シンクロニシティ(3)

 数日後の私は、ある重大なことに気が付いて、まるで自分が覚醒かくせいした気分だった。

 あれから数日かかった理由は、パパとママに手伝ってもらって、あの部屋のすべての書籍のタイトルをリスト化したのでした。

 ただ残念だったことは、探している本はなかったこと……。

【樹の守り神たち みかえつばき】

 どうしても手に入れたかったこの本だけ、あの部屋になかったし、秘技ネット検索でもヒットしなかった。

 でもそれだけで終わりじゃない。

 その理由、私はメチャクチャ簡単なことに気付いてなかっただけ。

 私がこの部屋ではっきりと見た、布張りの表紙。

 みかえつばきが、私のおばあちゃん。おばあちゃんは作家先生だった。亡くなる前には、すごくたくさんの絵本や児童書など出版してた。

 そう、出版してたのであーる。

 私のリスト、そこには数多くの出版社が記されてる。

 文学館

 康永社

 秀講社

 ホープ社

 神明出版

 模範書房

 愛文堂

 などなど……錚々そうそうたる顔ぶれ。

 だけどそんな出版社、女子中学生が出向いたところで相手にされるはずない。たとえそれが御神話椿みかえつばきの孫だったとしても……と思う。

 かといって、なんだか気が引けたけど、ママに頼んでみた。

芳名帳ほうめいちょう?何それ?」

「だから梓ちゃんがが言う、弔問ちょうもんしてくれた人のリストでしょ」

「ああ、そんな名前があるんだ……」

「見たいんでしょ、はい大事に扱ってね」

 私はその中から該当がいとうする人たちのお名前をピックアップした。

 自分でも、すごいことをやろうとしてると思った。知らない会社に電話するなんて経験ないし、緊張する。

 でも私は作家先生の孫、胸張ってこ!

 でもそれは、思った以上に簡単だった。何社か電話したくらいから、完全に自分のモノにした感があった。リストが十年前のものでも、その中に退職された方がおられても、対応してくれた方たちは皆が親切だった。

「椿先生のお孫さん?そりゃすごいや、一度出版社に来てみませんか?」

 とても親切な人だった。おばあちゃんの担当を長くやってたという樫原かしわらって人は、私を出版社へ招いてくれた。

「御神本梓といいます」

「いやいや、かしこまらないで下さい。そうですか先生のお孫さん、こんなに大きくなられたんですねぇ」

「ああ、はい。それで、樹の守り神たちって本なんですけど……」

「そうそう、その前にね」

 突然その人の顔が、亀の仮面に変わっていく。

 そのイメージが私の内臓ひとつひとつに違和感を感じさせる。

「ところで、先生が亡くなった理由をあなたは知っているのかな」

「なっ!!」

 私は声を出せなくなった。金縛りにあったみたいに……。

「憶えてないよねぇ、小さかったもんねぇ」

「ご両親からは何も聞いてない?」

「できれば記事にしたくってねぇ、あなたの体験をねぇ」

 亀の顔の男が一人、また一人とどんどん分身する。大勢の亀人間がユラユラ増え続けて私のほうへ近付いて来る。

 何かを欲しがるように、私から何かを奪い取るつもりみたいに気持ち悪い手が私へ伸ばされる。

「みかえつばきは、あなたを……」

「いやー!!もうやめて!!」

 私は部屋を飛び出した。

 どうやってそこまで来たのか全然分からなかったのに、無我夢中むがむちゅうで逃げた。

 ここが何階なのかも考えずに、ひたすら階段を駆け下りた。

 最悪だった。

 あんなに心の汚い大人に出会ったことがなかった。

 私が未熟だった。甘かった。

 そして探してた本は、どこの出版社からも出されてなかった。

「棗ちゃん……私どうすればいんだろ」


『ちゃんと、たどり着いてね』


 そんな……無理だよ。手がかりないよ。あるとすれば……あの本がどうしても見たいのは、なぜなのだろう。でも私の記憶がそう言ってる気がする。

 行動あるのみ。

 またひらめいた気がした。

 

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