02_睡眠は休止ではない

 仕事以外はいつも書いていると言っても過言ではない、と述べていたことを覚えていらっしゃるだろうか。

 此処に何故、『睡眠』という、健康的に生きている限り同様に長いはずの時間が含まれなかったか。こうして話題に上げてしまったので既に引かれている気配がするが、説明が終わるまで今回も待ってほしい。私の『文字書き依存症』は、眠ることで必ずしも休止しない。とは言え勿論、手は止まっている。夢遊病者ではない為、眠れば寝返り以外では動かない。ただ、思考が止まっていないことがある。此処は冒頭だからまだ引かないでほしい。驚かせることがこのエッセイの目的ではないので、順を追ってゆっくりと説明しよう。

 二種類のパターンがある。一つ、毎晩の話。もう一つは、瞑想タイムと称している話。しょうもない言葉を使うせいで身構えられているかもしれないが、宗教的な話は出てこないので気軽に読み進めてもらって問題ない。

 まずは毎晩の話。私は毎晩、物語の続きを考えながら。寝る時間になって、『考えるべき続き』を持たないような稀な夜は、どうやって眠ったらいいのか全く分からなくなる。ベッドで目を閉じて横になって、『何をしたらいいか分からない』のだ。今から眠るのだから、するべきことなんて考える必要は無いだろう。何もしなくていいから寝ろと思われることだろう。私も本当にそう思う。だけどその瞬間は、本気で分からなくて、眠れなくなる。だからそうならないように、私は毎晩必ず『考えるべき続き』を用意してから布団に入る。目を閉じて、眠り就くまでずっと物語の続きを考える。朝、仕事が始まる前に文字書きの時間を確保するのは、こうして布団の中で考えた内容を書き出す為でもある。流石に昼や、定時後を待っていたら忘れてしまう。

 ただこの内容では結局、睡眠は睡眠であって、私が言っているのは眠る前の行動だと思われるだろう。確かにそうだ。しかし、私は眠りが浅いこともあり、夜中に幾度となく起きる。何度と数え切れない程に、朝になるまでにふと起きては、寝返りを打って、また眠る。その繰り返しの中で、『ふと起きる』時間全ての思考が繋がっているので、続きはずっと考えている。足したところで大した時間にならないことは分かっているが、正直、朝になると結構先までストーリーが進んでいることが多いので、睡眠時間イコール休止時間という感覚が薄い。感覚の問題であって、本当はちゃんと寝ているのだと思う。深刻な目では見ないでほしい。

 次に、瞑想タイムと称している話。これは神様には全く祈っておらず、無心状態にも程遠い。俗に言えばただの昼寝だ。大体上記と変わらない話にはなるのだけど、ある日、物語が上手く思い描けずに自棄を起こした私は、「瞑想するしかないな、布団で」と、ふざけて言い、ふて寝をしたことがあった。本当にただの戯言でしかなかったが、目覚めたら続きはすっかりと整っていた。ふわふわと寝たり起きたりを繰り返しながら考えていたら、何か物語が良い感じになる。困った時は眠ったらいいのだと私は味を占めた。実際、今までずっとこの手で何とかなっている。しかも「布団で瞑想」「寝てんじゃねえか」という持ちネタまで出来て、一石二鳥だ。繰り返すが本人は至って真面目に生きている。

 以上のような理由で、私にとって『睡眠』はとてもじゃないが休止時間だと思えない。結果、症状の説明をする際、「仕事以外は」と言ってしまう。仕事中にも一つのレーンが物語の続きを考えている場合があるけれど、必ずではないので、仕事中はやはり除外ということにする。

 ところで『考えるべき』を持たずに眠る人は、一体、眠り就くまで何をして過ごしているのだろう。考えるべきことが無くても眠れるものなのだろうか。思い付かない日は不安で仕方が無く、結局は身体を起こしてしまう。何か考えるべきことは無いだろうかと、過去作を読み返してみることもある。そうしたら読み始めた過去作が思ったより面白くて却って眠れなくなったことは少なくない。此処まで来ると依存症以前にただの馬鹿だ。分かっている。だけど、物語も何も無く、思考が完全に無の状態になるというのは、私にとって、耐え難い苦痛なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る