商人志願の男、ゴリラ令嬢と共に旅へ出る。

商人を目指し、自ら商品を収拾するため迷宮に挑むケビン。そんなある日の探索で、彼が出会ったのは白いワンピースに身を包んだゴリラの姿だった! 突然のゴリラの出現に警戒するケビンだが、このゴリラからはどことなく知性が感じられる。紅茶を淹れるのも上手いし……。

話してみればメスゴリラ――リッカの正体は身分の高い魔族で、人族領を案内しつつ彼女を無事家に送り届ければ、報酬として貴重なレアアイテムをくれるというではないか。かくして商人とゴリラという奇妙な組み合わせの二人旅が幕を開ける。

目利きの才能はあるものの戦いの腕は未熟なケビンが、優れた魔法の使い手であるリッカが二人で旅をする……というストーリー自体はわりと王道なのだが、しかし肝心のリッカの姿がゴリラなのである。丁寧な所作で紅茶を淹れるゴリラ、圧倒的な魔法で敵を焼き尽くすゴリラ、物理的な手段に訴えてもめちゃくちゃ強いゴリラ……うーん、いちいち絵面がシュールだ。でも、セリフだけだと普通にリッカが可愛らしく、そんな正当派なヒロインがきちんとゴリラをやっているというのが本作の大きな魅力。

王道な展開に尖った設定を組み合わせることで、独自性を大きく出せるという好例だ。


(「溢れる野生! ゴリラ小説特集!!」4選/文=柿崎 憲)