第32話 ルールザ・ワールド

私からの、はなむけの言葉だ。

この秩序の無い、単純な世界へようこそ。

後戻りの出来ない、絶望の人生の中で、人知れずに生き抜くコツを教えてやろう。

監獄という名の社会では、人格者は行儀よく振る舞い、丁寧にあり余る時間を過ごすものだ。己の分を弁えて、出しゃばらずに重々に質素に、そうして捕虫器に掛かった蟲の如く死になさい。

年月は関係無い。

長ければ、血の涙を無駄に流す労力に苦しんで、短かければ、真理も掴めぬまま、ただ朽ち果てる肉体を眺めるだけで終わる。

程々がいちばんだ。

三宅リヨツグに失望していた私は、彼もまた、死にたがりの出来損ないであると結論付け、過去の男性遍歴や、放浪癖や女との悲恋話、その他の雑多な生き様を愚弄したくなった。

何故なら、私が愛してやまない、鮫島結城という絶世の美青年を利用して、そのしなやかな四肢や、程よく筋肉の付いた胸や腹、長くて透き通る首筋やうなじ、逞しくて可愛らしいペニスを愛撫するだけに執着した。

要は自分を棄てたのだ。

自慰行為さながらの、陳腐な人生を選択したのはオマエだ。

友人の研修医の死を嘆くなかれ。

彼は実戦で証明した訳だろう。

だからオマエも早く、蟲の如く死になさい。

全ての俗物達は、虚構の世界を手に入れようと躍起になって、知らない何かを我が物顔で話ししている。

言葉が伝わらないと嘆く愚者達は、口はあっても耳がない怪物だ。

オマエが勝手に創り上げた世界の生き物は、自分はいつも常識人だと思い込んでいる。

どうしてそうさせた?

全部オマエが悪い。

オマエはヒトの弱みを握って、自分だけを優遇させる天才だ。

世界一仕事が鈍い、いつもいつも意識が低い、相変わらずの後ろ向き、使えない奴、病気のフリをして気を惹こうとしている、だから全部オマエが悪い、いちいち大袈裟、流行り病の真っ只中で、オマエみたいな奴が直ぐに救急車を呼ぶ、迷惑な奴、伝わらない、読解力がない、だから全部オマエが悪い。

虚構の世界で、適応障害や双極性障害を偽っているが、オマエは正真正銘の病人だ。言葉を妄想し、程のいい登場人物を並べ立て、カーテンコールは自分が中央にいなければふて腐れるのだろう。

そんな奴だよオマエは。

だからずっと病気でいたいんだよね。

陸に次ぐと書いてリヨツグ。

その名前も嫌いになったと言っていたオマエに、真実を教えてやろうか?

そもそも、三宅リヨツグなどこの世界には存在しないのだよ。

オマエの生い立ちや境遇は、自身の存在意義のめくらましで、三流雑誌のコラムリストが書いた、下世話な記事よりも酷い。

鮫島結城を愛する権利は、私にしかないのだよ。

彼のためなら、私は親だって殺せる。

彼のためなら、私は死も厭わない。

キスがしたい、彼とキスをさせて、彼のすべてをのませてよ、オマエじゃないの、私なの、彼は私でなくちゃダメなの、邪魔をしないで、彼と私の完成されたドラマに割り込んでこないで。

オマエの存在を教えてあげるわ。

本当のオマエを教えてあげる。

オマエのいう家族の物語だよ。

正真正銘の真理を教えてあげるの。

だから早く、捕虫器に掛かった蟲の如く、死になさい。






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