あ、あんた、あたしに欲情したなら付き合いなさいっ!〜友達以上、でも恋人はおれ的になしの幼馴染女子が日に日に女子力………ではなくヒロイン力を向上させている件について〜
第17話 「きょ、今日は、お兄ちゃんに甘えてもいいですか?」
第17話 「きょ、今日は、お兄ちゃんに甘えてもいいですか?」
久しぶりに仁美さんや智和さんとも本当の親子のように語らい、那須野家での夕食もつつがなく終え、今は寝る支度も済ませてラノベの新刊を読んでいるところ。
キリよく読み終わったところで何気なしに時計を確認する。
(22時過ぎか。明日は土曜で休みだけど疲れてるし今日は早めに……)
ーーコン……コン……コン…………
「うん?」
遠慮がちなノック音が部屋の扉からではなく、カーテンを閉めたベランダに続く窓の方から聞こえてきた。
普通の状況なら間違いなくホラーものであるが、おれの場合は少し状況が異なる。
奏人はベッドから降り、部屋のカーテンを開けるとそこに立っていたのはやはり楓だった。
風呂上がりなのか、モコモコのピンクなパジャマに身を包んでいる。
(おれの部屋のベランダと楓の部屋の窓がほとんど接してて簡単に往来可能な造りなんだよなあ)
毎度のことながら建築の際にどうにかならなかったのかなどと考えつつも、鍵を開けて引き戸をカラカラと移動させ、楓を中に招き入れる。
「いらっしゃい」
「来ても大丈夫でしたか?」
「楓ならいつでも歓迎してる」
「もうっ、嬉しいですけど恥ずかしいからやめてください!」
全然やめなくていいような口調で注意されても……
とりあえず床はフローリングで冷たいので楓はベッドに座らせ、対するおれは勉強用の椅子に腰掛けた。
「そういえば楓がおれの部屋に来るのも大分久しぶりだな」
「お兄ちゃんが受験の時は禁止されてたし、次はすぐにわたしが受験でしたからね」
「ならもうほとんど二年か」
受験前までは毎日のように入り浸っていたからな。時の流れってほんと早い。
「夜も遅いから長居はだめだけど、何かしたいことでもあるか? 前みたいに……って二年前だけど、寝るまで昔話とかでもいいけど」
「それもいいですけど……」
楓は頬を赤らめ、手をモジモジとさせて語気をすぼめていく。
かと思えば意を決したように口を開いた。
「きょ、今日は、お兄ちゃんに甘えてもいいですか?」
部屋に訪れる静寂。
おれはその場にスッと立ち、楓に背を向ける。
(んっんっ/////〜〜〜〜〜!!!)
妹ポジである後輩の、破滅級に可愛すぎる発言にこの男、心の中で盛大に萌えた。
「お、お兄ちゃん?」
「ごめん、十秒待ってくれ」
「あっ、はい。どうぞ」
ーー十秒後……
なんとか心の平静を取り戻したおれは、再び椅子に座って楓に向き直る。
「もう一度だけさっきのセリフ、言ってくれ」
「お兄ちゃんに甘えたいです」
甘えたい発言が強烈なボディブローとなっておれを打ち抜くが、取り乱すにはまだ早い。
先ほど取り戻した心の平静はまだ保てている。
「して、その心は
「お兄ちゃん、口調が変ですよ?」
そりゃ、美少女に目の前で
どこかの
どこかの
大事なことなんで二回言いました。
「………理由は?」
「だってずっと受験勉強で、お兄ちゃんとゆっくりできる機会なんてここ一年少なかったですし」
確かに、言われてみれば去年楓と顔を合わせていたのは、ほとんど家庭教師の時だけだったな。
「……なのに今日のご飯会、お兄ちゃんはお父さんとお母さんとばかりお喋りしてましたし」
久々のご飯会だったから、仁美さんや智和さんと話すことも沢山あったからな。
「端的に言うと、お兄ちゃん成分が足りてません!」
お兄ちゃん成分。
そんなパワーワードに思わず胸がほっこりする。
なんでも欲しいものを買ってあげたくなる愛らしさだ。
「でも甘えるって何をするんだ?」
「まずはこれです!」
そう言って楓が取り出したのは白いフワフワが端っこについた細い竹棒で。
「高校生にまでなって、耳かきか」
「い、いいじゃないですか別に」
楓はおれのベッドをポンポンと叩いて早く〜、早く〜と催促してくる。
まだまだ子供だなあと和みつつ、ベッドの上でお父さん座りをしたところで楓が自分の頭をおれの足に乗せてきた。
「さてと、痛かったら言えよ〜」
「はい!」
絹のように滑らかな髪をかきあげ、耳の穴に竹棒を突っ込んでいく。
「ん………」
耳たぶもプニプニしてて柔らかい……
「ほわっ!」
「あ、ごめん! 痛かったか?」
「い、いえ。そこ、こそばくて気持ちいいので………もっと掻いて欲しいです」
「ここ……か?」
「ほわぁぁ〜〜〜そこですそこ………気持ちくてとろけちゃいますぅ〜〜〜………」
「大げさだなあ」
ホワーッっととろけた表情の楓を見るとこちらまで嬉しくなってくる。
隣の家に住む女の子がこんな理想的な妹キャラだなんて、おれ真面目に前世で世界救ってるかもしれない。
そのまま反対の耳も綺麗にしてあげると、同じように頬を緩め、終わった後も余韻に浸っているのかベッドの上でゆったりとリラックスしていた。
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