第5話 「どう? どう? 欲情した? 付き合う?」






 急いでドアを閉め鍵を閉め、素っ頓狂な格好をした幼馴染を連れてリビングに移動する。


 うん、カーテンはちゃんと閉まってるから外から見られる心配もない。


 そこまでしっかりと確認してから菜々に向き直る。



「どう? どう? 欲情した? 付き合う?」



 対してこのバカ幼馴染はとてもワクワクした表情だ。



「…………逆にそんな格好見せられてそんな気持ちになれると思う?」


「え、オタクってこういうのが好きなんじゃないの? 確か萌え、って言うんだっけ」


「よしお前、ちょっとそこに正座しろ」


「何よ急に。なんであたしが正座なんか……」


「いいから座れ。な?」


「わ、分かったからそんな怖い笑顔しないでよ」



 おれの圧を受け、リビングのカーペットに渋々といった様子で座った菜々の対面におれも同じく正座をする。



「まず最初にだ。今自分がしてる格好が何だか把握してるのか?」


「さあ、適当に選んだから分かんない」


「うさ耳、魔法少女ステッキ、裸エプロン、そして出迎えの一声はメイド。はいここで問題、一体何が間違いだったでしょうか?」


「ちょっ、裸エプロンじゃなくて下にスクール水着着てるから! 変な想像すんなバカ!」



 そう言って菜々は身につけたエプロンをズラして下に着ている水着を見せてくる。胸の辺りに『なな』とひらがなで書かれたゼッケンがしっかりとついてあった。


 その仕草に萌え、ではなくなぜかある種の腹立たしさまでこみ上げてくる。


 何故かって?


 三つ先のおれのセリフを読んでくれ。



「あああ! また増えたよ! うさ耳、魔法少女ステッキ、エプロン、スクール水着 (ゼッケンあり)、メイド口調にツンデレ口調まで! はい! 今の菜々は何が間違ってるでしょうか?!」


「あー、やっぱりニーソも履くべきだった?」


「違う! これ以上増やすな!」


「えー」



 ダメだ、オタク関連の話になるとキャラ崩壊してつい熱がこもってしまう。これ以上菜々にツッコミを入れてはおれの身が保たない。


 冷静に、そうだ一度冷静になるんだ奏人。


 お前は普段もっと物事をクールに捉えているはずだ。



ーースゥ〜〜〜フゥ〜〜〜………



「いいか菜々? 今の菜々は萌え要素が渋滞してるんだ」


「萌え……何?」


「萌え要素。今菜々が身につけてる『うさ耳』『魔法少女ステッキ』『エプロン』『スクール水着』もそうだし、さらには『メイド口調』に『ツンデレ口調』もその例だ」


「ふんふん」


「そこでだ。今の菜々はその萌え要素が多すぎるとは思わないか?」


「え? 萌え要素が多かったらダメなの?」


「何事にも限度がある。例えば料理、極端な例だが牛肉、豚肉、鶏肉を一つの鍋に入れて家にある全ての調味料を入れたとする。菜々はこの料理がおいしくなると思うか?」


「なんかゲテモノっぽいね」


「今の料理の話を萌え要素に置き換えたら、おれから見た菜々の今の格好は十分にゲテモノなんだよ」


「でも最近は猫耳つけたメイドさんもいるって聞いたよ?」


「だからバランスが重要なんだって。なんでもかんでも詰め込んだものが良いって言う方が稀だ」






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