はずれスキル「ゴミ強化」で、ゴミ扱いされて追放された俺が鬼強化された。ついでにゴミ扱いされた美少女たちも鬼強化したらいつの間にか最強パーティになって、実家から帰ってきてほしいと言われたけどもう遅い。

アメカワ・リーチ@ラノベ作家

第1話



「今日は、最高の1日になるぞ」


 俺の父は、なんの疑いもなくそう宣言した。


 俺、レイ・レノックスは今年で18歳になる。

 

 多くの人間にとって、18歳の誕生日というのは、数ある誕生日の一日でしかない。

 でも俺にとっては違う。

 俺は生まれながらに“選ばれし者”だったからだ。


 俺の手の甲には、剣の印が浮かび上がっている。

 この印を持つ者は、18歳の誕生日になると神様から“ユニーク・スキル”を授けられる。


 ユニークスキルは、努力では絶対に手に入らない特殊なスキルだ。



 俺の父親、アルバート・レノックスもユニークスキルの持ち主だった。

 父は“神聖剣”のユニークスキルを得て、大戦で活躍。たった一代で公爵にまで上り詰めた。


 平民が最高位の貴族になれてしまうほどの力。それがユニークスキルだ。


 俺は、そんなユニークスキルを手に入れることが確定している選ばれし者。


 ちなみに俺の異母弟であるマルコム・レノックスも印を持っている。


 だが、父親の期待は、長男で嫡子である俺にかかっていた。

 そのせいもあるのだろうか、マルコムは剣や魔法を磨こうとはせず、毎日街で遊んで暮らしていた。

 まぁ、それでもユニークスキルがあれば、通常食いっぱぐれることはないので、その後の人生について心配はないのだが。


「神託に行く前に、寄るところがある」


 父親はそう言って、俺とマルコムを街の外れに連れてきた。

 そこには奴隷商人の店があった。


「父上、こんなところで何を?」


 俺が聞くと、父は「仲間を買いに来たに決まっているだろう」と答えた。


 戦闘系のスキルを持つ者の多くが、冒険者としてギルドに登録することになる。

 それが身を立てる王道だ。


 そして冒険者は、ダンジョンを攻略したりクエストをこなすために、パーティを組むのが一般的だ。


 そのメンバーを、ここで「調達」しようというのだろう。


「もちろん、下級の使いっ走りではないぞ。この日のために用意させたとびきりの奴隷だ」


 そう言って、父親は奴隷商人の店に入っていく。


 すると、中から出て来たのはハットをかぶり黒メガネをかけた小太りのおじさんだった。


「お待ちしておりました、閣下。さぁさぁ、こちらへ」


 俺たちは早速、店の奥へと案内される。

 階段を降って、地下へと入る。すると左右に鉄格子がいくつも並んでいて、そこに奴隷たちが入れられていた。


 奴隷はもちろん見たことがあるが、奴隷商人の店に来たのは初めてだ。


 ――なんとも陰湿な場所だな。


「あちらでございます」


 俺たちはある檻の前に案内される。


 中に座っていたのは――黒エルフの女性だった。

 人間にはない美しさを備えているが、その目つきはどこか怪しげだった。


「これは……なかなかのものだな」


 父はそう感心する。


「魔力が高く、パーティでは強力な味方になってくれることでしょう。見た目もこの通り絶世の美女ですから、夜のお供にももちろん……ぐへへ」


 奴隷商は、そう笑いを漏らしながら説明した。

 その様子に俺は嫌悪感を抱く。


「素晴らしい。こいつを買おう」


 だが、父は満足げな表情を浮かべた。


「ありがとうございます」


 そう言うと、奴隷商は檻を開ける。


「さぁ、新しいご主人様にご挨拶だ」


 奴隷商が言うと、黒エルフは立ち上がり、父に向かって頭を下げる。


「アラベラと申します、ご主人様」


 すると、父は首を振る。


「アラベラ。お前の主人は私ではない。このレイだ。ユニークスキルの印を持っている。将来大勇者になる男だ」


 すると、アラベラはその妖艶な視線を、俺に向けてくる。

 そして次の瞬間、俺の腕を取って自分の胸に引き寄せてくる。大きな胸の膨らみを感じるが、しかし嬉しいと言う気持ちはこれっぽちも浮かばなかった。


 ――あるのは警戒心だけだ。


「どうぞ、よろしくお願いいたします」


「ああ……」


 奴隷だからと差別する気は全く無い。

 だがこのエルフは、どうにも信用できないと直感的に思ってしまった。


「さて、それでは神託へ行こうか」


 と、父は踵を返そうとする。


 だが、その時だ。


 ある檻の中から咳き込む音が響いてきた。


 そして、次の瞬間その檻の中から声がする。


「ご主人様……。どうか、水を……」


 アラベラが入っていた檻の斜め前から、掠れた声が聞こえてきた。


 ――中に入っていたのは、茶色の髪をした少女だった。


 ただの人間ではない。

 その証拠に、頭には二本のツノが、腕や足の皮膚には茶色の細かい毛が生えている。

 クワガタ人間、とでも言えばいいのだろうか。

 

 少女は、ろくに水や食料を与えられていないのだろうか、かなり衰弱した様子だった。


「黙れ、虫ケラが」


 奴隷商は、少女を怒鳴りつける。

 すると少女はヒィッと声を殺した。


 その様子を見て、俺は思わず、口挟んでしまう。


「……どうやら弱っているようです。食べ物を与えてあげることはできませんか?」


 だが、その提案を奴隷商は一笑に付する。


「あの者は虫と人間のキメラです。多少水や食べ物を与えなくても、生きていけます。本当に、誰が作ったの知りませんが、なんの用途もないゴミでございますから、無視していただければ」


 そう言って、奴隷商は歩き出す。

 父もマルコムも、それに続いた。


「さぁ、レイ、行くぞ。時間がない」


 と父が催促する。


 ――俺は思わず檻の中の少女見つめる。

 今の俺に、彼女を助ける力はなかった。


 だが――強く、彼女を助けなければと思った。


 俺は後ろ髪を引かれながら、奴隷商の店を後にする。



 †


 俺たちは、その足で神殿へと向かう。


 豪華な建物に入ると、神官が出迎えてくれる。

 父は、領主と言うこともあって神官にも顔が利くのだ。


「さぁ、待ちに待った神託の時だ」


 父は意気揚々と俺たちを見た。


「では閣下。まずは、弟のマルコム殿から」


「ああ、わかった」


 マルコムは、神官に導かれて水晶の前に立たされる。


 神官が反対側にたち、水晶に手を当てる。


「さあ、神が与えし、その力は――」


 全員の視線が神官に集中する。

 そして、


「――ッ! マルコム殿のユニークスキルは、“神聖剣”です!!」


 その言葉に、誰もが息を飲んだ。


「“神聖剣”! よくやった!!!」


 マルコムに対して父は満面の笑みを浮かべた。


 “神聖剣”は、父が持っているのと同じスキルだ。

 ユニークスキルの中でもレア度が高いスキルで、その力は別格と言われている。


 実際、歴代の大勇者は、ほとんど“神聖剣”を持っている。

 父もまた“神聖剣”で公爵の地位まで登りつめたのだから、その力の強大さはわかろう。

 

 それまで剣の稽古もサボりがちでほとんど期待をかけられていなかったマルコムだったが、流石に“神聖剣”の持ち主となると話は変わってくる。


 マルコム自身も、まさかの結果に驚いていたが、しかしようやく認識が追いついて来たのか、満面の笑みを浮かべていた。


「さて、それではレイ殿」


 さぁ、いよいよ俺の番。


 俺は水晶の前に立ち、今か今かと神官の言葉を待つ。


「……さて、レイ殿のスキルは――」


 神官が水晶を覗き込む。

 そして次の瞬間、驚きの表情を浮かべた。


「こ、これは…………」


「ど、どうしたんですか」


 思わず聞き返す。


 すると、困惑した表情で神官が答えた。



「……レイ殿のスキルは…………“ゴミ強化”です」




 それを聞いた瞬間、何かの聞き間違いと思った。

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