタね、手首の返しがいい。気にいったわ。エリース」


ラティスさんが立ち上がり手を前に出す。少し迷ったが、

エリースは握手に応じた。

殺気に似た雰囲気が一気に和らぐ。ラティスさんが付け加えて言う。


「リーエが、超恥ずかしがり屋さんでよかったね、アマト。

普通だったら、超上級妖精にそんな事をしたら、

瞬殺されてるわよ。」



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