樹の守り神たち(6)

「棗ちゃんが、私のもとに」

 私は入学式の日、あなたと出会った。

「私、見角っていうの」

「梓でしょ、知ってる」

 棗ちゃんは……。

「梓の世界の棗も、なぜか棗という女の子だった。それはどんな作用なんだろうね、私にも不思議」

「棗ちゃんは、なぜ私にはっきり本当のことを教えてくれなかったの?」

「そうね、ひとつはエルクァフゾで直接は物事に手を加えて運命は変えられないこと。そしてたぶん棗は、私の記憶を完全に梓がなくしてることまで予想してなかったのかも」

「そっか、だから」

「なんとか梓自身に思い出して、気付いてもらおうとしたのかな」

「だからパスポートとチケットはそうなるように仕掛けた」

「そうだね」

「椿さん、私やるよ!物語の結末を知ってそれをやり遂げるよ!」

「梓」

「だから!」

「梓、あの物語の結末は、未来のウラシマの悪事を止められる方法が書かれてるわけではないの」

「えっ!そんな!地図なんでしょ!私のやるべき道しるべなんでしょ!」

「あれからガーディアンゴッドたちはね、トピアリーナの樹を植え替えるの。亀や人間たちがとても耐えられない香りを出すチクショウメという植物に」

「そ、そんな……結末が解決策じゃないの?」

「ごめんなさい。けれど棗は、ウラシマの仕掛けた火種ひだねを過去に飛んで消せるのは梓かも知れないと私に言ったわ」

「私が、何をすれば……」

『信じろ、こたえは君の中にある』

「守護神……」

『梓、あのとき棗はセトニアを足元に置いてしまっていたのだ』

「あのときって……あれはやっぱり龍宮塔だったの?!」

『私も梓とあそこに行ってからそう考えるようになった』

「どうして棗ちゃんが大切なエルクァフゾ像を足元に置くの?」

『おそらく……』

「棗は、梓を逃がす条件としてウラシマにそうするよう命令された」

「椿さん、だとしたら棗ちゃんは」

ラウンドのあとにリターンしてこない理由はひとつ」

『いま棗の手元にセトニアはないのだろう』

「つまり飛べないってこと?」

 棗ちゃん、今どうしてるの?

 戻ってこられないの?

 セトニアは手元にないの?

 そこまでして。

 なぜ椿さんも棗ちゃんも、そこまで私を守ろうとするの?

 なぜ?

 梓ちゃんがそう思うなら、面倒で難しいことや、嫌なことから逃げずに向き合おうと思うのなら、私も一緒に行きたい。

「私も一緒に行きたい」

 棗ちゃんはそう言った。

 棗ちゃんは私と一緒に飛ぼうと思ってた。

 一緒なら止められるかも知れないって意味だった。

「あのね、梓」

「はい」

「ジュジュとグロッサの物語は?」

「もちろん読みました。書籍もノート原稿も」

「棗はあの物語が好きだったでしょ?」

「はい、書籍版が読みたいって椿さんの本を。でも不思議なの、棗ちゃんノート原稿は読んでると思うから……」

「あは、そうだよね」

「え?」

「きっと本になったことろを見たかったのかも」

「なんで?」

「棗の木は英語で“ジュジュ・ツリー”で、梓の木は“ベトゥラ・グロッサ・ツリー”になるの」

「ええっ!!」

「あの物語は、棗と梓が姉妹の物語なのよ」

「グロッサは人々を助ける、ジュジュはグロッサを助ける」

「梓は人々を助け、棗は梓を助ける……」

「もう、また泣いちゃうよ」

「棗がね、こんなことを言ってたわ」


「梓がね、私を親友だって言ってくれるの。私すごく嬉しくて、あの子が可愛くて、つい甘やかしちゃうのよ。それで二人で姉妹みたいだねって。もう私自身、あの子との中学生活を楽しんでいて、あの子が記憶を取り戻したら私も一緒に飛びたいって思う」


「棗ちゃん……ずるいよ」

「本人に言わなきゃね」

「はい」

「梓、無理しないでね」

 椿さんは、私が大泣きしたときと同じように優しく抱きしめて、頭を撫でてくれた。今はすごく年が近いのに、その優しい手はおばあちゃんの感触だった。

「いってきます」

「いってらっしゃい、梓。アヌビセス、梓をお願いね」

『まかせてくれ』


 ジャンプ!!


「あっ」

『梓、大丈夫か?』

「同じ自分の家のなのに、今は寂しくて心細い」

『ツバキは私を名で呼んでいたが、梓は変えなくて良い』

「なんで?」

『私の名前は守護神だ。私は梓の守護神だからだ』

「あはは、カッコいいじゃん」


 心細くなんかない、私には守護神がいるから。

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