第2話 マンションの隣人

 ――チッ! 意味不明な事ほざきやがって! 胸糞悪いぜ。


 この場に居ても埒が明かない為、学校を後にする。


 現在、わけあって一人暮らしをしている為、食材を買わねばならない。馴染みのあるスーパーへと足を運ぶ。


 ――今日は色々と疲れた。さっさと飯食って寝よう。


 インスタント食品や冷凍食品などをカゴに入れ、レジへ向かう。いつも通り、レジの女性店員の手が震えている。俺の顔付きだけでこの有様だ。今ではもう慣れた。深々と頭を下げる店員に軽く会釈をし、店を出た。


 そこから家まで徒歩十分。一人暮らしにおける苦労などを考えていた。


 一人暮らしをしている理由は俺のオヤジにある。クソ頑固な父親で、幼少期から厳しく躾けられた。武道の師範だったオヤジは俺が三歳になる頃から武道を習わせた。そのおかげで今の強さがあるんだが。

 そんなオヤジが、俺の高校入学を受け、急に提案してきた。


『総一郎! 一人暮らしをしろっ! 金は出すっ! 親には一切甘えず、一人で生き抜いてみろっ!』


 その結果がコレだ。金には不自由していない家だった為、マシなマンションを借りてくれた。それは良いが、家事ができない俺はとても苦しんでいる。もうすぐ二年ちょっとになるが、未だに克服できていない。毎日の飯は惣菜やインスタント食品などを買って食べる事が多く、作れる物とすれば目玉焼きぐらいか。悲惨な状況だ。

 そういう奴こそ嫁を貰え、と思うか知らないが、大の女嫌いの俺は、それでも一人の方が遥かにマシだった。


 自宅のマンションに辿り着く。十階建ての高層マンションだ。俺はそこの七階に住んでいる。エレベーターに乗り、七階を目指す。


 エレベーターが開き、真っ直ぐに伸びた通路の途中に誰かがしゃがんでいる。


 ――誰だ! 何やってんだよっ!


 無視を決め込むつもりだったのだが、


「あっ!」

「――ッ!」


 不意にその誰かから声を掛けられ、俺は驚く。


 ――コイツ! さっきの女。何でこんな所に。


「総ちゃん……」

「止めろっ! その呼び方!」

「……」


 女がしゃがみながら下を向く。


 ――ココ、俺の部屋の隣じゃねえか。コイツが隣とか、最悪だな。


 だが、俺には全く関係ない。そう思っていた筈なのに、俺はとてもバカな事をしてしまう。何を思ったのか、


「どうしたんだ?」

「えっ!?」


 そう尋ねてしまった。泣かせた事に対して罪悪感があったからかもしれない。


「カギ、落としちゃったの……」

「はあ!?」

「昨日の夜、ココに引っ越してきた時に渡されたんだけど、いくら探しても見つからなくて……」


 つまりは締め出しという事か。


「家族は一緒じゃないのか?」

「うん。引っ越しを機に一人暮らしさせて貰ったんだぁ。総ちゃんと同棲する為に」


 ちらちら俺の事を見てくる。


「俺は知らんからな! 自分で何とかしろっ!」

「うぅぅ……」


 また下を向く女。このままでは朝までこの状況だろうな。


 ――チッ! 何でこんな目に……。仕方ねえなぁ。


「おいっ! 入れっ!」

「えっ!?」

「女が朝まで廊下に居たら危ねえだろうがっ!」

「総ちゃん!」

「だから! その呼び方は止めろっ!」


 俺が玄関を開けて先に入り、女が後から付いてきて鍵を閉めた。すると、


「総ちゃん! ありがとう! だーーーいスキっ!」


 女が俺の背中に抱きついてきた。


「止めろっ! 放しやがれっ!」


 俺はすぐに女を振りほどき、部屋の奥へと逃げる。女が追いかけてきて、


「ねえ……ホントに覚えてないの?」

「しつこいぞっ! 知らねえって言ってんだろうが!」

「……」


 また泣き出しそうな顔で下を向く女。これだから女は嫌いなんだ。


「じゃあ、小さい頃に公園でよく遊んだ子の事は?」

「ガキの頃? あんまりよく覚えてねえけど……」


 女から言われ、俺は昔の記憶を辿る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る