第10話【ヴィルデの悩みとゴードンの勧誘】
sideヴィルデ
「はぁ〜。
私は何してるんだろう?
こんな事をするために軍に入った訳じゃないのに……。」
ヴィルデはそんな悪態をつきながら机の上にそびえ立つ書類の山に目を向ける。
ヴィルデは一年前、22歳という異例の早さで少佐に昇進した。
それ自体はとても喜ばしい事なのだが、そんなスピード出世を良く思わない者も多くおり、地味な嫌がらせを多くされている。そしてその一つとして書類仕事を押し付けられる。
本当、人の嫉妬や妬みは嫌になるとヴィルデは渋い顔をしながら軽く頭を左右に振る。
コンコン
さて、作業に戻るかとペンを持ち直したところでこの部屋のドアがノックされる。
「はい」
「スコール少尉であります!」
「入れ」
「はっ!失礼します!」
「どうした?」
「ゴードン・ネニュファール様がヴィルデ少佐とお話をしたいと応接室でお待ちです!」
「わかった。
下がっていいぞ」
「はっ!失礼します!」
「ゴードン様が私を訪ねるてくるだなんて珍しいですね。
どうしたのでしょう?。
まぁ、どんな要件であれネニュファール騎士団の騎士団長殿をあまり待たせる訳にも行きませんよね」
ヴィルデはインクの着いたペンをペン立てに置き席を立つ。
「さて行きますか〜」
そして、一度大きく伸びをして書類仕事で凝り固まった肩や腰を軽く解した後、部屋を出てゴードンの待つ応対室に向かた。
「失礼します。
ヴィルデ・ブラムブル少佐、ただいま参りました」
ヴィルデは、応接室に入りゴードンに挨拶と敬礼をする。
「おう、久しぶりだな。
今日は仕事の話じゃねぇから楽にしてくれ」
「はい、わかりました」
ゴードンから仕事の話では無いと言われ少し態度を緩めゴードンの向かいのソファーに腰を下ろす。
「早速だが、お前にお願いがあるんだ」
ヴィルデがソファーに座った直後、ゴードンが話を始める。
「はい、何でしょうか?」
「軍を辞めて家で働かねえか?」
「はい?」
ヴィルデは、突然の勧誘に素っ頓狂な声が漏れてしまった。
「前々から大将さんからお前の事で相談されててな。
ヴィルデに軍は向いてねーから何かいい仕事があったら紹介してくれってさ」
ゴードンが言う大将とはセンプレヴェルデ王国で王国軍大将、ゾイレ・プルガトリオの事だ。
「……私は軍に向いてないでしょうか?」
ヴィルデは振り絞るような弱々しい声でそう質問する。
「まぁ、向いてはいないだろうな」
「そうですか……」
ヴィルデの質問に対してゴードンが出した答えは肯定だった。
ヴィルデも薄々自分は軍にむいていないのではないかという懸念はは持っていた。
だが、それを認めたくない気持ちあり、それに蓋をしていた。
「お前も重々分かってるだろうが軍ってのは汚ねえところだ。
お前のように心の底から誰かを守りたいと願ってる奴は上に行けば行くほど少なくなってくる。
金、名誉、地位。
そんなことしか考えてねえ奴らばっかりだ。
他を引きずり下ろし、自分がのし上がることしか考えてえ」
「……」
「そんな中でやっていくには、お前は優しすぎる」
「……はい」
ゴードンの言っていることはヴィルデも肌で感じていた。
それが、誰かを守りたいと言う気持ちだけで軍に入り、今まで頑張ってきたヴィルデには苦痛だった。
「話を戻すがお前に向いてそうな仕事を持ってきてやった。
初めに言っておくが、これら強制じゃない。
断ってくれても全然構わねえ」
「……内容を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ。
まぁ、端的に言えば家のちびっ子のお守りだ」
「ちびっ子?
お守り?」
ヴィルデはゴードンから飛び出した単語に困惑していた。
(ゴードン様は独身で、養子をとった話も聞いたことが無い。
それにお守りとはなんの事だ?
護衛?
それとももっと単純に遊び相手?)
「すまん、いつもの癖でな。
ごほん。
ネニュファール家の長女、エレスティーナ・ネニュファールの家庭教師件護衛だ」
ヴィルデが困惑している事を察知したゴードンが慌てて修正を入れる。
「家庭教師件護衛ですか?」
(私は軍に所属してるぐらいだし護衛に選ばれるのは分かります。
だけど、家庭教師もですか)
「そうだ。
詳細や給料については兄貴と相談してくれ。
あと、この仕事は住み込みが条件だ」
「その仕事は……私に向いているとおもいますか?」
ヴィルデは弱々しい声色でゴードンに質問する。
「さあな。
何事もやってみないとわからんさ。
別に直ぐに決めろと言ってるわけじゃねーし、一度見学というか体験してみるのもありなんじゃねーか?」
「……はい。
少し考えさせてもらってよろしいでしょうか」
「おう。
じゃ、俺の話はこれだけだから行くわ。
また、近いうちに会える事を願ってるよ」
そう言い残してゴードンは勢いよくソファーから立ち上がり左手をヒラヒラと振りながら部屋を出ていった。
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