29.呪われし不老の旅人、世界を癒す。 Edyさん作

Edyさん作、【呪われし不老の旅人、世界を癒す。】


 本作は一人の不老の旅人に焦点を当てた短編集で、視点主は毎回第三者となり不老の旅人を見ていく形になる。これ自体は特に問題はなく、魅せ方としても俺は好きな方だ。ただし良くも悪くも10000字と少しの間では目立った特徴らしい特徴はない。


 強いて言うなら説明的な言い回しが多く、毎回新しい視点主の背景に注目せねばならないので、そこが読者目線だと面倒に感じるのではないかと思った所だろうか。後々に出て来るとしたらたぶん登場人物の名前や背景は、俺なら忘れてしまっていると思う。出すとしたら、読者の印象に残りやすい特徴的なキャラにしなければならないだろうかとも思う。


 群像劇の難しい所は登場人物に深みを持たせねばならず、しかし小説の場合だとそれゆえに読者に要求する情報量が多くなっていく事だ。登場人物を絞り、なおかつ一話一話がもう少し長くても良かったんじゃないか、と思うがそれだと展開がダレる事もあるだろうから一概には言えない。


 ただ、率直に書くと主人公がとても魅力的に見えるかと言えば、そうでもない。10000字で見た範囲内だと「通りがかった普通の人」だった。それが主人公の良さだというのなら、表現方法は正解だったと思う。始めの話はどちらかと言えば爺さんが魅力的に見えて、主人公は添えてある感じのようだった。


 視点主に合わせて文章の言い回しが変わる事もあって、毎回新鮮味が持てる事自体はとてもいい事だと思うし、先ほども書いたが特筆すべき悪い点があるとは思わない。それに展開が気にならないような書き方ではないので、短編物としてさっくり読む分には良作だと思う。


  *


 最近執筆がままならない。

 忙しないというより、新しい事を始めて見た結果、それが軌道に乗ったといったところだ。本来は喜ばしい事なんだが、代わりに俺を出迎える更新日が一か月近く前の小説を見て虚しくなってしまう。


「拓也、忙しそうだな」

「忙しいよ、本当に忙しい」


 背中に貼ってる湿布を思わず擦った。駈けずり回って色んな人の場所に行って……まぁ順調な証拠なので、素直に喜べる一方で「もうこんなに時間を使ったのか」とカレンダーを見て驚いた。

 そんな俺を見て啓馬は笑いながら「良い事じゃないか」と肩を少し乱暴に叩いてきた。そして、俺にビニール袋を差し出す。目線を下げれば、中には缶チューハイが何個も入っていた。

「そうだ、これ居るだろ」

「貰っとく」

 と言っても、飲み干すまでどれくらい時間が掛かるかは分からないが。


「あ、そうだ、レビューのメール見たぞ?」

「どうだった?」

「大体その通りなんじゃないかと思ったけど、文体についてはどうだったんだ?」

「まともというか、普通だったと思うぞ」

「なるほどね」

「悪いな、打ち合わせが出来なくなって」

「いいっていいって、俺から始めた事だから俺が合わせるのは当然だろ」


 そこまで言った啓馬はからからと笑ってペットボトルのお茶を傾けた。


「じゃ、次でラストだから、最後までよろしくな」

「あぁ」


 いつもより短い話を終えて、時計を見ると夕方の5時に差し掛かっていた。今の俺の頭の中には夕食の事と、明日の打ち合わせの事、そして違う事が頭に過っている。帰ってもする事がある。それは疲れもあるが、同時に俺に充足感を与えてくれたのだった。

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