第2話 ウサギ小屋当番の1回目

「あちぃ……」

 東京の夏はなんて暑いんだ。今日は、私のウサギ小屋当番の日。朝の8時半にウサギ小屋の前で集合する事になっている。

 今日の相方は……っと、そうだった……。

 ――私の苦手な田中だ……。

「よう!」と田中が汗を拭きながらニコニコとウサギ小屋の前に立っていた。

「おはよう、田中。って、なんでそんなに汗だくなの?」

「うん、朝ラジオ体操して、ついでにサッカーの練習もして、思いっきり活性化してきたからな」って笑っている。

 男子って何でこんなに元気なの? 朝から死ぬほど暑いのに、運動しまくるなんて呆れちゃう。


 私は田中が苦手だ。

 だって、どうでもよい事でよく絡んでくるから。例えば、私の顔が卵型で、おでこを出しているヘアスタイルだからって、『卵ちゃん』とか変なあだ名を付けるし、人目を気にしてこっそり隠していた、ズボンの穴を目ざとく見つけ、大きな声で指摘するし。

(あの時は本当に顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったっけ)

 とにかく余計な事をいつも言ってきて私を困らせるから、できれば関わりたくない相手なのだ。


 さっさと当番を終わらせようと思い箒を手に持って、

「さあ、始めましょう」と田中を促した。

「なぁ、吉永まゆか、――じゃなくて、卵ちゃん!」田中がニヤリとこちらを見た。

(ムカっ)

「何よ!」

「おまえ、昨日区民プールにいただろう?」

「いたけど、何? あんたもいたの?」

「ああ、それで思ったけど、おまえ前よりデブになったな」

「はあぁぁ!?」

 信じられない。小学6年生だって立派なレディです! そのレディに向かってデブとは何よ。ついでに言えば身長は伸びたけど、体重は変わってないもん!

 すっかり機嫌を損ねた私は、ウサギ小屋の中を無言で掃き始めることにする。

「おい! 待てよ!」

 無視を決め込む私。

「おい、ウサギをまず校舎内のゲージに退かしてから箒だろう?」

「――分かってるわよっ!」

 箒を地面に乱暴に投げ捨て、ウサギを1匹抱えて校舎へ向かった。

 後ろからは、もう1匹のウサギを抱えて田中が小走りでついてきた。

 うちの学校は、白毛のウサ子とグレー毛のピョンタという名前の2匹のウサギを飼っている。


「デブって言われて何を怒ってるんだよ。本当のことだろう?」

 後ろでブツブツ田中が何か言っていたが、私は一切聞かなかった。

 今日は全部無視するし。ああ、もう本当に田中って苦手。


 でも田中は地域のクラブチームに所属するサッカー少年で、女子に人気あるんだよね。髪型はすっきりとスポーツ刈りで、顔や手足は小麦色というより焦げたパンのように日焼けしていて、女子に言わせるとクールでカッコいいらしい……。

 私に言わすと中身がお子ちゃまなので、全然好きじゃないけどね。

 (ああ、今日は最悪!)

 田中は私の態度を察したようで、それからお互い無言でウサギ小屋当番の仕事を終えた。


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