6話:この出会いが良い出会いなのかはまだ分からないけど

 そして時は流れ、今日から私たち三人は青山商業の生徒になる。


「姉ちゃん今日から高校生なんだねぇ…」


 しみじみと呟く弟の隣で、一匹の白いポメラニアン—ペットの"つきみ"—が首を傾げて私を見つめる。いつもの制服と違うことに違和感を覚えているような顔にも見えたが、手を差し出すといつものように頭を突っ込んできた。わしゃわしゃと撫で回してふわふわの感触を堪能しているとインターフォンが鳴った。音に反応してつきみが吠える。手を洗って、軽く払ってから家を出る。二人が「おはよう」と笑う。卒業前の登校と変わらない。変わったのは私達の制服と登校先だけだ。


「うみちゃん、やっぱスカートじゃねぇんだ」


 ズボン姿の彼女はもはや言われなければ女子だと気付かない。


「ふふ。カッコいい?」


「おう。スカートより似合ってる」


「だよねー。知ってる。でも夏は多分スカート穿く」


「…俺もそうしたいがちょっと…いや、かなり抵抗があるんだよなぁ…」


「私服でたまにスカート穿くじゃん」


 女装というわけではなく、メンズスカートというやつだ。


「それとこれとは別」


「制服のスカートは特に女の子ってイメージが強いもんね」


「うん。どうしても女装感が出てしまうと思う」


「髪伸ばせば?」


「そうだなぁ…」


 男子の長髪は校則違反とされている学校も多いが、青商はそんなことは無いらしい。


「望、髪伸ばしたら流美さんそっくりになりそう」


「あぁ、分かる」


 流美さんの幼少期の写真を見せてもらったことがあるが、幼少期の望によく似ている。今も、姉弟だと言われなくても分かるくらいよく似ていると思う。


「…姉さんそっくりは嫌だな…あと、髪伸ばしたら手入れがめんどくさそう」


「おう。めんどいよ。私も切りたいもん」


「切っちゃえ切っちゃえ。満ちゃん、ショートも似合うよきっと」


「…ついでだし、それだけ長さあるなら寄付したら?」


「あぁ、ヘアドネーション…だっけ。なるほど…そういう考えもあるか」


 考えたことはなかったが、確かにそれもありかもしれない。


「あー…そっか。私もそうすれば良かったかなぁ」


「…そういやお前、ロングだったな」


 ショートカットの彼女がしっくりきすぎていて忘れていた。あれ以来ずっと長さをキープしている。もう伸ばす気はないのだろうか。問うと彼女は複雑そうな顔して「どうだろう」と答えた。彼女が髪を伸ばしていた理由も、切った理由も恋が関係していたことを思い出す。野暮な質問をしてしまっただろうか。


「…私的には今の髪型が気に入ってるし、伸ばすことは多分もう無いかな」


「…そうか」


 そこで会話がぷつりと途切れてしまった。気まずい空気のまま電車に揺られ、目的の場所に着く。


「三人で同じクラスになれるといいね」


 なんて笑いながら、彼女はクラス分けの表を見に行く。遠ざかる彼女に聞こえないように望が「別のクラスになれるといいな」と、彼女と真逆のことを呟いた。


「七クラスあるんだ。大丈夫だろ。こういうのって同じ中学の生徒はバラけさせるって聞くし」


「そうなのか?空美さんは去年酒井先輩と同じクラスだったらしいけど」


「まこちゃんは?」


「別。一組と七組だったらしい」


「ははっ。ウケる。めちゃくちゃ離されてやんの」


 話していると、うみちゃんが嬉しそうに戻ってくる。その笑顔を見て望は一瞬複雑そうな顔をしたが、結果を聞いてほっとしたように息をついた。私とうみちゃんは一組、望は二組らしい。


「良かったな。ちると一緒で」


「うん。席も近いし。でも、君と離れちゃったね」


「…大丈夫だよ。俺は別に人見知りするタイプでもないし」


「クラス決めってどういう基準なんだろうな」


「成績順じゃないかなぁ」


「一組は優秀な生徒が集まるってこと?」


「そしたら君は七組じゃないとおかしいだろ」と望に鼻で笑われる。


「…クソが…」


「あはは…喧嘩しないの。そうじゃなくて、クラスごとの成績の平均が均等になるように割り振ってるんじゃないかなって話」


「…なるほど。学年代表はどうやって決まるんだ?やっぱ入試トップの人か?」


「んふふ。そうなのかなぁ」


 ニヤニヤしながらカバンから原稿をチラッと出すうみちゃん。


「お前かよ。代表」


「実はそうなのよ」


「…やっぱトップの人なのかもな」


「ふふ。高校でも学年一位は誰にも譲らないからね」


 譲らないも何も彼女は、流石に毎回ではないが度々全教科満点取っていた。全教科で満点なんて取られてしまったら誰も抜かせない。


「オール満点二人いたら順位ってどうなんだろう」


「普段の授業態度とかで決まるんじゃない?」


「じゃあ落ちるな。お前」


「えー!私そんな態度悪くないでしょ。君みたいに授業中寝てたりしないし」


「たまに寝てたけどな」


「本当にたまにでしょ。寝ててもちゃんと問題解けてるし」


 寝ていて解説を聞いていなかったくせに、同じ解説を求められてすらすらと答えたときには教師も引いていた。


「…じゃ、また後で」


「おう」


「ぼっちで寂しかったら遊びに来ていいからね」


 望が教室に入ったのを見届けたところで、うみちゃんが「三人同じクラスじゃなくてよかったね」と呟いた。


「…同じクラスが良かったんじゃないのか」


「…来年は心からそう思えるようになってるといいね」


「他人事かよ。そう思えないのはお前のせいだろ」


「…ごめん」


「謝る相手は私じゃないと思うけど」


「…うん。謝るよ。…いつか必ず」


「…あんま待たせんなよ」


「…うん」


 望もきっと彼女を信じている。だから何も言わないのかもしれないが、その優しさが余計に辛いとこぼした事があった。悪いのは明らかに彼女だ。それを自覚しているからこそ辛いのだろう。しかし私は可哀想だと同情なんてしてやらない。悪いのは彼女なのだから。

 立ち止まる彼女の手を引いて教室に入る。すると彼女はさっきまでの暗い雰囲気が嘘だったかのように明るく「おはよう」と初対面のクラスメイト達に挨拶をした。一瞬静まり返ったあと、まばらに返ってくる。


「あの小さい子、めちゃくちゃ可愛くね?」


「やば…イケメン来た…」


「美男美女じゃん。…付き合ってんのかな」


「手繋いでるしそうなんじゃない?」


 ひそひそ聞こえる声で彼女の手を握ったままだったことに気づき、離す。するとわざとらしく指を絡めてきた。振り払い、彼女を睨むと冗談だよと両手を上げてヘラヘラ笑った。


「えっと、私の席は…おっ、満ちゃん一番後ろじゃん。寝れるよ」


「壁もあるし最高のポジションだな」


「あははー。サボる気満々じゃん。ギリギリで受かったのにそんな余裕こいてて大丈夫?」


「流石に留年はねぇだろ。大丈夫大丈夫」


 話しながらお互い前後の席に着席すると、教室が微かにざわついた。


「…LGBTに配慮するとか言いながら男女で出席番号分けるのは配慮足りてないよね」


 うみちゃんが不満そうに呟く。席は出席番号順で、名前関係なく男子が先に来るようになっている。クラスの男子は大体一クラス10人。つまり、男子が座る席は大体、入り口から順番に数えて10番目くらいまで。廊下側二列目の半分くらいまで。それ以降は必然的に女子になるため、廊下から数えて四列目の後ろの方に座る私達は女子生徒であることが分かってしまう。彼女の言う通り、LGBTに配慮するというのなら出席番号は男女混合にすべきだ。番号順に座ったときに男子と認識される席、女子と認識される席を作るべきではないと言いたいのだろう。


「…まぁ、そこまで考えが行ってたら"LGBTに対する配慮"なんてわざわざ言わねぇよ」


『あの子、LGBTなのかな』『ズボン穿いてるしそうじゃない?』といった声がひそひそと聞こえる。ズボンを穿いてきている女子生徒は彼女以外にもいる。中には縮こまって気まずそうにしている子も。


「…馴染みやすいように配慮されてるはずなのに逆に居づらいなんて、皮肉だねぇ。まぁ、仕方ないか」


「初日だからな。…なんかされたら私がぶん殴ってやるよ」


「あははっ。頼もしい。喧嘩して退学にならないように気をつけてね。私を庇って退学とか、後味悪いから。せっかく三人で同じ学校に受かったんだから卒業まで一緒に走り切ろう」


「…そうだな。気をつける」


「…にしても、炙り出されてるみたいな気分だよ。はぁ…」


「ムラムラしちゃうね」と彼女は私だけに聞こえる声で囁く。


「…イライラの間違いだろ」


「あはっ。間違えた」


「…お前こそ、問題起こして退学になるなよ」


「大丈夫大丈夫。私、優等生だから」


「成績だけな」


『お前ちょっと聞いてこいよ』


『やだよ。マジでそうだったら気まずいじゃん』


 ざわつきの中に混じる不快な声。「帰りたくなっちゃうね」とうみちゃんが低い声で呟く。


「…耳栓要る?」


「えっ、何でそんなの持ってんの。やだぁエッチ」


「いや、耳栓は別にアダルトグッズじゃねぇから」


「目隠しと耳栓はアダルトグッズでしょ」


「目隠しはねえぞ。流石に」


 高校生がする会話ではないが、クラスメイト達はそれぞれ会話に夢中になっている。私たちことは気にしているかもしれないが、会話までは気にしていないだろう。まぁ、別に聞かれたってどうでも良いのだが。すでに私達は—正確にはうみちゃんが—目立っている。あることないこと好き勝手噂される可能性は低くはない。


「…高校でもカミングアウトすんの?」


「うん。隠す気はないよ。とりあえず様子見するけどね。タイミングって大事だから」


 にこにこしているが相当苛立っているのが分かる。


「…今日は望に八つ当たりすんなよ」


「ふふ。…しないよ。ねぇ、今日、来るよね?」


「拒否権なんてないけどね」と彼女は悪魔のような笑みを浮かべる。私が拒否したら「じゃあ望のところ行くね」と言い出すのだろう。


「…クソだな。お前」


「あははー。別に酷いことする気はないよ。いつも通り甘えるだけ」


『好きな人が出来たら終わりにする。君との関係も、望に対する八つ当たりも』彼女はいつもそう言っている。しかし、まだ終わりは見えない。

 そう思っていたのも束の間、終わりの予兆は突然やってくる。


「…また美人来た」


「男子だったりして」


「いや、どう見ても女子でしょ」


 注目を集めながら教室に入ってきた髪の長い女子生徒—女性だと一眼で分かるほど豊満な胸にクラスメイトの視線が集中してしまう—は、黒板に貼られた席を確認するとこっちに向かって歩いてきた。うみちゃんの前の席で止まると椅子を引き、座る。さっきまで騒がしかったうみちゃんも彼女を見て固まってしまった。


「綺麗な子だな」


「…うん。そうだね」


 なんだか様子がおかしい。


「…彼女、知り合い?」


「えっ、ううん。知らない子だよ。あんな綺麗な人一回見たら忘れないよ」


「…ふぅん。まぁ、そうだな」


 恋は突然やってくる。中には、一目惚れというものが存在するらしい。その人を一眼見た瞬間に恋に落ちる。私には理解出来ないが、うみちゃんは今まさに前の席に座った彼女に一目惚れをしたのかもしれない。そんな気がした。




 入学式を終えると、HRの時間を使って自己紹介をすることになった。


小桜こざくら百合香ゆりかです。小さい桜に百合の香りと書いてコザクラ ユリカと読みます。えっと…私の中学からこの高校を受験したのは私一人だけで…知り合いが誰一人いなくて不安なので、どうか皆さん、仲良くしてください。よろしくお願いします」


 不安そうな表情でそう語るのはうみちゃんの手前の席の生徒。小桜さんというらしい。「綺麗な名前」とうみちゃんが呟く。


「…次お前だぞ」


「分かってるよ」


  小桜さんが席に着くと同時に立ち上がり、前に出る。いつものように胡散臭い笑顔を浮かべて、明るい声で挨拶を述べる。


「鈴木海菜です。昔から、みんなからは王子と呼ばれてます。ちなみに身長は180㎝超えてます」


 彼女が身長を言った瞬間、教室がざわつく。担任もぎょっとした顔で、彼女の爪先から頭までを目線でなぞり「何食ったらそんなデカくなるんだ?」と恨めしそうに呟いた。担任の三崎みさき先生は男性だが、彼女より頭ひとつ分小さい。彼女は担任の問いに苦笑いして「バスケ部だったからですかね」と答えた。


「あ、えっと。男か女かどっちなの?ってよく聞かれるんですけど…身体は女です。それに関して違和感を覚えたことはありません。けれど、女性らしさを求められるのは苦手です。かといって男性扱いしてほしいわけでもありません。女性でも男性でもなく、鈴木海菜という一人の人間として接してほしいです。一年間、よろしくお願いします」


 誰かが「なんだLGBTじゃないんだ」と、何処か残念そうに呟いた。席に戻るとすっと笑顔の仮面が剥がれ落ちる。


「…次、満ちゃんだよ」


「大丈夫?」と聞くのは野暮だ。聞いたってこだまのように「大丈夫」と返ってくるのは分かっている。

 返事だけして、彼女と入れ替わりで壇上に上がる。「可愛い」と誰かが呟いた。そんなことは知っている。よく言われる。だけど、大体はという言葉もセットで付いてくる。可愛いと言われるのは嫌ではないが、下心の孕んだ"可愛い"はうんざりだ。だから私は、お前達の望む守ってあげたくなるようなか弱くて可愛い女の子なんて1ミリも演じてやらない。見た目と中身のギャップに落胆したければ勝手にすれば良い。


「月島満です。さっきの王子とは幼馴染で…幼稚園からの腐れ縁です。私もあいつと同じで、女扱いされるの苦手です。守ってあげたいとか言われると虫唾が走ります」


 クラスメイト達が唖然とする中、うみちゃんは笑いを堪えていた。うみちゃんが気になっていた小桜さんはボーっとしている。緊張しすぎて聞いていないのか、はたまた興味が無いのか。


「見た目は可愛いのに性格がキツくて残念だとか、大人しくしていれば可愛いとか色々言われますけど、そういう輩のために大人しくなる気はありません。あと、私が可愛いのは世界の常識なんで、謙遜もしません」


 一部のクラスメイトは、なんだこいつ…と言わんばかりに冷ややかな視線を向けるが、うみちゃんは私と目が合うと、心からの笑顔を浮かべて親指を立てた。


「イメージと違って引いた人もいるかもしれないっすけど、私はこんな感じです。一年間、よろしくお願いします」


 イメージと違ったとか後から言われるくらいなら、最初からそんな期待なんてぶっ壊しておいた方が良いに決まっている。時には期待に応えるために自分を偽ることも必要だなんて分かっているが、私にはそんな器用なことは出来ない。


「ふふ…満ちゃん…最高…」


「いつまで笑ってんだよクソが」


「いや…ふふ…」


 別に彼女を笑わせたくてやったわけでは無いが…笑ったことで少しでも気が紛れたのならそれは良かった。






「…よし。これで全員終わったな」


 今後の日程を確認して、出席番号1番の男子生徒の号令で一日が終わった。

 帰ろうとうみちゃんに声をかけようとすると、彼女は「小桜さん」と、今まさに立ちあがろうとした前の席の彼女に声をかけた。


「なぁに?鈴木さん」


 持ち上げかけた腰を下ろして振り返り、首を傾げる。


「あ、ごめん。急いでる?」


「えぇ。母を待たせてるから」


「そっかぁ…」


「…なぁに?」


「いや。…えっと…」


 気まずそうに口籠もるうみちゃん。もしや、引き留めたのは無意識だったのだろうか。


「君と話してみたいなぁと思って」


 小桜さんは目を丸くした。沈黙が流れる。返事に困っているようだ。


「…入学早々ナンパしてんじゃねぇよ」


 彼女を小突く。


「ナンパって失礼な。ごめんね引き止めちゃって。また明日、学校でね。私の名前覚えていてくれてありがとう」


「学年代表に選ばれてた人だもの。印象に残ってるわよ。…私も、あなたと話してみたいと思っていたの」


 小桜さんがそう言った瞬間、うみちゃんの身体がびくりと跳ねた。


「声かけてくれてありがとう。明日ね」


「えっ…う、うん。また明日ね」


 荷物を持って私達に手を振って急ぎ足で教室を出て行く彼女をうみちゃんはいつものような笑顔で手を振って見送るが、彼女が居なくなると「私もあなたと話してみたかったの」と彼女の言葉を復唱した。


「…私と話してみたかったって」


「良かったじゃん」


「うん…へへ…」


 これで私達の関係も終わるのか。それは少し寂しいが、約束は約束だ。仕方ない。

 そう思っていたのだが…




 その日の夜。約束通りベランダを飛び越えて彼女の部屋に行く。部屋に入るなり「待ってたよ」と抱きしめられて耳にキスをされた。


「…ちょ、ちょっと待った…今日、するの?」


「えっ、逆にしないと思ってたの?」


「…好きな人が出来るまでって約束だったじゃん」


 それとも、彼女が小桜さんに惚れたと思ったのは私の勘違いだったとでもいうだろうか。


「…流石の君でも気付いちゃうかぁ…」


「…じゃあやっぱり、恋なんだな?」


「…うん。私、小桜さんに一目惚れした」


 彼女はあっさりと認めたが「でもごめん、延長させて」と言って私の肩に頭を埋めた。その身体は震えていた。また失恋することに怯えているのだろうか。


「…いつまで?」


「…気持ちに整理が着くまで。…この人と付き合いたいって、心から思えるまで」


「今は違うのか?」


「今は…気になる程度だよ。付き合いたいと望めない。まだ彼女のことをよく知らないのも大きいけど…それ以上に怖いんだ。付き合いたいって思うのが。…お願い…もう少しだけ…」


「…お前が良いならいいよ。私は別にお前とこういうことするのが嫌なわけじゃないし」


 むしろ、続いてほしいとさえ思ってしまっている。これは口に出さない方が良いだろう。

 しかし、また失恋してしまったらどうなるのだろうか。この関係に戻るのだろうか。戻れるとしても、フラれてほしいなんて邪な感情は湧いてこなかった。彼女には幸せになってほしい。心から笑っていてほしい。こうやって触れ合う相手は、彼女でなくとも構わない。最悪、居なくたって死にはしない。寂しいが。なんなら、女性と触れ合いたい女性向けにがあるらしい。とはいえ、お金を払ってまで触れ合いたいとは思わない。

 などと、抱かれながら色々考えていたが、やがてそれは快楽の波に攫われてそれ以上は何も考えられなくなってしまった。





 事を終えて眠ってしまった彼女の寝顔を見つめる。今日はなんだかいつもより激しかった。悪く言えばしつこかった。けど、私の心はいつも通り。いつもと違う彼女にときめいてしまう事はない。

 ふと、数ヶ月前に流れ星に願いを乗せたことを思い出す。望は言っていた『俺の願いは叶ったから二人の願いも叶うかもしれない』と。気休めだと思っていたが、彼女の願いは『私達に良い出会いがありますように』というものだった。小桜さんとの出会いが良い出会いだったのかはまだ分からないが、もしもあの日の願いが届いた結果だというのなら、やはり私もちゃんとした願い事を考えておけばよかったかもしれない。

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