26.ブルークォーツァイト 青澄さん作

 俺の名前は静井 拓也。冴えないアマ作家だ。


 今日は色々と荷物が届いているので、潰した段ボールが隣で積み上がり始めている。中身は……まぁ、お茶とか水とか、別に冷凍サーモンなんかも届いた。これでしばらく食べるのには困らなさそうで、実にありがたいと同時に申し訳なくなる。

 時刻は昼頃、少しの間休みを取ったおかげもあってか、体調はまぁまぁ良好だ。


 こんな日はレビューに限る。体調が良い日にやってしまわないと、後から悪くなった時がめんどくさくなってしまうからだ。


「って事でレビューまとめてきたからアップロードよろしく」

「おぉ、俺から振る前にまとめてきたのか。って……なぁ、あの段ボールの山、何? 爆買い?」

「俺にそんな金あると思うか?」

「だよなぁ、ケチな拓也がこんな買う訳ないし……何か送るのか? 同人誌? いや、それこそ金ないから無理だな」

「うるさいな……貰い物だよ、里見さんからだ」


 里見さんは俺の学生時代の先輩だ。歳の割に妙に落ち着いてる人で料理上手。旦那も居るんだが、その旦那さんとも仲良くしてるせいか、たまにこうやって食材が届く。一人暮らしで、年齢はそう変わらないはずなのに、里見さんとはまるで親戚と学生の間柄みたいで恥ずかしさも湧くが……俺は「貰えるもんは貰う」人なので、ありがたく頂戴してる。

 啓馬もその事は知ってるので「あぁ」と思い出したような顔をした。


「またか、あの人も面倒見良いよなぁ」

「だな……」

「って事はバターもあるだろ、一箱貰っていいか?」

「俺が貰ったもんだぞ」

「良いじゃん、菓子作りに使いたいんだよー。分けてやるからさー。頼むよー」

「気色悪い声出すな。ほらレビューするぞ、レビュー!」

 寒気のする猫撫で声でバターを狙い出した啓馬の気を逸らそうと、俺はスマホを用意した。


 今日レビューするのは、青澄さん作、『ブルークォーツァイト』だ。


「で、感想は?」

「まず最初の感想として……申し訳ないけど、俺はこういう視点の切り替えが多いタイプの小説が結構苦手なんだよな」

「ありゃま」

「それにプラスして三人称なのも手伝ってかなり淡々として進むから……正直なところ、世界観に踏み込むなら気合が必要だと思う。俺とは相性が悪い事もあって、今回は10000字と少し読んだが、個人的に読み進めていくのが少し難しいと感じたな」


「うーん……そこらへんの具体的な話は抜きにして、まず内容は?」

「まず10000字近くは世界観の説明が大半で、近代日本に似てるが所々で退廃した場所があり【データプレート】と呼ばれる情報を圧縮したプレートが存在する世界で、それを巡る話っぽいな。説明はあったんだが、死者が出るほど戦う事があると言っても、10000字見た限りはそこまで激しい描写がある訳でもなかったな」

「ディストピア系かつ情報社会の話か」

「普通の学校もあるし、設備が全部死んでるって訳でもなさそうなんだがな」


「文体的にはどうなんだ?」

「至って普通な感じがする。たださっきも書いたが三人称視点で、背景の説明も必要最低限かつ淡々と進んで行く上に場面は結構変わるから、世界観に入り込もうと思ったらその矢先に切られるような印象を受けたかな。なるだけ視点は一視点(一人だけ)に絞った方が流れ的にもスムーズになりそうだ」

「でも淡々と進んで行くって事は、前に拓也が話してた『黙々と読み進めていくタイプの小説』って事じゃないのか?」

「世界観との相性の問題だと思うんだよ。前にレビューした話は復讐もので、凄惨な悲劇だからこそ黙々と陰鬱に暗く語っていいけど、重厚な世界観は読者を引き込むのが重要だと思うぞ」


「テンポは良いと思うけど、世界観の構築が説明オンリーって感じがする。さっきも話したけど、死者が出るような激しい戦闘もないのに【データプレート】がそこまで重要な物だって印象が少し薄いんだよな。そこの導入が無いのはいくら世界観が細かくても、入れ込むのが難しくなってる要因になりかねないんじゃないかな」


「世界観は良いし説明はしてるけど、どうにもそこに入り込むための導入が少し少なく思えたって感じか?」

「そういう事だな、ただこれはさっきから言ってる通り10000字で見た限りだから後に戦闘描写もあるかもしれない。けど、俺は後に挟むのだったら先に挟んだ方が良いんじゃないかと思うな……俺からは以上だな」



「ところでお前、同窓会って行くのか?」

 データをアップロードした啓馬にそう訊かれて「あー……」と間の抜けた声が漏れた。そういえば葉書きが着たけど、どうするか決めて無かった気がする。しかしまぁ、なんとなくあぁいう場は苦手だった。だからか次には「止めとく」と答えていた。

 啓馬は俺がそう答えたのを納得したかのように頷いていた。

「まぁ……忙しいもんなぁ、皆。あそこ殆ど、自分の店とか個人展とかの宣伝場所になってるし」

「宣伝……」

「作品の宣伝でもしてみるか?」

 ステージの上でマイクを持ってハキハキと、溌剌はつらつに喋っている自分が思い浮かばなくて慌てて首を横に振った。

「止めとくよ、恥ずかしいし……第一、友達に頼むのってなんか邪道な気がする」

「もったいないなぁ」

 啓馬は答えが分かっているようではあったのか、そう言いながらもあまり残念そうには言わなかった。

「まぁでも、ハードル高い事はせず地道に頑張るのがお前らしいよ」

「そうか?」

「何事もコツコツと、無理しないこった」

 そう言って啓馬は肩を揺らしながら笑って見せた。

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